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第壱話 運び屋

冷やし中華じゃなかった新連載始めました。よろしくお願いします。

一言:東海道新幹線で名古屋駅に着く前にアナウンスされる謎の駅、三河安城

「望海ちゃん、いつもありがとうね」


「いいえ。ご依頼人を無事にお届けするのが私達、運び屋の仕事ですから。移動場所は比良坂町第弐地区三河通りでよろしいですか?」


「えぇ、いつもの場所よ。今日、孫が誕生日なんだけど私は足が悪いものだから自分でいけなくて」


その言葉に望海はしっかりと頷いた。


「存じております。お孫さんの誕生日をお祝いする。その夢を叶えるのが私の役目です。通りの入り口に印があります。さぁ、参りましょう」


老婆は彼女の手を取る。すると、一瞬にして2人は姿をくらませた。


運び屋、この比良坂町内に数々の(いん)を貼り付け縦横無尽に移動する。

言うなれば彼らは瞬間移動能力者(テレポーター)の集いだ。

彼らは少人数のグループを組み、自分達の移動範囲の中で仕事を受けている。


その中でもこの比良坂町内では移動範囲が広ければ広いほど優秀な運び屋と言われている。

美術品や伝統工芸品などの貴重な物は勿論の事、人の運搬も可能であり町内の大事な足がかりとなっている。


瞬きする間もなく、2人は目的地へと到着した。


「本当に凄いわ。やっぱり望海ちゃんに頼んでよかった。他の区まで行く事もあるんでしょう?大変ね。児玉さんや光莉ちゃんもいつも大変そうにしているし、弐区は優秀な運び屋さんが多いのね、ウチの自慢よ。望海ちゃんがいてくれたらあの壁の向こう側にもいけるんだもの」


そう、悲しそうな目をしながら通りの先にある巨大な壁を見つめている。

現在、この比良坂町は四つの区域に分けられ正方形の敷地を仕切る様に十字の壁が出来ている。

町の中は勿論、特別な許可がない限り外に出る事も許されない。

ここで生まれた者は自分の区域の中で生まれ、ここで死んでいく。


依頼主の老婆も例外ではない。彼女はここで生まれここで育った。

運び屋に依頼するまで第弐区から出た事もなかったという。


だからこそ、運び屋の仕事は貴重なのだ。

奇しくも、この比良坂町内には瞬間移動能力者が数十人いる。

能力の強弱はあるものの自分の担当範囲内を守りながら更に拡張すると言う事も出来る。


望海(のぞみ)光莉(ひかり)児玉(こだま)は今現在、壱区から肆区全ての区間に印を持つ唯一の運び屋達だ。

それだけにあの壁を越え、印を付ける事がどれだけ困難なのかがわかるだろう。


「それじゃあ、私はこれで。そうそう、3人の分もケーキ買っておいたから後で皆んなで食べてね」


「有り難うございます。ではお言葉に甘えていただきます!」


印の所まで戻り、すぐさま後ろを振り返れば喫茶店に辿りつく。

看板には「ハルキク」の名が刻まれている。

ここが望海達、弐区の運び屋達の集いの場だ。


扉を開ければ、それと同時にドアベルが鳴った。

それに合わせてカウンターに座る少女がこちらへ振り返る。

派手な金髪を靡かせた彼女の名は光莉、望海の一つ下16歳の運び屋だ。


望海もそうだが光莉も、青と白の袴姿だ。振袖には桜の花びらや、絵師の想像なのか?それとも現実なのか?

高波とその奥には美しい山が見える。ただ、2人は桜は見れても後者の光景を眺めた事は一度もない。

2人の差異と言えば、足元だろうか?望海はブーツを履き、光莉は赤い花尾の下駄を履いている。

光莉は赤いリボンを後ろに、望海は顳顬(こめかみ)に黄色い髪飾りをしているのをしているのを見るにそれぞれ好んでいる色なのだろう。


「あっ、帰って来た。おかえり〜。玉ちゃん、望海が帰ってきたよ」


その言葉を聞きつけカウンターの奥から壮年の男性が出て来た。

彼の名は児玉、望海達に運び屋としての技術を教えた師匠のような保護者の様な存在だ。この喫茶店のオーナーでもある。

よく見るとテーブルクロスや側にあるソファの皮の色は青と白に統一されているのがわかる。店主の児玉もそうだが3人ともここを好み、落ち着く場所として認識しているのだろう。

だからこそ、少女達2人は揃ってこのような格好をしているのかもしれない。


壁にはスポーツ選手のポスターがあるが、閉鎖的な比良坂町では直接試合を見る事は厳しいだろう。

そんな彼らには、町民から裕福の象徴と言われるカラーテレビが店内にはある。

3人が相当の高級取りなのがわかるだろう。実際に町内で1番稼いでいる運び屋が彼女達なのだから。


しかし、そんな彼らに相応しくない品物があるのが少々疑問点が残る。

例えば、傘立てにある赤色の傘。児玉は勿論、光莉や望海でも小さく使い辛い。

小柄な人物の私物という方が正しいだろう。

カウンターには子供を模した木製の置物や、首を上下に動かす赤い牛の置物など何処から持って来たのかわからない物もある。知り合いの同業者から掻っ払って来たのだろうか?


「おっ、帰って来たか。さては俺が綺麗にしたコーヒーカップを汚しに来たな。良いタイミングだ」


望海は光莉の隣に座り、先程貰ったケーキを広げる。

光莉は皿を並べ、児玉はコーヒーを用意する。

彼らにとってはいつもの光景だ。


「2人共分かってると思うが、明日の夕方第壱区に行く。いつもの定例会議だな。望海は大丈夫だと思うが光莉、遅れるなよ」


その言葉に光莉は呆れながら何度も頷いた。


「分かってる、分かってるってば!運び屋は時間厳守が基本!皆んな時間に厳しいのは知ってるよ。学校から行けば間に合うし、望海も一緒だから問題ないよね?」


「それは良いのですが、光莉。また髪を染めましたね?女学院は校則が厳しいのは貴女もご存知だと思いますが?明日行って、反省文を書かされたらどうするつもりですか?会議に遅刻する可能性もあるんですよ?」


そのあと、光莉は頬を膨らませ近くにあるマガジンラックから雑誌を手に取った。訴えるように表紙を何度も叩きだす。


「だって、希輝(きき)ちゃんが悪いんだよ!こんなお洒落な髪型してたら誰だって真似したくなるって」


今度は中を捲り、記事の内容を読みだした。


「「お洒落は身近な自己表現。流行に合わせたり誰かの真似をするのも楽しいけど、やっぱり自分がどうなりたいか?どう見せたいか?を追求するのが一番アタシは楽しいかな?」だってさ!やっぱり美意識高い人は違うね!」


「あ〜、おじさん。息子君を迎えに行きたいなぁ。零央(れお)君に会いたいなぁ。現実逃避したいなぁ、絶対明日反省文で遅れる未来が見える!」


児玉は首を項垂れながらも先程使ったコーヒーカップを洗い丁寧に磨いていた。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

次は「第弐話 中央集会」をお送りします。

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