ゆめの世界?
うーん。そうだな。ドライヤーが欲しい!!
ぽん!
ドライヤーが現れた。
「っしゃあ!これで髪が乾かせる!!」
いやいやいや、電気無いから・・・。
あ、そうだったわ・・・。
自分で自分につっこむ。
今日も今日とて、この能力をあたしは使いこなせない。
………………………………………………………………………
仕事から帰って、ベッドへダイブ。ご飯は外で食べてきた。シャワーは明日起きてからでいいや。
と・に・か・く、一刻も早く目を閉じて寝てしまいたい。
未知の疫病が蔓延してる昨今。
あたしの仕事は、いわゆる最前線。忙しくて、死ぬ。
とにかく、寝る!!!!
と、そこまでは、記憶がある。
次に目を覚ました時は、知らない天井だった。
というか、これは、天蓋ってやつ・・・?ネズミの国のプリンセスかな?
わー、ふかふかベッド!
気持ちいいなぁ。
「お目覚めですか?おはようございます、リリー様。」
ん?りりー?だれだ?・・・あたしかっ。あたしの名前はさゆり。だからリリーね。すげーな、自分。
この人は侍女かな。
「おはよう、リディア。」
さすが。夢の中なのでサラッと名前が出てくるね!!
「あー、お風呂入りたいなぁ。素敵な泡風呂欲しい。」ボソッと呟くと、
ぽん!
場面が変わって、あたしはぶくぶくの泡風呂に入ってた。
リディアが近くでお世話までしてくれてる。
「リリー様、どうか、ヴォイスを不用意にお使いにならないで下さいね。」
「えー?」
「湯浴みなさりたいならヴォイスじゃなくても、きちんとご案内しますから。」
「ん?んんん?」
ゆあみ、ってなぁに??
自分の夢の中に、自分の知らない言葉って出てくるんだっけ?
あと、ぼぉいす?声?うーんんん?
でも、お風呂が気持ちよくて、あたしはまた目を閉じてふわーっと深い眠りに落ちた。
次に目を覚ますと、またしてもさっきの天蓋に、ふかふかマットレスのベッド。側にはリディア。
あれ、夢の中でまた夢・・・?自覚のある夢?
「リリー様、かなりお疲れようですが、いかがなさいましたか?」
「いかが、したんでしょう、ね?」
戸惑って、そう答えるあたしの声色を聞いて何かを察したらしい。
リディアは急にあたしの顔を覗き込んで、それから目をじっと覗き込んだ。
「あなたは、誰ですか?」
「へっ?」
ぽかーん。
何を言われてるかわからなくて、あたしの顔、多分だらしなく口が開いてた。
夢ってこう言う時、辻褄合ってない事を自分でもさっと答えるもんだよなぁと思ったけど、あたしの中にあるのは戸惑い。
うん、これってもしかして・・・いやいやまさか!
「あなたのギフトはなんですか?」
「えっ、あっ、えぇ?」
意味がわからなくてキョドキョドと彷徨う視線。
リディアは、はぁっと大きく息を吐いた。
「夢人さまですね・・・。」
ゆめびとさま?
ますます戸惑って、言葉を無くしたあたし。
でも、リディアは優しく微笑んで言ったのだ。
「ようこそ、このエルソムニ王国へ。夢人さまは幸運の使者。リリー様もきっと喜ばれるでしょう。
ご存知のようですが、私はリディア。あなた様の滞在中全てのお世話とサポートをいたします。
よろしければ、お名前を教えていただいても?」
「えっ、り、りりー?」
「いいえ、そちらではございません。本当のお名前です。」
「さ、ゆ、り?」
「サユリ様!素敵なお名前です。さぁ、私がこれから全てご説明します。」
それからリディアは教えてくれた。
エルソムニには、時々夢の中から迷い込んだ人が現れ、夢人と、呼ばれている事。
気がつくと夢人は帰っている事。帰り方はわからない事。
(なんだってー!!と叫んでしまった)
その人たちは、全て自分の夢の中の出来事だと思い込んでいるが、立派な現実である事。
夢人はエルソムニの人間の身体の中に入り込むような形で現れるが、前世や乗っ取りとは違い、仮住まいのようなもので、夢人が去るとその時の記憶と共に元に戻る事。
また、仮住まいとして選ばれるのはこの国で「ギフト」と呼ばれる魔法のようなものを使う人たちである事。
「リリー様」のそれは「ヴォイス」と呼ばれている事。
ちなみに、ギフトが発現するのは特定の6つの家系らしく、その血筋の人たちはエルソムニでは華族と呼ばれてるそうな。
え、それって、やっぱあたしの夢ってことじゃない?とは思った。その言葉のチョイス、ねぇ?
