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推しの1人に監禁されました。どうしましょう

どうしてこうなった

「どうしてこうなった?」


 ニート街道をまっしぐらに突き進む相沢来駕は自分が置かれている状況を理解出来ずにいた。何をどう転んだら両手両足をベッドに拘束されるんだ……


「はぁ……」


 窓はカーテンで閉め切られ、部屋全体が暗い。考えるまでもない。俺は監禁されてるらしい。居場所に頓着ないから監禁されようとどうでもいいんだが……せめてこうなった経緯は知りたい。俺をベッドに括りつけた本人は不在。溜息の音だけが室内に響いた。両手両足を動かそうにも手錠でベッドの柵に括り付けられてる状態。俺は逃げたりしないんだが……


「どこにも逃げたりしないんだから拘束せんでもよかろうて……」


 俺は再び深い溜息を吐いた。事の顛末は少し前に遡る────








 少し前────俺の元へ犬系Vtuber犬山ポチからDMが届き、返事に困っていた。ちなみに彼女からのDMはこれが初めてではなく、フォローされた時にも来たので驚くものではない。ただ今回といい、フォローされた当初といい、矛盾しているとは思っていた。全てのVtuberがとは言わんが、大抵のVtuberはプロフィール欄に『DMはコラボ関係のみ返信しています。』とか『DMはコラボ、お仕事用です』等と夢見がちな一文がくっ付いてる。犬山ポチも例に漏れずだ。一文がなくてもVtuberがリスナーから来たDMに返事を返す事はほぼほぼない。と、彼ら彼女ら話はどうでもいい。今は犬山ポチから来たDMへの返事だ。どーすんだ、コレ……


 ポチから来たDMは一言『会いたい……』とだけ綴られていた。ネット上で見せてる顔とリアルの顔は違う。SNSで優しく紳士あるいは淑女的な振舞いを見せている人間でもリアルじゃとんでもないゲス野郎でしたってオチはよくある。例を挙げればキリがない。ネットで出会った女が実は美女でしたってのは物語の中だけ。現実は甘くない


「マジかぁ……」


 会いたいと言われてもなぁ……返答に困る。ネット世界の住人にリアルで会うのはある意味では危険行為。加えてどこの都道府県にいるかすらも分からず、おいそれと会えるはずがない。例えばだ、俺が北海道在住でポチが沖縄在住だとしよう。会いに行くにしろ会いに来られるにしろ万を超える交通費がかかる。ホテルに泊まるなら交通費+宿泊費だ。だからこそ会いたいと言われても困る。普通ならこんなヤバい奴は即ブロックなのだが……遊び心が服着て歩いてるような人間の俺は────


「『会いたいのはいいけど、俺、住んでるの北海道』っと」


 悪ふざけで自分が北海道在住だという事実を突きつけた。犬山ポチのtubuyaitaプロフィール欄に出身地はバーチャル北海道って書いてあったが、ネット世界じゃ何とでも言える。プロフィールにバーチャル北海道と書いてあっても本当かどうかは分からん。ネット世界だからな、いくらでもどうとでも偽れる


「仮に北海道住みでも2度目は会いたいとは言わんだろ」


 一言で北海道と言っても土地は広大だ。北海道でも俺が札幌でポチが網走だったら気軽に会える距離じゃない。網走から札幌までバスで5時間半、列車で5時間46分────約5時間50分。今が10時くらいだから単純計算ですぐに出発したとしても到着する頃には15時半あるいは15時50分。完全に夕方。1人のVtuberにそこまでしてやる必要はない。俺は机にスマホを置くとベッドに寝転がった


「いきなり何なんだ……」


 Vtuberになる人間は普通とは少し違うと思う。妙に独占欲が強かったり、フォロバもリストに入れる事もしないクセに普通の呟きを監視する。何の反応もないから監視されてる気は全くせんが、別のVtuberの配信で『人を浮気者みたいに言わないでくれませんかねぇ……』ってコメントしたら『ライさんは色んな女の子見てるの知ってる』と言われた時に初めてこの人監視してたんだと思ったが、監視されたところで別になぁ……。だが、ポチが突然会いたいと言ってきた理由が俺の浮気……というか、色んなVさん見てる事に原因があるのなら少し改め────ようとは全く思わない


