表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/78

第弐話 中央集会

一言:今夏、東海道新幹線の車内チャイムが変わってしまうそうですね。あの曲じゃないと安心して東京駅に帰ってきた気がしません。

「望海!もうちょっとで反省文書き終えるから!待ってて!」


「もうちょっと...って後5分で会議が始まるんですが」


案の定、今朝教師に髪型を指定され反省文を書く光莉を近くで見守る望海がいた。


「ここにいましたのね!(あずま)望海(のぞみ)!」


次から次へと慌ただしい。2人のいる教室の扉を開けズカズカと入り込んできたのは望海の同級生、花菱(はなひし)姫乃(ひめの)だった。

最近、望海に付き纏い。声高に会話を続け、彼女を困らせている。

会話の内容はいつも一緒、そして今日も始まった。


圭太(けいた)さんはいつこちらにお戻りになられるの?早く、彼の歌舞伎が見たいと皆言っているのよ?」


「それは申し訳ありません。思ったよりあちらでの反響が良かったみたいで、追加公演をすると聞いていますので数ヶ月間は滞在するかと」


そう苦笑いしながら質問に応じていた。

圭太というのは望海の双子の弟の事である。

歌舞伎界の新星である彼は例外としてこの比良坂町から出る許可を取得している。

現在は文学と時計塔で有名な国に滞在しており帰国は未定である。


姫乃は圭太に好意を寄せており、望海に彼の事について色々と問いただしてくるのだ。

彼女との会話が終わり、姫乃が去るのと同時に光莉は鉛筆を手放した。


「よし、終わった!やばい、後2分しかない!」


「早く先生に提出して協会に行きましょう」


すぐさま瞬間移動で学校を後にした。


今日の集会の会場である協会は、比良坂町内でも歴史的建造物として(そび)え立っている。

赤レンガに白枠の窓、他にも同じ建築家が設計した銀行がとある2人の集合場所として利用されている。

屋上庭園も存在し、そこを好む運び屋もいるんだとか。

しかし、そこから見える景色は地層のようにグラデーションがかったコンクリート制の壁であり。

何を目的としてそこに足を運んでいるのかは不明である。


「ふぅ、ギリギリでしたね。残り20秒なら問題ないでしょう」


「大問題だ!!10分前に来てる人達だっているんだぞ?2人を待ってる間どれだけヒヤヒヤした事か」


「ごめんて、玉ちゃん」


先に到着し、心配していた児玉を2人は慰めた。

彼は、今日の集会メンバーの中でも比較的長身だが威圧感はない。

それは彼の性格が関係しているのだろう。彼は堅実をモットーとしており縁の下の力持ちである事を自負している。

彼女らが華やかな袴姿であり、今日も女の子が憧れる女学院の制服を着ているのに対して彼は機能重視の洋服姿だ。

青い、ベストとスラックス。白と青のボーダーシャツが彼の普段着だ。今日は会議という事で白い上着を着用している。


「大丈夫っすよ、まだ敷島(しきしま)会長も来ていないみたいだし。珍しいっすね、あの人が来ていないなんて」


「いつもなら誰よりも早く来てるの!何かあったのかもしれないわ!」


そう騒ぎ立てているのは壱区北西部を担当している大鳳(おおとり)(つばさ)雛澤(ひなざわ)小町(こまち)だった。

2人は児玉とは逆に可愛らしい小柄な容姿をしている。翼は望海の同期であり、同じ頃に運び屋の仕事に就いた。

彼はもう1人の相方と同じくで衣装持ちであり、望海も様々な服装を見た事がある。

今日も、オレンジのインナーに濃い紫の上着を着ている。何でも、最近嬉しい事があったんだとか?


小町は暖かそうな、可愛らしい赤いニットを着ている。彼女の相方はこれとは反対色の緑の上着を着ている事が多い。ただ、気まぐれで彼女がプレゼントしたお揃いのニットを着てくれる事があるんだとか?