「えっとー、つまり、これは夢じゃなく異世界?」
「イセカイ。そうです。夢人様は皆さんその単語を使われると聞いておりますので、その理解でよろしいかと。」
「あと、リリー・・・さまの魔法は望むもの、というより欲しいものなのかな?を声にすると何らかの形で具現化するって感じかな?」
「とりあえずそのようなご理解で。おそらく使っていけばハッキリいたします。
これからお帰りになるまで、サユリ様がその能力を受け継ぐ事になりますので。」
「は、はぁ。」
「夢人さまは我が国にはない知識や発想で、ギフトを使い我が国を救ってくださいました。」
お、おう。いきなりデカい話しきたな。
「あたしに、出来るかなぁ。」
「きっとお出来になります。ただ何を望むのかはお気をつけて下さい。
昨日のように突然大きな浴室と泡がお部屋の真ん中に出てきては、我々も少々手こ・・・おほん!困りますので。」
ほとんど変わってなく無いか、その言い換え。
「あはは・・・手こずらせてごめんね。」
これが1日目。我ながら、驚きつつも受け入れるしかなくて、なんとか適応しようとしてた。びっくり。
そして、2日目。
とりあえず、練習してみるか。
それで、ドライヤー。
とりあえず欲しいものが出せたらなぁとか思ったんだけど。文明的には中世っぽいこの国。
電気なんかなくて、あたしの考えるような事だとこの世界に合うよなものはうまく出せなかった。
出しちゃえば、誰か頭のいい人がなんとかしてくれるかなーとか思ったけど(バカの発想)、もちろんそんな事なくて、あはははー。
リディアに言ったら、若干ジトッとした目で見られて、「難しいかと存じます。」だって!
今日わかった事は、状態変化を望むのは無理なよう。
例えば病気か治れー!とかね。背が伸びろー!とか。やってみたねど、出来なかった。あは。
ヒールのギフト持ちはまぁ当たり前っちゃ当たり前だけどいるみたいだし。
あくまで、「物質を出す」事に特化してるのかな、たぶん。
んー、世界を救うものって、ほんとなんだろ・・・。
リディアに「お口に合いませんか?」なんて心配されて、自分が食べ物を前にしてもウンウン唸ってた事に気がついた。
「いやっ!そんな事なくて!ごめんなさい、美味しいんですっ。」
バクバク食べると、リディアはにっこりして、「それはよろしゅうございました」と言った。
「サユリ様。まだ、2日しかたっておりません。まずはここに慣れてはどうでしょう?そのように感を詰めては、お倒れになってしまいます。」
「あ、リリー様の身体が弱っちゃったら大変だよね!ごめん!でも、いつまでもこの身体を借りてるわけにはいかないじゃない?リリー様、だいぶお若そうだし。
そう思ったら焦っちゃって。けど、その身体が弱ったらいけないから、ご飯と睡眠はちゃんと摂るね!」
「サユリ様・・・!」
そう答えたら、リディアが目に涙をいっぱい溜めて、食べてる私をぎゅーっと抱きしめた。
「リディア!あたし、食べてる!たべてる!!」
「失礼致しましたっ。やはりリリー様を選ばれる方は同じようにお優しい方なのだと、わたくし、感極まってしまい・・・。
頼りなさそうに不安に思っていた自分を恥じております。」
「リディア、多分、後半のそれ心にしまっとく言葉だわ。駄々漏れてるから。」
「あら。」
「あら、じゃないよ!」
そうして顔を見合わせてあたし達はぷぷぷと笑った。
リディアはリリー様の小さい頃からのお話相手からそのまま側仕えになったらしく、幼馴染の側面もかなり強いみたい。
夢人の話しは知っていただろうけど、ギフト持ちに必ず起きるわけでもないし、ってかむしろ稀だし、実際目の前で自分の大切な人におきて不安だったんだろーなー。
少し打ち解けられた感じがして、私の中でも「頑張んなきゃ!」って張り詰めてたものが、なんとなく、解ける感じがした。
3日目。
気がついてしまった。そもそも、「救う」ってなぁに?
何か、困ってることや、大きな問題を今、エルソムニは抱えてるの?