「どーせ仕事のし過ぎとかで疲れてウッカリ送ったんだろ。明日になればいつもの感じに戻って“すまぬ!”とか言ってくるだろ」


 人間生きていれば気の迷いはある。普通のリスナーたる俺に会いたいと言ってきたのだってきっと気の迷いだ。この時の俺は自分にポチが自分に会いたいと言ってきたのは気の迷いかイタズラだと思っていた



 しばらくしてスマホが再び震えた。連絡よこす奴は両親か数少ない友人しかいない。俺はのそっとベッドから起き上がると机にあるスマホを手に取った


「マジかよ……」


 スマホの通知は両親でも友人でもなくtubuyaitaの通知。しかも、ポチからのDMだった


『北海道のどこ?』


 通知にある文面だけでコイツが俺の住所を特定しようとしているのが丸分かりなのだが、どうやらこの文章には続きがあるらしい。北海道のどこ? の後に『……』と表示されている


「嘘だろ……」


 出会い厨というのは面倒だ。仲良くもない人間にいきなり住所を聞いてくる。別に相手が出会い中だとしても俺にはどうでもいい事だからブロックはしない。自分が当事者になると思ってなかったから困惑はしてる。さて、どう返したものか……困った


「めんどくせぇ……」


 悪態をつきながらも俺は『北海道札幌市』とだけ打ち込んで送信した。ちなみにポチのメッセージはこうだ『北海道のどこ? 私は北海道の札幌だよ』というもの。具体的な地区は書いてなかった。俺も彼女だか彼に倣って最低限の情報だけ教える事にしたのだが……


『なら今すぐ札幌駅に来て』


 自分の住んでる地域を教えた途端食いついてくるとは思いもしなかった


「はぁ……」


 来るもの拒まず、監視を恐れずの俺でも溜息が出てしまう。数多くいるリスナーの1人でしかない俺に会いたいと言ってきた上に友人間隔での呼び出し。Vtuberの感覚というのは分からん。拗らせたら後が面倒だと思った俺は『分かった』とメッセを飛ばし、コートとを羽織ると財布、部屋の隅に置いてあったノートパソコン一式を持って部屋を出た







 札幌駅に到着した俺は……


「どこにいるんだよ……」


 改札口前でポチを探していた。結論から言おう。見つからない。当然と言えば当然だ。何の特徴も聞いてないんだ、探そうにも探しようがない。頼りになるのはtubuyaitaのDMのみだが、ご時世的にマスクをしている人間はそこら中にいてオマケにスマホを弄っている人間もそこら中にいる。つまるところ手詰まり


「電気屋行くか」


 結局のところ冷やかし。リスナーを大事にしているポチが冷やかし行為をするとは思えないが、見つからない以上、そう考えるのが普通だ。ネットで出会いを求めるのは愚かな行為だと事を今日の教訓にして電気屋で新しいマウスかパソコンを見て帰ろう。そう思って電気屋へ足を進めようとした時だった


「ライ殿?」


 背後から女性の声がした


「はい?」


 振り返ると背が高く、ショートカットの典型的なモデル体型の女性がいた。ビジネスコートに身を包み、スーツ姿であるところを見ると彼女は仕事帰りか営業先から会社へ戻る途中か……どちらにしても平日の昼間に何してんだか


「ライ……殿で合ってるよね?」


 不安気な目で俺を見る女性。どうして一目で俺がライだと分かったんだ?


