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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー  作者: きつねうどん
第2章 最恐と最強の運び屋
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第参拾弐話 天使

「零央くん、何で此処にいるの?どうやって?」


「れお、これをつかったんだ」


そのあと、彼は付けている腕輪を見せた。

望海は食い入るように見るどころか、その腕輪の仕組みを探ろうとする。


「これ、Dr.黄泉の発明品に似てる。...まさか、あの緊急会議の後に渡されたの?あの、馬鹿圭太。零央くんを巻き込むなんて、まだ幼い子供なのに」


嫌悪感を示す望海に零央は慌てて否定の言葉を返した。


「のぞみおねえちゃん。これはぜんぶ、れおがきめたことだよ。けいたやよみせんせいにいわれたからじゃない。れおもパパのちからになりたかったんだ」


「...そうですか」


確かに、望海も同じ事を何度も思った事がある。

零央と同じ5歳頃、自身の父親が病で亡くなった。

苦しそうに床に付す父親を見て、自分がどれだけ無力なのかと思い知らされた。


父親の前で涙を流す事しか出来なかった自分を安心させようと無理に笑顔を作ってくれた父を思えば、零央のしている事はとても立派な事だ。望海が彼を止める権利はないだろう。

圭太もその気持ちを尊重したのかもしれない。


「分かりました。でも、私はこれから初嶺の所に行かなければいけません。正直言って、厳しい戦いになると思います。零央くんを守る余裕もないでしょう。自分の身を自分で守れるのなら私と一緒について来てください。それが無理なら帰ってください。お父さんを私が呼びますから」


望海の警告に零央は怯えるどころか、彼女の手を握り一緒に初嶺の所に向かおうとする。


「だいじょうぶ。のぞみおねえちゃんはれおがまもるから」


「?」


答えのようになっているようでなっていない言葉を言われ望海は少々混乱したがその言葉が正しかった事を後々知る事になる。


「のぞみおねえちゃん、こっちにひとがいるよ」


「ですから、何で分かるんですか!?」


零央はナビゲートを使い、簡単に初嶺の場所を特定してしまった。

指を刺した場所は弾薬や武器が保管された倉庫のようだった。

当たり前だが、初嶺もずっと演習場にいるという事ではない。

逆にそれは望海にとって好都合だった、上手くいけば奇襲も可能かもしれない。


「零央くん、入り口で待っていてください。私だけ中に入りますから。いいですね、絶対に此処から入ってはいけませんよ」


「うん!れお、やくそくはぜったいまもる!」


その言葉に望海はホッとし、中に足を踏み入れた。


【コード:700 承認完了 妖刀村正を起動します】


妖刀村正、最も危険であり持ち主の精神を支配しようとする恐ろしい刀だ。

しかし、その分強力な力を授けてくれるのもこの刀だ。

望海とってこれを使う事は最終手段に値する。

それだけ切羽詰まった状況なのだ。


「...運び屋。いや、この前の方達とは違う。貴女じゃない。私を落胆させないでください」


【コード:956 承認完了 無銘太刀を起動します】


「(くっ、早い!動きが追いつけない!)」


少し前まで10m先までいたのに一気に距離を詰められ、対応に遅れた望海はどんどん押されていく。

妖刀のお陰でギリギリ対応出来ているが、もう膝が地面につきそうなぐらい押されている。


「もういいでしょう。私を飼い慣らせる存在は運び屋の中にはいない。貴女方の存在意義などありません。大人しく死んでください」


【コード:956 承認完了 Lv.8に変更します】


「(不味い!このままじゃ本当に殺される!誰か!誰か!!)」


「れおパンチ!」


【コード:000 自動承認 怪力を発動するね!】


いつ移動したのだろう。屋根をも貫通して零央がこちらへ急降下してくる。狙うは初嶺の頭部だ。


あまりの速さに恐怖するほどの勢いだったが、巻き込まれるのを望海は恐れ咄嗟に初嶺から離れた。


「悪あがきを...は!?」


初嶺が振り向いた真正面に零央がいた。


「のぞみおねえちゃんをいじめるな!!」


「ぐあぁぁぁぁぁ!!」


初嶺の頭部がそのまま地面にめり込んでいく。

助かったのか?安堵の気持ちもあるがそれ以上にこんな小さな男の子にこんな恐ろしい力が眠っていた事に驚きを隠せなかった。


「...零央くん、いいえ零央様。その荷物お持ちしましょうか?」


「パパがね。いつもおかいものするときママのにもつをもってあげるんだ。だかられおがやりたい!」


「いえ、あの。成人男性を軽々と持ち上げる幼稚園児は零央くん以外いないと思うのですが」


浮遊と怪力の力を使ったのか気絶した初嶺をおんぶする零央を望海は冷や汗を掻きながら見ていた。


「(これ、児玉さんが見たらどういう顔をするんでしょうか?)」


とりあえず、景品のような扱いで初嶺を協会へと持ち帰る事にした。


「あの、Dr.黄泉。医務室のベットは空いていますか?」


「うわぉ、これは派手にやったね。愛君、器具の準備を」


「はい。流石、児玉さんの息子さん!やっぱり私達が見込んだ通りでしたね」


そんな光景を同じく隼達3人が呆然と見ていた。


「これ、全部望海がやったのか?」


「そんな訳ないでしょう?詳しい話は後でしますが、私が追い詰められた所を零央くんが助けてくれたんです」


「へぇ、あのガキンチョ良くやったの!おたんこなすの翼とは大違い!」


「誰がおたんこなすっすか!?まぁ、でも2人が無事で良かった。そういえば、児玉さんと光莉が2人を探してたっすよ。「何処にもいない」って。さっき、顔合わせばかりだしまだ近くにいるでしょ。行って来たらどうっすか?」


