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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー  作者: きつねうどん
第3章 故郷
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第参拾肆話 墓場

「望海、お願い!私の依頼やっておいて!お礼にアイス奢ってあげるからさ!」


「仕方ありませんね。ほら、早く再テスト受けて来てください」



「それで、光莉の代わりに望海がやってるって訳か」


放課後の学校での会話を終え、喫茶店で光莉が受けた依頼者名簿を望海が確認していた。


「私が行ける所なら良いのですが、微妙に担当場所が違う物もあるんですよね。児玉さん、3件分其方に回せますか?」


「こればかりは仕方ないからな。分かった、こっちで引き受けよう。他の依頼は大丈夫そうか?」


児玉の言葉を聞いて、もう一度依頼内容を確認すると望海は可笑しな事に気づいた。


「可笑しいですね。日時や待ち合わせ場所は書いてあるのに、依頼者の名前も行き先も書いてない」


「はぁ?新規や匿名は別に珍しい事でもないが行き先が書かれていないのは可笑しな話だ。場所は壱区の水行川(すいぎょうがわ)か。俺も望海も行けない事はないが、待ち合わせまで後30分。正直、気は進まない。それ以上に来な臭い。無理に依頼を受ける必要はないだろう」


「ですが、依頼人の手違いと言う事もありますし。もしこれで最悪、大事な人の死を見取れないと言う事になってしまったら一生後悔すると思います。私だけでも言って、依頼人に話を聞いて来ます」


「そうか、気をつけて行ってこいよ」


望海が待ち合わせ場所に移動すると、ベンチに腰掛ける初老の男性がいた。前で杖を突き、そこをじっと動こうとしない。

恐る恐る近くによると、男性は顔を上げこちらを見つめてくる。


しかし、精気がない。瞳は暗闇に満ちていて蝋燭の微かな灯りさえ見えず、望海は恐怖した。


「思ったより早かったな。運び屋というのは皆、時間に厳しい。私はもう少し、時間にゆとりがあってもいいと思うが其方さんの都合なら仕方あるまい」


「あ、あの。依頼人の方で間違いはありませんか?代理でお伺いしたものなのですが」


「左様。この歳になると、若者と会う機会も無くなる。この老耄(おいぼれ)に時間をかけてくれる者も。金なら幾らでも出す。言い値で構わない。どうかこの私にお嬢さんの時間を貰えないか?」


下手の立場で言われているのにも関わらず、重圧を感じるのは何故だろうか?この人は只者ではない。

本能的に、直感的に恐怖と不気味さを感じるのは何故だろうか?


「あ、あの。もしかして、目的地を書かなかったのも」


「私はお嬢さんと話をしたいだけだ。ベンチに腰掛け、20分間程度話をするだけ。ここは私が昔住んでいた場所だ。思い出話を聞いて貰いたい」


「...それで?貴方はどうするんですか?」


なんとなく、望海はこの人の命がそう長くないと感じた。

だから最後に思い出話をさせて欲しいと言って来たのかもしれない。


「私はもうすぐ死ぬ。この歳になると最期の事ばかりを考える。私はこの穏やかな故郷で静かに息を引き取りたい。ただそれだけだ」


「お断りします。私は運び屋です。人の死を看取ったり、火葬屋のような事をするつもりはありません」


「...そうか。若者には死を考え受け止める機会もないか。立ち話もなんだ。横に座りなさい」


望海は男性との距離を取りつつ、慎重に同じベンチに腰掛けた。


「あの、死ぬというのはどう言う事なのですか?ご病気か何かですか?」


「違う。しかし、分かるのだよ。自分の命がそう長くない事を。直感的に本能的に、いつか近いうちに迎えがくる。そう思い、感じているのだ」


「私には貴方の気持ちが良く分かりませんし、理解しようとも思いません。命が惜しいとは思わないのですか?何か、後悔はないのですか?」


「後悔?そんなものありすぎて死ぬまでに片付けられる物ではないし、しようとも思わない。姉が連れ去られ、遊郭に売られた時から生きた心地がしなかった。もう何十年前の事だ」


「!?」


その言葉に望海はこの人物が誰なのか?過去の会話からある程度検討がついた。

しかし、どうして彼が此処にいて覇気のない、抜け殻の状態になっているのか?それが望海にはわからなかった。


「…貴方。鶴崎真紅郎ですね。貴方は秋津基地の人間だ!どうして此処にいるのですか!?比良坂町に何をしに…」


「そう騒ぐな、お嬢さん。私も昔は此処の人間だった。他の奴らも同等だ。皆、故郷を追われ幼い頃に軍に連れて来られた」


「貴方達がこの町で悪さを働くのは、自分達の比良坂町を取り戻す為ですか?故郷を追われた恨みを私達にぶつけている。そのようにしか思えません」


「そんな単純な物ではない。少し、私の話を聞きなさい」


鶴崎は危険な人間だ。

秋津基地のトップであり、これまでの惨劇を企んだ張本人。

正直言ってここから直ぐに離れたい。

警戒する望海を見て鶴崎は溜息を吐きながら立ち上がった。


「少し、私について来なさい。私の首をお嬢さんに見せよう」


「首?どう言う事ですか?」


鶴崎に連れられ、移動すると以前望海が見た事がある物に辿りついた。


「これが私の門だ。これを破壊すれば私はもうこの町に来る事はないし、お嬢さんが望めば私の執務室まで来て殺す事も出来る。もし、もう一度私と話がしたくなったらいつでも歓迎する。合言葉は「135」覚えておくといい」


「...分かりました。私も少し、感情的になっていたように思います。考える時間をください。貴方の誠意、感謝します」


「では、私はこれで。ありがとう、お嬢さん」


そのまま鶴崎は門の中へと消えていった。




一言:今作、登場人物は乗り物をモチーフにしているので「のぞみ」などの新幹線の愛称は勿論ですが、人魚の末裔には客船、秋津基地の軍人には航空会社をもじった名前をつけていますので元ネタをご紹介します。


花菱姫乃→ダイヤモンド・プリンセス

(蒼い鱗を持つ人魚の姉は姉妹艦サファイア・プリンセスが元ネタで造船所の火災により、納入が不可能となり。名前を入れ替える形で此方が先に1番艦として納入されたのが元ネタです)


日向葵→さんふらわあ

(さんふらわあは様々な航路がありますが、大洗→苫小牧の航路の印象が強いので苫小牧には王子製紙という大手の製紙メーカーがある事から連想ゲームで紙→雑誌・新聞→出版社→記者・ジャーナリストという風に考えキャラ付けを行いました。蝦夷も苫小牧のある北海道の昔の呼び名ですね)


鶴崎→日本航空・JAL

全斎→全日空・ANA

百地→ピーチ

音無→ソラシドエア

久堂→エアドゥ

富士沢→フジドリームエアライン

後は、ちょい役でジェットスターが登場予定です。

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