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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー  作者: きつねうどん
第3章 故郷
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第参拾参話 雛鳥

「...ここは」


「あっ、目が覚めました?5日間程、寝込んでいたんですよ?」


愛に目の前で手をヒラヒラと翳される。

意識が戻ったのか、初嶺はムクリと起き上がった。


愛と目が合い、数秒が経過した後、彼は口を開いた。


「母さん?」


「...えっ!?」



「愛君、それは何だい?雛鳥のように後ろについてるのは?」


「は、初嶺朧のようなのですが、どうも様子がおかしいようで。私の事を母さんと呼ぶんです」


「それは良かったじゃないか。もうそろそろ1人立ちしてゆくゆくは私のように弟子を取りたいと言っていただろう?丁度良い、世話をしてあげなさい」


「ちょっと、黄泉先生!私に彼を押し付けるつもりですか!?」


口論になる2人を見た初嶺は間に入り、仲裁しようとする。


「父さん、母さん。喧嘩はダメだ、仲良くしないと」


「冗談もやめたまえ。君のようなデカい息子を持った覚えがない。自分で言うのもなんだが私は子供が好きだ。皆から「Dr.黄泉」「黄泉先生」と言われると気分が良い。私に好かれたいならそう呼びなさい」


「...」


突然、黙りコクってしまった初嶺に2人は危機感を感じた。


「まさか、冗談じゃないんですか?」


「不味いな、零央君の拳は記憶をも粉砕してしまったみたいだ。そもそも、生きている事自体奇跡みたいな物だからね。脳の検査をしなければ」



「き、記憶喪失ですか!?」


Dr.黄泉が研究所に戻っていると聞いた望海は圭太と共に初嶺の様子を聞いていた。


「零央パンチがかなり効いたみたいだね。でも、そうでもしないと姉貴の命も危なかったし結果的には良かったんじゃない?」


「自分の名前も覚えていない程、重症だったからね。一応、全斎の資料も見せてみたが首を傾げていた。リハビリメニューは組んでみたがあまり期待しない方がいいだろう」


「では、秋津基地の情報についても彼に聞く事は出来ないと言う事でしょうか?」


「今の状態では無理だろうね。何か記憶を思い出すきっかけがあると良いんだけど」



「ご機嫌よう。貴方が初嶺朧さん?はじめまして、敷島節子と申します」


挨拶がしたいと言う節子の願いを叶える為、愛は初嶺を彼女の元へと連れて行った。


「元々、秋津基地にいらしてたんでしょう?比良坂町の事、貴方に知って欲しくて案内させて欲しいの。記憶喪失な事は知っているわ、景色を見て何か思い出せる事があると良いんだけど」


「...貴女から花の匂いがする。なんだか、懐かしいような」


「まぁ、ラベンダーの匂いがお好きなの?もしかして、貴方北部の生まれ?彼処にはラベンダー畑があるの一緒に行ってみましょうか?」


「節子お嬢様、もしかしてお2人で行くつもりですか!?人魚がいないとはいえ、初嶺は危険な存在ですよ。護衛をつけた方が」


「俺が行く」


話を聞きつけた隼が颯爽と駆け寄ってきた。


「まぁ、隼さんもラベンダー畑がお好きなのね。じゃあ、3人で行きましょう」


「節子嬢、貴女は危機感がなさすぎる。どうして初嶺を構うんだ?俺達が初嶺のせいで倒れたのは知ってるだろう?」


「貴方の為よ」


「は?」


「初嶺は貴方を凌駕する程の運び屋よ、そんな彼から今後協力を得られたら全体の強化。特に貴方の強化にも繋がる。そんな気がするの今は分からないけどね」


「アイツと仲良くしろって言いたいのか?俺は反対だ、そもそも記憶が飛んでると言うのも怪しい。油断したら節子嬢も同じ目に遭うぞ」


「それならそれで仕方のない事だわ。貴方の気持ちも良く分かる。仲間を思う気持ちも、だからと言ってこのチャンスを無くすのも惜しいと言うの。今は私の考えに従ってはくれないかしら?」


隼は少し考えを巡らせたが、やはり節子には敵わないと溜息をつきながら了承した。


「はぁ、今回だけですよ」


「ありがとう、貴方ならそう言ってくれると思ってたわ」


そのあと、節子達3人は北部のラベンダー畑へと向かった。

鮮やかな紫の絨毯が皆を穏やかな気持ちにさせてくれる。


「どうかしら?何か思い出せる事でも?」


「...私はずっとこの景色に辿り着く事を昔から考えていたような、誰かに此処に帰りなさいと言われていたようなそんな気がするのです」


「それは、本来は此処の生まれだけど別の場所にいて此処とは無縁の生活をして来たっていう解釈で合っているか?」


初嶺が秋津基地にいた事知る隼は、遠回しに答えを言った。

遠回し言うのは、正解を押し付ける事が初嶺にとって良い影響になるとは限らないと思ったからなのだろう。


「貴方の言葉を聞いて少し思い出しました。薬莢と草木が燃える匂いそれが私の日常的に嗅いできた匂いです。花の匂いなど私には無縁の存在だった」


「そんな事ないわ、知ってる?嗅覚というのは五感の中で1番記憶に残っている感覚なんですって。それを今貴方は思い出しているだけなのよ。焦らなくて良いわ、これから貴方がどうしたいのか?ゆっくり考えてみてね」


節子の優しい問いかけに初嶺は頷いた後、自身の考えを述べた。


「私は助けていただいた愛さんの助手となって今後は皆さんの力になりたいと考えています。そしていつか、貴方がた2人に恩返しがしたい。自分の使命を果たしたい。今はそう思います」


その言葉に節子は笑みを浮かべ、隼は反対に何か考え事をしている。


「初嶺、なら俺に協力してくれないか?」


「協力?私に出来る事ならいくらでも引き受けますが」


「ずっと考えていた計画があるんだ。それが俺に可能かシュミレーションをしてもらいたい。此処の近くに北部で栄えている地域がある。大きな川が流れる地域だ。そこまで行動範囲を伸ばしたい。だが、俺も多忙だ運び屋業務もある。そこで初嶺、お前の出番だ」


「まぁ!面白そう!成る程、彼なら時間もあるし隼さんの代役に相応しい。いいえ、それ以上の成果を持ってきてくれると思うわ。私からも頼めないかしら?これは貴方にしか出来ない事だと思うの」


そのあと初嶺は目的地である地域を目視で確認する。


「了解しました。ご期待に添えるよう尽力致します」




一言:初嶺朧の元ネタである「ALFA-X」は元々、北海道新幹線の札幌延伸の為に作られた試験車という事でこちらでも勿論やってもらいます。

「大きな川」というのが札幌がアイヌ語で“乾いた大きな川”という意味があるそうなので記述しています。

個人的に細かく地名を付けすぎると後で破綻した時に怖いので今は暈していますが、今後は昔の呼び名や語源になった物を作品に登場させると思います。


ここで一緒に延伸計画についても触れておきます。

この物語は整備新幹線である北海道・北陸・西九州が計画通り延伸してる前提で逆算して人の配置を行っているので

①北海道新幹線・札幌延伸

②北陸新幹線・大阪延伸

③西九州新幹線・博多延伸

他にも④リニア中央新幹線・名古屋から大阪(奈良経由)ルート

   ⑤上越新幹線・新宿延伸

は出来るだけ描写を入れたいなと考えています。

ファンタジーだからね、お金とか土地の問題とか気にしなくて良いのでやりたい放題出来るのは良いですね。

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