第壱拾玖話 舞台
「成る程、姫君を監禁した犯人が今度の晩餐会に出ると。確かに、花菱という男はいい噂を聞かないね。「女性が若作りをするのは分かるが男性が若作りをするのは理解出来ない」と言われる程、年齢に釣り合わない容姿をしているとね」
「Dr.黄泉から以前こんな話を聞いた事があるのです。人魚の肉を食べれば不老長寿になれるという噂がある。それを信じている人達がいると」
その話を聞いて、圭太がフグ刺しを食べる手を止めた。
「ちょっと姉貴、そんな事聞いたら僕食べられないんだけど」
更に光莉は青ざめた様子で口を開いた。
「ねぇ、もしかして。姫乃のお父さんって結構ヤバイ人?いや、娘を監禁してる時点で既に手遅れか」
「いや、そもそも実の親子関係かも怪しいんじゃないかな?彼の実年齢は60〜70代と言われている。それ以上に彼に配偶者はいない。パートナーを晩餐会に連れて来た事もなかったからね」
「...私、何も姫乃さんの事知りませんでした。気丈に振る舞っている裏でこんな事になっているなんて。風間様、この件に協力して頂けるという事でよろしいですか?」
「勿論、緊急事態だからね。しかしだ、晩餐会に連れて行くにしても格という物がある。君達、2人がどれだけ麗しい令嬢だからと言って来客に身元不明な人物を行かせる訳にはいかない。そこでだ」
そのあと瑞稀は圭太に目配せした。
「僕?」
「私は舞台を見るのが好きでね。舞台女優や俳優の知り合いが多いんだ。実際に晩餐会にパートナーとして連れて行って彼らを富裕層に売り込む事も多い。そこでだ、歌舞伎界の新星を連れていって私がいつものように君を売り込む。どうかな?」
その意見に望海と光莉は妙案だと笑みを浮かべる。
それとは対照的に圭太は面倒くさそうな顔をしている。
「僕は別に自分を売り込まなくても客が寄ってくるからいいんだよ。何?僕に愛想を振りまけって言いたいの?」
「ははっ、あくまでもフリだよ。君だって演技は得意だろう?望海、私達が花菱を惹きつけている間に姫君の救出を頼めるかな?」
「ありがとうございます、風間様。後は私達の方で姫乃さんの救出方法を考えてみますね」
瑞稀との会話を終え、後日喫茶店にて作戦会議をした。
「姫乃さんがいるのは壱区です。明日の晩餐会の会場は参区、屋敷から連れ出した後、出来るなら物理的に親子の距離を離したい。児玉さん、何か良い案ありませんか?」
比良坂町の地図を広げ、それぞれの場所に小物を置いて目印にする。
「地図を見た感じ壱区の北部まで行ければ良いがまず俺たちには無理だ。他の運び屋に任せるのが良いだろうな」
「そうだね。でも北部に行けるのって、隼ぐらいしか思いつかないんだけど。他に誰かいたっけ?」
「...あっ」
そのあと、望海は慌てて黒電話を手に取る。
連絡先は協会だった。
「ダメっすよ!小町ちゃん!隼が困ってるじゃないっすか!」
「嫌なの!小町と隼は一心同体!絶対に譲らないの!」
「いや、俺。単体仕事あるし困るんだけど」
現在の場所は第壱区、今日も翼達は隼から小町を引き離そうと躍起になっていた。
「ゲホッ、ゴホッ。おい隼!この颯様を差し置いて壱区のエースを名乗るなんて良い度胸じゃねぇか!」
「山岸先輩、颯先輩倒れそうなんで運んであげて下さい」
「はいはい、病弱な颯君は寿彦お兄さんと一緒に帰ろうね」
山岸は颯を俵担ぎをし、本拠地に戻ろうとする。
それと入れ違うように那須野が慌てて出て来た。
「隼、無線001に切り替えろ。依頼だ、しかもあの方から」
「001?珍しいコードだな。誰だ?」
隼が無線機に耳傾けると、共に北部に行った事のある運び屋に繋がった。
「隼さん、聞こえる?私です、敷島節子。貴方に護衛を頼みたいの、頼めるかしら?」
「了解、仕事が早いのが俺の自慢だから。直ぐに向かう。場所はどこ?」
「それが貴方の担当外なの。私と望海さん達で協会まで依頼主を連れて行きます。そのあと、私と貴方で北部まで移動したいの出来るかしら?明日、決行予定だから打ち合わせも兼ねて協会へ来てもらいたいの」
「訳あり臭いな、作詞作曲より困難ならお断りだけど」
「あら、それと同じぐらいやりがいがある仕事だと思うわ」
そのあと、隼は無線を切った。
「隼、小町一緒に行く!」
「小町は無理だよ。北部まで行けないだろう?那須野先輩、皆を頼むね。悪さしない様に見張ってて」
「おうよ!なに、山岸もいるんだ。餓鬼の扱いは任せろ」
「じゃあ、行ってくる」
そのあと隼は素早く協会へと向かった。
一言:北海道・東北新幹線っていいですよね。
名前の響きだけで涼しそうですもんね。
連日の猛暑日で嫌気がさしたので新幹線経由で函館まで行ってきます。
でもまさか、明日リアル「はやぶさ」に乗るとは思わないでしょ。
作者もビックリですよ。