リディアにそう聞けば、
「いや、別に。ただ、夢人さまがいらして、遺していかれたものが結果、帰られた直後に役立つのです。」
「えっ、なにそのヒントなしのクイズみたいなやつ。」
「期待しております。」
にっこり笑って答えるリディアが軽く鬼に見えた。
そこで思ったのは、あくまで仮説だけど、「遺していったものが直後に役立つ」のは、偶然じゃなくて、「正解」を提供できたら、元の世界に戻れるって事なんじゃないかな。
戻り方はわからないけど、そもそも来た方法だってわからないんだから、とにかく「正解」を見つけるのが先だ。
リリー様には悪いけど、時間はかかるだろうし、そもそもそれで戻れるのかもわからないけど、今のところそれしか思い浮かぶことが無い。
まぁこうなったらやるしかないよね。
そう、気合を入れ直したところだった。
瞬きを開けたら、気合いを入れるのに握った拳には、ペン。
見たことがない部屋で明らかに執務用の椅子に座って、書類のようなものに何かを書こうとしてた。
「え・・・?」
あたしの間の中抜けた声に近くに居たらしいリディアが顔を向けた。
「リリー様?・・・いや、サユリ様でございますね?」
「うん。あたし、さっきまでヴォイスの練習しながら、どうやったら帰れるのかなぁとか考えてたはずなんだけど、えっ・・・?」
「特に何も記憶がありませんか?」
「え?うん。というか、なに?」
リディアは、なるほど、と呟くと説明してくれた。
「実はサユリ様の最後の記憶からは既に6日経過しております。」
あの日、リディアが一瞬席を外して、戻ってくると、そこに居たのはリリーだった。
「リディア。サユリ様は帰られたわ。」
「まさか!リリー様?!ですが、サユリ様は特にこれといって・・・。それとも練習と言って出したものが何かそうなのでしょうか。」
「おそらく違うと思うの。帰られたと言っても、一時帰宅のようなものではないかしら。
古い夢人さまの記録を出してくれる?六華族共通で記録を残しているはず。
確か前回は50年以上前でしたね?細かな事など、もう一度確認しましょう。」
「その、リリー様はサユリ様の考えておられてた事などはお分かりにはならないのですか?」
「サユリ様が体験した事は全て共有しています。
でも、あの方が何をお感じになって、何を考えられたか。
その精神はサユリ様だけのものだからでしょう。それらは全くわからないの。」
それから2人は夢人が現れた時に記される記録を改めて読み直した。
「リディア、これ!」
『夢人さまは時々ふと、いなくなる。数日経つとまた戻られるが、その間のことは何もおっしゃらない。そして、その間、主人は普段の主人と同じように仕事をしていた。
ただ、このところ、夢人さまがここにおられる時間が増えてきた気がしている。このまま、夢人さまが、こちらに残られるのだろうか・・・』
リリーとリディアは顔を見合わせた。
「これだわ・・・。理由は、わからないけど、サユリ様は必ず戻られる!」
「リリー様、この後から、『今日もまた夢人さま』と記載が時々ございます。ただ、」
「ええ、この者が心配した事態は起きていない。
この話しは必ずサユリ様に。何か思いつく事があるかもしれない。それから、紙とペンを、すぐに。」
「それが、昨日の事でございました。」
リディアは話し終えると、あたしに手紙を差し出した。
「リリー様よりお手紙をお預かりしました。
わたくしたちが、体験した事、もしかしてサユリ様は共有していない可能性があるから、と。」
さすがのあたしもちょっとなかなか飲み込めなくて。
「あ、うん、ありがとう。なんか、あたしとリリー様って多重人格の人格同士みたいだね・・・。」
「多重人格、ですか?」
「あ、うん、まぁ、こっちの話し。」
「少し休憩なさいますか?」
「う、うーん??身体が疲れてるわけではないような。
でも、なんだか知らぬ間にタイムスリップしてて心が追いついてない感じはあって。
休む?うん、休むか。というかちょっと、呼ぶまで一人にしてもらっていい?」
「・・・かしこまりました。美味しいお茶とお菓子はご用意させてくださいませね。」
リディアはちょっと迷ったみたいだった。一人にしたら心配だって思ったのかも。
でも、ニコッと笑って許してくれた。
一人になって、ベッドにゴロンと寝転んだ。
なんだ、なんなんだこれは。
この気持ちは、なんなんだ。
寝て目が覚めたら、異世界にいて。
訳がわからないけど、でも、歓迎されてるみたいだし、
クヨクヨするより期待に応えた方がいいに決まってるし、何よりこの身体。
どう見ても20歳前後のもしかしたら10代みたいな、若い女の子の身体。
何故か、顔だけは鏡を見てもうまく認識できない。
でも、黒髪の綺麗なお姫様。みんな美人だって言ってる。
あたしが早く帰らなかったら、この子はどーなる?この子の人生は?
