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前編

『コイツを使えば───』


その()を聞いた途端、ラビィは思わず手に持っていた宝石をその人の顔にぶつけ───


「あなたにおねえさまとなかよくなるしかくなんてないわっ!!さっさとでていって!」


──そう、叫んでいた。


周りには、冷や汗をかいて今にも死にそうなほど顔を青くしているおとうさまと、ぽかんとしているおねえさま、そして怖い顔をしている初めて見たおっきい男の人。


そんな周りを見ていないかのように、宝石を投げつけた『こうしゃくれいそく』とやらが宝石を拾ってラビィの方へ持ってくる。


そして、ラビィの目線に合わせてすっとしゃがみこんだ。


「ラビリエラ嬢の機嫌を損ねてしまったかな?貴方の物を投げさせてしまうほど、悪いことをしてしまい申し訳ない。よければ私の悪いところを教えてもらえないだろうか?」


『はぁ、びっくりした。このちっせーお嬢様、急に宝石投げてどうしたんだまったく。面倒くせぇなー』


『こうしゃくれいそく』が喋っている時に、真反対のような言葉が聞こえてきて、ふるふると震えた。


「いやよっ!!おねえさまとはかかわらないで!!わたくしがだめといったらだめですのっ!!──おねえさま、かわいいらびぃのいうこと、きいてくれない……?」


どうやったって最終的に決めるのはおねえさまだろうと標的を変えたら、いつもはにこにこ笑顔で「えぇ」って言ってくれるおねえさまが困った顔をしていた。


「もちろん、かわいいラビィの言うことは聞きたいのだけれど……」


『流石に公爵家の方のことを拒否するなんて、ラビィがなにかされてしまうかもしれない……でもラビィは嫌がっているし、どうすれば……』


いつも通り裏表のないかわいいおねえさまが、混乱している。


「ラビリエラ嬢。どうしたら私のことを許してくれるかな?もちろん、君のお姉様のことを取ることはないと約束する」


『多分俺、このお嬢様に嫌われてるよな?なんで?ナルシスト発言になるから言いたくねぇけど、前と比べても顔はいいはずなんだけどなぁ………』


心の声(・・・)と表情がこんなにも一致しない人を初めて見たが、ラビィは動揺する暇などないのだ。


だって、ラビィのおねえさまを利用しようするなんて許せることではないんだから!!







ラビィの名前は、ラビリエラ・マスティフ。最近5歳になったばかりの『はくしゃくれいじょう』なのだ。ふわふわくるくるする金の髪に、ろーずくぉーつみたいなピンク色のお目目。会うこともできなかったおかあさまと一緒だと、同じ目をした9歳歳上のおねえさまが言っていた。



そしてラビィには、いわゆる『読心術』や『テレパシー』が使えた。生まれた時はなんとなく分かるのみだったが、5歳の誕生日に神様に会い、突然みんなの考えていることが聞こえて(・・・・)くるようになったのだ。


当時のラビィは、ニコニコとしていても怒りや嫉妬を持っている人達に絶望しかけていたが、裏表のないおねえさまに救われたのだ。それまでもラビィはおねえさまが大好きだったが、その一件からもっと好きになったのは当然である。あ、もちろんおとうさまも大好き!!信じられるのは家族だけ。


ちなみに、この事を知っているのはラビィのおとうさまおねえさまだけだ。そういえば、1番最初に気づかれたメイドは今どこにいるのかな…………。




まぁ、そんな感じでのんびり幸せに暮らしていたラビィたち家族の元に急に訪れたのは、学園で優秀だったおねえさまと同じSクラスの学生である、シルウェストル・アルキニア。現女王の王配の生家であるアルキニア公爵家の次男だそうだ。


学園では、『ぶんぶりょうどうでやさしいいけめんせいとかいちょう』として有名だとさっきおねえさまから聞いた。


ちなみにおねえさまは実力主義な生徒会に誘われたそうだが、忙しいと聞いた途端、ラビィとの時間を確保するため辞退したそう。おねえさま大好きっ!