「あっ、そうだ。零央くんが此処にいるって事は児玉さん、私が壱区に行った事知らないんでした。零央くん!お父さんの所に行きましょう。それで、その能力の事。ちゃんとお父さんにお話ししましょうね」


「うん!」


医務室を出て、協会の入り口付近に2人を見つけた。


「望海!零央くん!良かった、心配したんだからね。玉ちゃんが隼達の話を聞いて初嶺の所に向かったんじゃないかって、慌ててたんだから」


「ご迷惑をおかけしてすみません。初嶺の件は何とかなりそうです。今、昏睡状態で医務室に運びました」


「じゃあ!望海が初嶺を倒したんだな。鼻が高いぞ望海、流石俺の弟子だ」


その児玉の言葉に望海は首を横に振った。

その反応を見て2人は首を傾げる。


「誤解しないように言っておきます。確かに私は初嶺の元に向かいました。戦いました。でも、妖刀村正を使っても動きに追いつくのがやっとで死を覚悟しました」


「じゃあ、どうやって初嶺を?」


望海は側にいる零央の肩を優しく掴み、彼の目線に合わせしゃがみ込んだ。


「もしかして、零央くんが!?でも、どうやって?」


「Dr.黄泉から腕輪形の武器を受け取っていたそうです。それぞれ、ナビゲート、怪力、浮遊の能力を発動させる事の出来る優れもの。零央くんもそうですし、先程Dr.黄泉からも話を伺いました。私の考えが合っていれば比良坂町の壁を全部撤去させたのは零央くんだよね」


その言葉に零央は中々首を縦には振らなかった。

というのも、この話を聞いて自分の父親がどう思ったのか知りたかったのだろう。零央はジッと児玉の瞳を見つめていた。


一瞬、彼の瞳に怒りが見え望海も零央も怖気ついていたが光莉が児玉の肩をポンッと叩き、冷静にさせた。


「玉ちゃん、怒るのはいつでも出来るけど零央くんの話を聞けるのは今しか出来ないよ。叱ったらもう二度と同じ話が出来なくなる。自分が悪いってちゃんとわかってるから。そうでしょ?」


そのあと、児玉は深呼吸をし零央の目線に合うまでしゃがみこんだ。


「正直な話、文句を言いたい事は沢山ある。零央、お前のお母さんが体が弱いのは知ってるだろう?」


「うん」


「父さん達は知っての通り周りより早く結婚したけど、中々子供には恵まれなかった。ずっと、母さんは自分を責めてた。「何で出来ないんだろう」って。そんな時、やっと授かったのが零央だった。だから、未熟な人間なりに愛情を沢山注ぎたいと思ったし大切に育てたいとも思った。特に此処は危険な町だ。常に危険が付き纏う。零央には絶対に運び屋にさせたくないってずっと思ってた」


「パパ、ごめんなさい」


しかし、その言葉に反して児玉は首を横に振った。


「心の何処かでは気づいてたんだ。零央は良い子だ。俺達が言った事を素直に受け止めて約束を守ってくれる。今もこうして俺に謝ってくれる。俺達の方が零央に甘えてたんじゃないかって」


「...児玉さん。私、零央くんから聞いたんです。運び屋になるのは誰かに言われたからじゃない。パパの、児玉さんの力になりたいからって」


「玉ちゃん、私達が運び屋として未熟なのもあるけどなかなか家に戻れない時もあるでしょ?それでも時間を作って零央君を幼稚園に迎えに行ったり、一緒に喫茶店で過ごしたりしてるでしょ?それでもさ、足りないんだよ。もっとお父さんと一緒にいたいんだよ。それはさ、愛情不足とかじゃなくてお父さん事を尊敬してるから、愛してるからそうしたいし、そう思ったんだよ。そうだよね?零央くん?」


「うん!れおはね、パパのことだいすきなんだ。おしごと、たいへんなのしってる。だいじょうぶかな?っておもうときもあるけどおしごとをしてるパパはかっこいいから、ちかくでみたいんだ」


「...零央、そうか。ありがとう。零央が自分で決めて望んだ事だ、俺は止めない。自分が続けたいと思う限り続けなさい。俺は零央を信じるから。此処には頼もしい人達が沢山いる。親の言葉に盲信する必要も、従う必要もない。自分が今、信じたい事や物と近い考えを持つ人の話を聞きなさい。ちょっと、零央には難しいかもしれないけど大事な言葉だ」


そのあと話は終わったのか、児玉は深く息を吐きながら立ち上がった。

自分の事を認めてもらえた事が嬉しかったのだろう、零央からは笑みが溢れていた。




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