「えっと……そうっすけど……アンタは?」


 俺────というか、リスナーを殿呼びするVtuberなんて犬山ポチ以外知らない。確認するまでもなく彼女は犬山ポチだというのは解かる。今のは確認だ。犬山ポチを装った別人とも限らんからな


「犬山ポチって言えば分かる?」

「────!?」


 彼女のスマホに表示されていたのはtubuyaitaのDM画面。そこにあるのは俺とのやり取り。彼女が犬山ポチなのは間違いないないんだろう。俺は目を見開くしかなかった。ただ、一目で俺をライだと見破ったのはなぜだ? 俺は服装や容姿に関する特徴を何も言ってないぞ


「随分と驚いてるね。無理もないか……」


 俺のリアクションは予想済みとでも言わんばかりの反応。残念ながら当たりだ。俺は何も特徴らしい特徴を言ってないのだから


「当たり前じゃないですか。こちらは服装や容姿について何一つ特徴を言ってないんですから」

「うん。何も聞いてないよ。とりあえず私の家行こうか。詳しい話はそこでするから」

「えっと……逃げちゃダメっすかね?」

「ダメ。逃げたら許さない」

「はぁ……分かりました。行けばいいんでしょ」

「うん。素直でよろしい」


 こうして俺は犬山ポチの自宅へ行く事になった






「ここ」

「で、デカいっすね……」


 犬山ポチの自宅は札幌駅から地下鉄南北線すすきの駅徒歩7分くらいのマンション。家賃は……ざっと見積もって10万程度か。ニートの俺でもここがかなりいい物件だというのは簡単に理解できた。Vtuberは謎の経済力があるのは知っていた。配信機材に100万近くかける人もいるくらいだ。彼女も例に漏れずそれなりにいい会社に勤めているあるいは単価の高い仕事をしているのだろう。俺には縁のない世界だ


「早く行こ」

「はぁ……」


 俺は手を引かれる形で犬山ポチの住まいへ案内されたのだが……外装から見ていい物件だとは思ってた。にしても女性の1人暮らしにしては広すぎないか?


「ひ、広い……」


 玄関口ですでに脱帽。マジでVtuberってのはなんなんだ……


「そうでもない。私からすると少し狭いくらい」

「さ、さいですか……」


 これで狭かったら俺の部屋は何なんだ……激セマじゃん。なんて思ってると────


「いつまでここにいるの? 早く上がって」

「はいはい」


 犬山ポチが不満気な顔でこちらを見ていた。俺はリビングへ通され、彼女が出してくれた紅茶を飲んだ






 で、現在に至る。出された紅茶に口を付けたまでは覚えているのだが、その後、急に意識が遠のいて気が付いたらこの有様。最後に見たのは妖艶な笑みを浮かべる犬山ポチの姿。確かあの時────


『ライ殿! 捕まえたのじゃ!』


 犬山ポチはそう言った。捕まえた? 俺は捕まるような事をした覚えはないんだが……何なんだ……


「俺が何をしたってんだ……」


 居場所に頓着はない。言ってしまえば一緒にいる人間にも頓着はない。最低限自分に関わる人間に危害さえ加えなければそれでいい。俺自身がどうなろうとどうでもいい。俺はただ生きてるだけなんだから。だからヤンデレ系Vtuberの雑談枠で『監禁されようとどうでもいい』とコメしてる根底はこれに尽きる。俺はただ生きてるだけ。土日祝日関係なく家に引き籠り、出掛けるとしたらコンビニに行く時だけ。他者との関わりがあるとしたらネットだけでリアルじゃ1ヶ月に1度あるかないか。時々自分は何のために生きてるのかすら分からなくなる。こんな奴を監禁したところで意味はないのだ


「戻って来たら色々聞かないとな……」


 聞きたい事があり過ぎて何から聞いたらいいのかは分からない。どうして一目で俺がライだと分かったのか、どうして会いたいとDMしてきたのか、どうして監禁したのかと疑問を挙げれば尽きない。何はともあれまずは本名からだな……本当、どうやったらVtuberに監禁されるのやら……つか、両親や数少ない友人にどう説明すりゃいいんだよ……推しの1人から監禁されましたってか? 勘弁してくれよ……


「前途多難だな……こりゃ」


 俺は今後の事に頭を悩ませながら目を閉じた








今回も最後まで読んで頂きありがとうございました

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