そういう事で、ラビィもおねえさまの『がくゆう』が見たくて同席したが、やってきたのがさっきの件である。



───かわいくて天使で頼りがいのあるおねえさまに頼りたいならまだしも使う、だなんてっ!!!絶対に許さないもん!!








そう、思っていたはずなのに。


「ラビィ。あの方(・・・)がいらっしゃったわよ」


「お姉様!!さっき侍女から聞きましたわっ!今行くところですの」


あっという間に時間がたち、ラビィ──いいえ、わたくし!そう、わたくしも、もう14歳になっていた。


今年から学園にも行き始めた立派なレディである。


そして、肝心のシルウェストルとの仲はというと。


「ラビリエラ嬢、こんにちは。一昨日ぶりですね」


「ご機嫌よう。えぇ、そうね」



なんと、めちゃくちゃ仲良くなってしまった。


あの時のわたくしが見たら絶対おかしいって叫ぶであろうが、シルウェストル……シルと共に話していくうちに、乱暴な言葉でも意外と優しいことを知ったのだ。


それは、シルとのあの騒動の後、また数日後にやって来てなぜか二人で話すことになった時だった。



わたくしは、わたくしが心の声を聞くことが出来ると知ったら気味悪がってシルは絶対に来なくなるだろうと思い、思い切って全部ぶちまけてみたのだ。


それなのに、シルは逃げ出さずに、泣いてしまったわたくしの頭を優しく撫でてくれた。


シルの口から聞こえてくる言葉は素っ気なくても、聞こえてくる()はすっごく温かくて。



そこから度々様子を見に来てくれるシルに惚れてしまうのはしょうがないのでは無いだろうか。




「それじゃぁ、行きましょう」


「えぇ」


そこではおっとりとにこやかに対応する私たちだが、きっと(・・・)心の中では乱雑な言葉を乱用しまくっているのだろう。最近は私にまで移ってしまい、意外と娘馬鹿なお父様が泣き崩れていた。どんな所でそんな言葉遣いを覚えてきたか、ひとりでに成長してしまったことへの悲しみのようだったが。改めていい父親であると再確認できてちょっと嬉しい。


いつも通り来客室に入り、使用人たちが扉を少し開け出ていった。


すると、すっと自然に自分の指輪とわたくしの腕輪に触れるシル。


「ラビィ、今日聞こえない(・・・・・)日だろ?」


キンっと、魔術が発動した時特有の音が聞こえた瞬間に放たれた声は、わたくしを赤面させるのに充分な破壊力を持っていた。


「…………なんでわかるのよ」


「だって、聞こえない時はいつも不安そうな顔してるじゃん。ラビィは不定期だから分かりにくいんだよな」


「はああああああ。もう本当にいや。やめて。めちゃくちゃ恥ずかしいから…………」


なんでわたくしが恥ずかしがるか、分からないでしょう?それが、聞こえなくなる時の特徴にあるのだ。


わたくしには心の声が聞こえなくなる日があることが分かった。その聞こえなくなる日というのが、所謂、あの『プリンセスデー』……別名だと『女の子の日』という事。


つまり、わたくしは絶賛プリンセスデーで、更にはそれが好きな人に思いっきり理解されているという訳だ。


「恥ずか死ぬ………………」


「死ぬなって。大丈夫、安心しろ。ラビィが聞こえない日はいつも以上に気ぃ抜いて喋るって約束してるからな」


「そういう意味じゃないのよ。………まぁ、そっちもあるけど」


最後の一言は、ポソりと言う。急に声が聞こえなくなり、最初は喜んだのだ。だけど、その次の日に来てくれたシルの声が聞こえなくなって、当時思春期であったわたくしは、思わず泣いてしまった。心の声が聞こえないだけなのに、シルの本心がわたくしの予想と合っているのかが分からなくて、とても怖く感じたのだ。それから事情を聞いたシルは指輪と約束をわたくしにくれた。


