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迷惑をかける前に出て行こうと思います。どうしましょう

来駕にもプライドみたいなものはあったようです

 紬さんに監禁されてから早いもので10日が経過。何かあったかと聞かれれば特に何もなかった。セカンドキスを彼女に奪われたくらいだ。ネットは外部と連絡を取らないって約束で実家にいた時と同様に使わせてもらえたし、買い物は紬さん同伴って条件で行かせてもらえてるから問題なし。色々制約は付いてるが、困ってはいない。困ってはいないんだが────


「暇だ……暇過ぎる……」


 暇を持て余していた。小説やマンガでヤンデレに監禁されたら身動きを封じられて1日中同じ部屋で過ごすという展開になりがちだ。自由になれるのは食事と風呂の時くらい。トイレは漏らして監禁してる奴が処理をする。監禁の王道だろう。だが、俺は違う。逃げる気ゼロで家の中限定とはいえ、自由に身動き取れる分、拘束されて監禁されるよりも苦痛を強いられているようでならない


「紬さんは仕事だもんなぁ……はぁ~」


 忙しい時は暇な時間を求める。しかし、実際暇を持て余してると逆に苦痛だ。Vtuberの配信に潜ればいいのでは? という意見もあるだろうけど、紬さん曰く「私以外の配信見たら刺す。見ていいのは私のアーカイブだけ」との事。ネット世界でくらい自由にしてくれてもいいと思うのだが……Vtuber界隈だと複数のライバーを応援したり、配信に行ったりする行為は浮気行為。俺の行動は浮気に該当するらしい。暇なものは暇なんだけどよ


「紬さんの配信は1回1回が長いんだよなぁ……」


 Vtuberのアーカイブを見直すのは嫌いじゃない。嫌いじゃないんだけどよ……長時間のアーカイブを見直すのは本人には悪いが、拷問にも等しい。普通に働いてる人間なら長時間配信のアーカイブ見直すだなんて休日でもない限り不可能だぞ……まぁ、労働関係なく俺は1度に10~20個程度なら視聴できるからいいんだけどよ


「はぁ……暇だ」


 平日の昼間。他のニートならネットサーフィン、普通の人なら働いてる時間。俺は監禁されてて暇を持て余してるがな。監禁されてなければネットサーフィンして新たにVtuber見つけて適当にチャンネル登録してtubuyaitaで感想を呟いていたんだが……うん。今は無理だ


「この時間何すりゃいいんだよ……」


 養ってもらっている立場なんだから家事でもすればいいんだろうが、生憎と部屋の掃除は済み済みまで行き届いてて俺が手を出さずとも綺麗だ。冷蔵庫の中も飲食料で埋め尽くされ、買い物に行く必要がない。結論を言おう。やる事がない。よって暇だ


「コーディングっつってもなぁ……紬さんのアーカイブ1年分かぁ……」


 アーカイブを埋め込むのは簡単だYouTuneの共有から埋め込みを選択し、出てきたコードをコピペして張り付けるだけ。幅と高さはHTML上で調節すればいいし、埋め込んだ動画を横並びにするのはCSSのdisplayプロパティを使えば簡単だ。後は横スクロールがでないようにdivタグとかにクラス名付けて箱分けすりゃいい。同時視聴画面を作るくらい朝飯前だ。全てのアーカイブを埋め込むのが手間なだけで。暇つぶしにはちょうどいいか


「やりますか」


 WEBサイトにおいてユーザーがそのページに留まる煩わしさを考えると動画を埋め込んでるサイトというのはアニメサイトとか、ゲームサイトくらいで普通のサイトじゃまずない。もっと言うなら動画を埋め込んであるサイト自体少ない。だが、俺が今から作ろうとしているのはアーカイブを一気に見るためだけのサイト。いわば自分が楽しむためだけのものだから何の問題もない


 俺はいつものようにチャンネルに直接飛べるページを開き……


「あっ……」


 とある事に気が付いた


「これバレたらヤバいよなぁ……」


 とある事とは言うまでもなく、このサイトの存在。ブラウザに載せてないから検索しても出てはこないが、犬山ポチ以外にも直接チャンネルへ飛べるようにしてあるとバレた日には何されるか……考えただけでも恐ろしい


「隠すか……WEB上で見えなきゃ文句言われねぇだろ」


 予定を変更して俺は犬山ポチ以外のチャンネルを隠す作業に取り掛かった




 数時間後────


「終わった……」


 俺は無事、犬山ポチのアーカイブ全てを埋め込み終えた。もちろん、大きさも調整し、横スクロールがでないようにしてあるから抜かりはない。YouTuneとVStudioを往復したからまぁまぁ大変ではあったがな。にしても……


「1年分か……」


 作業を終え、軽く身体を伸ばす。単純作業ではあったが、長時間座りっぱなしはさすがに疲れる


 1年……口にすると短く聞こえる。実際に過ごしてもその時は長く感じるが振り返ると短く感じる。しかし、アーカイブを埋め込んでみて初めて気づく。1年の長さと重みを。そりゃ歌みた動画とシチュエーションボイスもあるから1人の配信者だけでも動画の数は軽く100個を超えるのは当たり前だが、俺が感じているのは些細なものではなく、何とも言えない何かだ。何なのかは分からんけどな