彼女自身も珍しいと思っているらしい。というのも、相方は天才肌で音楽に精通しておりピアノを弾いたり作詞作曲をしている場面を多く見るからである。周囲からも尊敬される事があれば身内から変人だと言われているらしい。


そして今日予定されていた集会には壱区から参区を担当する運び屋達が集結する。

協会に所属する比良坂町の運び屋達が定例会議を開き、近況報告をする。

だが、2人分空席があるのである。望海達はその2人を知っているし面識はあるが、まともに会話をした事がない。

というのも、望海は以前。その2人と同じメンバーだった運び屋と面識があり活動したてで困っていた自分を助けてくれた優しく、陽気な彼に不思議と親近感を覚え面倒を見てもらっていた。

実力派の彼が消えた。その理由は幾つか思い当たる節もあるが、今はそっとして置いてあげようと彼女自身もそうだし光莉や児玉も同じように思っていた。


それ以上に、肝心の議長にして協会の会長でもある敷島会長が来ない。

その事について皆、首を傾げていた。


「皆様、お待たせして申し訳ありません。秘書が見つからず建物内を捜索しておりました」


早歩きながらも優雅に壇上に上がる女性は敷島会長その人だった。

確かにいつも会議に同伴している秘書であり娘の節子(せつこ)は今この場にいない。


「予定通り定例会議を始めましょう」


周りがざわつく中、敷島会長の鶴の一声で静寂に包まれた。

違和感が残る中で会議が始まった。


「結局、節子さん。最後まで来られませんでしたね、体調不良でしょうか?」


「いやいや、体調不良なら会長が知らない筈ないでしょ?節子お嬢様だって時々さぼりたくもなるよ。そういうお年頃なんでしょ?」


「あっ、おじさん分かっちゃったかも。デートと会議がドッキングして相手を選んだとか!」


「それ、奥さんと付き合ってた頃の玉ちゃんでしょうが!にしても心配だね。見つかるといいけど」


会議が終わり、帰路に着く途中。

壱区の南部で見回りがてら壁近くを歩いている時だった。


「ドボンッ」


「「「!?」」」


壁の方から大きく水が弾く音と共に、紫の水滴が飛び散る。


「児玉さん!誰かが水路の中に!」


「分かってる!救命道具をすぐ準備する!望海は壁の天辺まで移動してくれ俺もすぐ向かう」


「私、投影機とレーダー持ってくる!」


なぜここまで3人が慌てるのか?

実はこの壁、ただ区域を仕切る為のものではないのだ。

二重に設置された壁、その間には水路が通っている。


その水路の中に、人を襲う魔物がいる。

その魔物のせいで比良坂町内の人口が6割減少するという異常事態に陥った。

いや、そもそもこの壁はその魔物が陸上に上がって来ない為の隔離施設のようものなのだ。


「大丈夫、運が良いね。“アイツら”は側にいないみたい今なら助け出せるよ」


光莉が壁を透視する機器を準備し、レーダーと交互に見ながら索敵を続けている。

無線機を使い、お互いに連携をとりながら救助者を探す。


水路の中に人影が見えた。

淡い紫の水の中にも関わらず、望海ははっきりと見えた。

何故なら会議の時から気にかけていた人物だったからだ。


児玉が救命道具を持ち、壁の天辺に向かうと呆然と立ち尽くす望海の姿が見えた。

目を合わせると望海は慌てて彼に駆け寄った。


「節子さんが!節子さんがこの中に!」


見間違う筈がない。気品ある艶やかな黒髪、それに反するように繊細に作られた白いレースのワンピース。

原因は分からない。自分で飛び込んだのか?誰かに突き落とされたのか?


とにかく彼女を救う事で精一杯だった。


【コード:700 承認完了、猿の手を起動します】


救命道具の一種である猿の手は投擲された手腕が膨張し、救助者を掬い上げる。水路を遮断し、足場にする事も可能な万能機具だ。


「ゲホッ、ゴホッ」


反射的に水を吐き出し、蹲る節子を()(かか)え弐区の方へ瞬間移動する。


「玉ちゃん、喫茶店の方に行った方がいいかも。ここだと人目に付くし何より節子お嬢様の体調も良くない。暖かい所に移動させないと」


「そうだな。それ以上に水路の水が良くない。あれは血の川みたいなもんだ。全部吐き出させて、口からでも点滴からでも水分を入れなきゃならねぇ」


何故、敷島節子が壁の天辺にいたのか?

それは誰にも分かっていない。

しかし今は彼女の救命が優先だ。


3人はすぐさま喫茶店へと向かった。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

次は「第参話 願い」をお送りします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