「まったく。そういうとこは素直じゃないよな、ラビィは。どうせまた俺が今日来るって知って戸惑ったんだろ?」


ニヤニヤとした顔でそう言ってくるシルの顔を殴りたい。防音しているからといっていささか緩みすぎてないか?なにナルシストしてるんだとストレートをかましたいところではある、が、いかんせん合っているためなんとも言い難いものだ。


「…………うるさい」


結局、言えたのはこの一言。最近は誤魔化す度にこれを言っている気がしたが、気にしたら終わりだ。


「そういう照れると一言しか出てないとことかはちっちゃい時から変わんないよなぁ」


「うるさいうるさい」


わたくしは、『プリンセスデー』恒例の機嫌の浮き沈み状態に入った。もうシルなんて知らない。


「あーあ。拗ねちゃった」


それなのに。


そんな楽しそうな笑顔を見たらまた浮上してしまうじゃないか、まったく。


「本当に、そういうところ莉緒にそっく、り……」


すると、小さい声でなにか呟くシル。


「え?なに、シル。もう一度言ってもらえるかしら」


「………は、え、ちょっとまて、確かに、よく考えて見ればそうじゃねぇか。ラビィも莉緒も照れ屋で努力家でくっそかわいいし……いや、なんで疑問に思わなかったんだ?──あぁ、そっか。アイツがなんかしてるってことか。どうせ見てみたら気に入ったとかだろ……クッソ早く気づいときゃよかった」


「えっとシル。なんの話し?」


突然ブツブツと喋りだしたシルに戸惑ってしまう。なにか、かわいいとかアイツ、とか、あと……………イオって……。


「なあ、ラビィ」


すると、突然顔をガバッと上げるシル。


「な、なに?」


「ラビィ前に夢で神様と会ったって言ってたよな」


「う、うん」


「そこで変な名前を呼ばれたって、その呼び名何から覚えてるか?」


「え?えっと、確か『ラビツィーニア・リオ・アヴィーヌ』だった、はず。……これがどうかした?」


「はあああああああぁああぁ。マジかぁぁ。これか灯台もと暗し………まぁ、分かったんだしいいか」


「ねぇ、何を言ってるの?」


「あ〜、いや、気にしなくていい。………………すぐ分かるし」


そう言った時のシルの顔は、今まで見たことも無いくらい甘くて、ドキリと心臓が音をたてると同時に心がチクリと傷んだ。


「それって、いいこと?」


「まぁ、俺にとってはめちゃくちゃいい事だけどな。ラビィがいいと思ってくれるかは……分からん」


「………ふーん。そ」


思わず素っ気ない言葉が出るのは許して欲しい。だって、そんな顔をわたくしに向けたのは初めて。つまり、もしかしたら……見つかった(・・・・・)のかもしれない。彼の探す、あの人(・・・)が。さっきもイオって言ってたし……もしかしたら、わたくしのその名前も、彼の探すその子に関係があったり……。唐突とか、情緒不安定すぎとか、色々思うだろうがプリンセスで恋する乙女な女の子は重症なのだ。


───私だったら、いいのに


でも、そんな事は有り得ない。本人から一度聞いたのだ。……盗み聞き、だったけど。



「ラビィ、お前が聞こえなくなったのって丁度今日からか?」


沈みこんでいた気分を、彼の声を聞き無理やり押し上げる。


それで、き、聞こえなくなったのは……


「い、いや、1日前から……デス」


シルはわざとのだろうか。だって好きな人にその日教えるってどんな苦行だ?今は情緒不安定なのだからもう少しわたくしに優しくして欲しい。


「ん、ならいいや。ちょっと用事が出来たからまた来週くる。……そんときは、楽しみにしとけよ?」


そう言い去っていったシルはあっという間にいなくなり、わたくしは少しだけホッとしたのだった。



────その後起こる出来事を知らずに。

ありがとうございます。少しでもいいと思ってもらえたら、評価やいいねをしていただけるとうれしいです✩.*˚

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