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鉄壁の運び屋 壱ノ式 ー三原色と施錠の町ー  作者: きつねうどん
第2章 最恐と最強の運び屋
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第弐拾漆話 不思議な8日間

「海鴎、ここにいたのか。手紙を読んだが、僕には理解出来ない事ばかりだ。君には独特の世界観があるのは知っているが、今までのとはまた違う内容になっているな」


場所は肆区の教会、今日も十字架の前で祈りを捧げる彼を亘は見守っていた。

教会内のステンドグラスは太陽の光を受け、輝いている。

その光の下に彼、海鴎はいた。


比良坂町では珍しい容姿と風貌を持って生まれた彼は西洋人の母を持つ混血児でもあった。

母親の影響もあり、日曜日は此処で祈りを捧げている。

白の祭服に赤のストールが印象的な青年だ。


「七星様、救世主(メシア)が現れたのです。この混沌とした比良坂町に新たな力を持った運び屋が生まれたのです」


「成る程、それは喜ばしい事だな」


「単なる運び屋ではありません。これまでのとは違う大きな力を感じます。望海様や隼様とはまた違った存在。その存在が私達を導いてくださるでしょう。ですがそれだけではダメなのです」


「ダメ?何がいけないんだ?」


「これから先、私達は大きな壁にぶち当たる事になるでしょう。救世主は心優しく、慈愛に満ちています。ですが、それに頼るのではなく自分達で行動してこそ真の成長と言えるのではないでしょうか?」


「確かにそうだが、当てはあるのか?」


その言葉に海鴎は笑顔で頷く。


「はい。私はこれから肆区の中心街へ向かいます。私にとって未到の地。これからは頻繁に其方で七星様達との交流を図りたいと考えています」


その言葉に亘は驚いている。

海鴎は元々、他の3人とは違い単独で行動するタイプの運び屋だった。

その為、亘はこのように海鴎の様子を見に顔を出している。

しかし、何の因果か今になって自分達と交流したいと言い出したのだ。しかも、海鴎から。


「無理をしている...と言う訳でも無さそうだな。何故、今更そんな事を?」


「人を動かしたいなら、まずは自分から動くべきと考えまして。私だけではありません。他の運び屋の方々も何か思惑や計画があるようす。まずは私が先陣を斬る事にしたまでです」


「海鴎は元々不思議な人だと思ってはいたが、益々分からなくなってきたな」


「私の事を嫌いになりました?」


「いいや、興味深いなと思っただけだよ。分かった、僕も協力しよう。こう言うのは早い方がいい」



「圭太、天使を見ると幸せになれるって噂。学校で聞いた事ありますか?」


珍しく、姉弟揃って一緒に夕飯を摂っている時に望海はポツリと呟いた。


「僕の所は男子校だし、そんなファンシーな噂は聞いた事ないよ。何?姉貴、幸せになりたいの?僕は姉貴とこうして穏やかに過ごしている時が一番幸せだと思っているんだけど、姉貴はそうじゃないの?」


「そう言うつもりで言ったのではありません。級友が壁の近くで小さな男の子を見たそうです。その子は空を飛んでいて、天使のように見えたそうなのです。なんか、それがずっと引っかかってて」


「姉貴、天使なんていないよ。なにか、鳥と見間違えたんじゃないの?あっ、姉貴。漬け物が入った皿、僕の方に寄せて」


「はいはい。...っ!?」


その時だった、一瞬何かに押し上げられるような揺れに襲われる。

正座の状態で身体が浮き上がる程だった。


「おっと、派手に揺れたね。今日は調子が良くなかったのかな。途中で集中力が切れたのかも」


「...圭太。何で冷静でいられるんですか!?火事の次は地震なんてこの町はどうかしてます」


腰が抜けたのか望海は珍しく圭太に縋りついている。

圭太は落ち着かせようと望海の背中を摩った。


「姉貴、大丈夫だよ。そんなに怖いなら、今夜一緒に寝る?」


「寝ません!今日だけの事なら引きずるような事もありませんし」


「...姉貴、最悪この状態が8日間続く事になるよ。それでもいいなら、僕も止めやしないけど」


「...え?」


圭太の意味深な言葉に望海は戸惑いながらも、就寝し明日を迎える事になった。


「よし、忘れ物もありませんし。弁当も大丈夫ですね。圭太の分は台所に置いてありますし、行きましょう」


通学をする為、望海は準備を済ませ戸締りをした後、通学路の方へ振り返った。


「あれ?」


望海は目を擦り、壁の方を何度も見ているのだが何故か遠くにあるように感じる。


「可笑しいですね。あんなに遠かったでしたっけ?」


「姉貴、どうしたの?良かった、上手くいったみたいだね」


玄関から同じく準備を終えた圭太はスタスタと自身の学校の方へ行ってしまった。


「お、おはよう御座います。節子さん」


「ご機嫌よう、望海さん。今日はいい天気だし、風も気持ちいいからここに来たのだけど正解ね。見て、ここ私が落ちた所よ。こんなに綺麗になるなんてびっくりね。どなたがやってくださったのかしら?お礼を言わないと」


その又次の日、壱区と弐区を塞いでいた2枚の壁は何も無かったかのように取り除かれ跡地に、新たな道路側溝が出来ていた。

節子は鼻歌を歌いながら日傘をさし、散歩をしていた。


「よっす、望海。ねぇ、弐区にあんことバターを沢山乗せたトーストがあるって本当?」


「えぇ、そう言えば希輝さん甘いものに目がないんでしたっけ?ハルキクにもありますし、案内出来ますけど...何で誰も突っ込まないんですか!?何で弐区と参区も開通してるんですか!?」


「いいじゃん、喜ばしい事だし。誰がやってるのかわからないけどさ。アタシとしては甘味巡りが出来て超ご機嫌なんだよね」


そのあと、あの地震の日も合わせ8日間で壱区から肆区を塞いでいた壁はまるで元々なかったかのように取り除かれてしまった。



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