それだけを思ってた。
思うようにしてた。
元々のあたしはどうなってるの?
帰ったところで、あたしの「入れ物」は、無事なの?
そんな心配、しても答えは出ないし。したくなかった。
でも。
でも。
今度は何も記憶がない。記憶がなくて6日もたってた。その間、この子は戻ってきてた。
じゃあ、あたしは?
「あたし」は、どこ行った??空白の余白の時間。
あたしの持ってる、あたしが生きてきた記憶は、本当にあたしのものなんだろうか?あれ?あれ??
帰る、ってそれって、し、しんじゃ、う・・・?いや、もしかしたら肉体的には、すでに。
涙が出た。
片手でぐっと拭った。
けど、また流れてきて流れてきて、ふわーんと声を出して、
あたしはまるで小さな子供のように顔をくしゃくゃにして泣いたのだった。
少し、寝てたみたい。泣いた涙は乾いたまま跡がついてて、シーツが少し湿ってた。
起き上がって、すっかり冷めた紅茶と、でも焼き菓子は最高に美味しくて、ちょっとほっとした。
あ、そうだ。
手紙、読んでない。
慌てて広げて、そしてまた、ほっとした。
難しい事は何も書いてなくて、ただ、お互い親しくなろうと。
少しずつでもお互いを知りたいから文通しませんか、って。
あたしの事を無理に励ますでもなく、語り合う時間。
リリー様は最後に、お互い「様」をやめて呼び合えたら嬉しいです、と書いてくれていた。
リリー様。・・・ううん。リリー。もちろんだよ。サユリって呼んでね。
不安な気持ちはリリーも一緒。お互いだけが、この不安を共有できる。
あ、そうそう。リリーは20歳。この国の成人は16歳だから大人4年目。あたしは24歳なので、まぁ同い年と言っても、差し支えないよね?!
エルソムニに来て、季節が一つ進んだ。いわゆる秋のような季節だ。
初めてきた時より時々涼しい風が吹くけど、過ごしやすい季節。
リリーとあたしの入れ替わりは、なんとなく掴めきて、3-4日あたしがいると、リリーが5-6日交代で出てくる感じ。大雑把に9日周期で動いているようだった。
そうとわかるとお互い何となく予定がたてられるもので。
3日目の午後になるとあたしは基本的に自室内で過ごして、同じくリリーも5日目の午後あたりからそういう風にしてるみたいだった。
ただ、そんな中でもあたしの方は相変わらず、
「大勢の人のためになるもの」は出せずにいた。
薬とかかな?って思ったんだけど、それはリディアに止められた。
「確かに、サユリ様の世界のお薬はよく効くのだと思います。過去の夢人様の記録ですと、不治と言われた伝染病が完治した事もございました。
ですが、のちにその薬が無効な似た病が出現し長らく苦しみました。
それに薬などはおそらくリリー様には再現が出来ないでしょう。」
「まぁ、そうか。新たな疫病がはやるなら意味がないもんね。
それに、あたしが薬の作り方知ってるとかならともかく、あたしも完成形しか知らない、リリーもイメージできないじゃ、継続して出せ無いね。」
どうやらヴォイスでは
「こうやって使う、こういう効果のあるもの」みたいな、
ある程度そのモノが、どういう働きをするかをあたしが知らないと、出てこないみたい。
それから、夢だから出来るでしょノリで物理を無視すると全く役ただずが出てきちゃう。
最たるものが電気。
まぁ夢の国だし(だってギフトとか魔法みたいやのあるし!)、
出せば使えるでしょ、は全く通用しない。
これが割と大きな壁だったりした。
「あたしにもっと知識とかあればなー」
物理、苦手なんだよね・・・。あは。
待てよ。知識・・・?
そうだ、あたし、ヴォイスの事は良く教えてもらったけど、そもそもこの国がどういう国なのか、何で成り立ってるのか知らんわ!
そんなん、役に立つもの、なんて独りよがりの妄想しか出てこないわけだ。今更すぎる!何やってたの、あたし!