「監禁されてなきゃ犬山ポチの側にいれるかどうか分からなかったんだよな……」


 人はいずれ死ぬ。俺みたいなニートは親の支援なしじゃ生きて行けない。だからいずれは働かなきゃならないのは理解している。ただ、世の中には前職でのトラウマが原因で引き籠ってしまった人もいる。一概にニートが悪だとは言えない。事実としてあるのは親はいつまでも生きてはいない。いずれ死ぬし、その前に定年退職がやって来る。ずっと同じ生活を送るには自分が働かなきゃならない。だが、働いてない期間が長いと採用してくれる企業がないのも事実。生きるというのは非常に面倒だ。紬さんに監禁されなきゃ遅かれ早かれ彼女だけじゃなく、全Vtuberと別れなければならなかった


「やっぱ俺はここを出て行くべきなんだよな……」


 監禁されようとどうでもいいのは紛れもない事実。何かしらの職に就いたとしても考えが変わる事はないだろう。ただ、人に迷惑を掛けるくらいなら相手が悲しむだろう結果になったとしても俺は自ら命を絶つか失踪するのを選ぶ。一緒にいる奴の負担を少しでも減らすために


「負担だって言われる前に出てくか」


 思い立ったが吉日。俺は立ち上がると自分の私物を纏めにかかった






 私物を纏め終え、俺は玄関へ向かおうとした────


「ただいま」


 ところでタイミング悪く紬さんが帰ってきてしまった


「お、おかえりなさい……」

「うん、ただいま。その荷物は何?」

「あっ、えっと……」


 俺は咄嗟に目を逸らす。「迷惑かけるだろうから出て行きます」とは口が裂けても言えなかった


「もう一度聞くよ? その荷物は何?」

「えっと……う、家にき、着替えを取りに行こうと……」


 頼む、騙されてくれ……


「着替えを取りに行くのに荷物が必要なの?」

「で、出掛ける時はパソコン持ってなきゃダメなんすよ……」

「ふーん……」


 疑いの目でこちらをジッと見つめる紬さん。ダメだ、完全に嘘がバレてる……。だ、だが、真実を言うわけにはいかない。彼女に迷惑をかけないためにも俺はここにいちゃいけない


「そ、そんなわけでちょっと出かけてきます! すぐ戻るんで心配しないでください」


 早口で捲し立て、彼女の横を通り過ぎようとした。その時────


「待って。私も行く」


 腕を掴まれた


「か、帰ってきたばかりなんですからゆっくりしててください! 着替えを取りに行くだけですから!」

「着替えを取りに……ね。本当は出て行こうとしたクセに」

「…………」


 やっぱりバレてたか……


「やっぱり……出て行こうとしてたんだ……」


 頭を掻き毟る。どうして俺の行動はネットでもリアルでも簡単にバレるんだ!! Vtuberは大人しくエゴサだけしてりゃいいものを! フォロワー増えてもなんか増えた程度のフワッとした感じでいりゃいいんだよ!! リスナーの複垢を特定しやがって! 


「いけませんか? 監禁されようとどうでもいいですが、それ以上に特定の居場所に留まろうとは思わないんですよ」


 苛立ってるのを悟られぬよう、平静を装う。Vtuber────もとい他人へ苛立ちをぶつけても意味はない。元々俺は孤独。Vtuberからフォローされる事がなくはないが、その後配信へ行ったり、リストへ放り込まれたりしない限りVtuber本人ともリスナーとも交流はほとんどない。だからこそ浮気はするし、自分の行動が原因でVtuber女子が複雑な思いをしていても見てみぬフリができる


「……そっか。来駕は私の側からいなくなるんだ」

「迷惑をかけるくらいならそうします。みんなの事が大好き? バカなんじゃないですか? ネットの世界でワンクリックあるいはワンタップで簡単に切り捨てられるような人達を大好きだなんて滑稽なんですよ。専用タグ付けなきゃ見向きもしないような世界にいる人が俺を監禁なんておこがまし過ぎです」

「────ッ!」


 俺の言葉に悲痛な表情を浮かべる紬さん。Vtuberだって人間で忙しい時はtubuyaitaを開いてる暇すらないのは知ってる。知ってて言ってるんだから相沢来駕という人間は意地が悪い


「黙るって事は図星ですか? 申し訳ないですけど、他のリスナーには絡みに行って俺には絡みに来ないクセにリアルで監禁するような人間必要ないんで」


「それじゃあ」と言って俺は今度こそ彼女の横を通り過ぎ、玄関へ向かった。引き留めてほしいとは言わんけど、反応がないところを見るに彼女は本物のヤンデレではなく、ファッションヤンデレ。単に俺の推し活が珍しかったから側に置いておきたかったといったところだろう


「短い間でしたが、世話になり────」


 ました。と言おうとしたところで後頭部に鈍い痛みが走り、俺の意識は途絶えた




今回も最後まで読んで頂きありがとうございます

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