早速リディアに図書館はあるのか聞いた。文字は、多分読める。ここまで一度も困ってない。リリーとも文通してる。
どういう認識自分でもかわからないんだけど、ちゃんと文字として受け止めて読み書きが出来る。
でも、あたしの母語かって言われるとなんかちょっと違うみたい。なんか違う文字なのに、完璧に理解できる。
「図書室ですか?ございますよ。何をお探しですか?」
「んー、この国のこと?もちろんリディアにも沢山教えてもらったけど、歴史や風土や文化や娯楽とか。
そういう、この国のことを、知りたい。」
そう告げると、リディアはちょっと面食らった顔をした後、嬉しそうに微笑んだ。
「サユリ様、ありがとうございます。お手伝いいたしますね。」
あたしの意図が伝わったのかな。リディアのありがとうにちょっと照れた。
リリーの本名はリリー・プランクザール。現プランクザール卿はリリーの叔父様。
リリーのお父様の方が兄なのだけど、そちらもヴォイスを授かっている。
争いを避けるため、ギフト持ちは家督を継がないのが華族のルール。
なので、リリー一家と叔父様一家は大きな屋敷に一緒に暮らしてる。
といっても、あたしから見たらどこの王族の城だよってぐらい広くて、西棟、東棟あるから、全く会わないんだけどね。
そんなプランクザール家の図書室はとても美しく、天井まであるんじゃないかっていうほどの高い本棚が円形の図書室の壁一杯に広がっていた。
そして、ドーム型の天井一面にフレスコ画があり、光取りの窓からキラキラと差し込む日光は図書室中央の石造を照らしている。
「うわぁ・・・」
あたしは思わず感嘆のため息を漏らした。
石造の周りでは平民の子供たちかな?教師のような人を囲んでなにやら授業が行われている。
大きな図書室をリディアが案内してくれた。
「我がプランクザール家の図書室は六華族の中でも突出しております。
数代前に特に本がお好きな方がいらっしゃいまして。
おそらく、王宮図書室にも引けを取らないと自負しております。
そして、領地の学校へも開放しておりまして、今日もあのように。」
「全ては国民のために・・・?」
石造の台座に大きく刻まれる文字。
「あの石造は、初代正義王。そして、その言葉は我ら六華族および、王家共通のモットーです。」
エルソムニ王国建国時、初代の王、正義王と呼ばれている、に仕えた6人のギフトを持つ人。
正義王は非常に能力が高く人望もあったがギフトはなく、6人が彼の治世を支え、結果華族となった。
そこで生まれたものがこの言葉である。
「華族だからギフトを持っているのでは無い。
たまたまギフトを持っているから華族として生かされている。
全ては国民のために。」
この言葉は華族家、その血縁に産まれる子どもたちは、まだ言葉も話せないうちから何度も何度も叩き込まれるらしい。
国民のために、か。
たまたまここに来てしまったあたしだけど、少しでも貢献できればなぁなんて、思った。
「どんな分野からご覧になります?」
「うーん、王家のこと、華族の事はなんとなく教わったし、今は詳しくより広く浅く把握したいから、それ以外かな。」
きっと、自分がもともと得意な分野の方が理解しやすいだろうなぁ。
「この国の医療体制が知りたいな。えっと、確かヒールのギフトはあるんだよね?」
「モンタネール家ですね。ですがギフト持ちは居ても数人、居ない時期もあるので医師が普段は行なっております。
そうですね、それでしたら、この辺りの本がよろしいかと。この周囲には医学の専門書もいくつかございます。」
「わかった。しばらく籠るから一度下っていいよ。いつもありがとう。」
「はい。ご休憩を取る頃にお声がけしますね。失礼します。」
ギフト持ちは一族の中でもランダムに生まれてくる。
だから、その世代で誰もいない事もあるし、何人か同時にいる事もある。
ただ、同時にいる時も数人という感じで、ヒールのモンタネール家でも同時に5人が最高記録だそう。
その時も幼子も含めてだったので、実際活動してたのは4人らしい。
ヒールの人は首都カタリセナの王立病院で治療にあたる。
4人の時代は地方都市にも赴任して、その頃の平均寿命は突出してた。
まぁ、そんなんだからヒールで、救える人は数が相当限られてるって事だね!(雑な理解)
だから、いわゆる医療技術もまぁまぁ、発達してる。外科的な事は殆どやってないみたいだけど。
おまじないに近い事もあるけど、うん、漢方薬みたいなの結構作ってる!
んー、だいたい中世って感じかぁ。なるほどね・・・。
と、私がウンウン本を読みながら唸っていた、その時。
「リリー?」
後ろから低い倍音で深みのある声の男の人に声をかけられた。
短編のつもりで書いていたのですが、長くなってきたので連載と言うことで書いています。
少し先まで書き進めているのですが、初長編なので戻って直すこと多々。
流石にここはもう大きな手をくわえることはないかなと思い、第一話投稿してみました。
少しずつ発表できたら良いな思います。
楽しんでくださる方がいらっしゃれば幸いです。よろしくお願いします。