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on i Messiah  作者: りみてぃる
2/11

1.口裂け女

〝旧日本〟


“日本だった”この島は、かつて国であった事を思い浮かべる事すらももはや難しいほどに小さな島へと変わってしまった。


世界救済戦によってこの島を手にしたアメリカ合衆国であったが、合衆国含む各国はあの戦争によって日本人及び中国人に対してトラウマめいたものを抱くようになる。

やがて各国は少ないながらも現存した日中人、およびその血を濃く継いでいると思われる人間を全てこの島へと送り、隔離した。


そしておよそ200年の時を経て、復興とも取れる独自の成長を遂げてきた小さな島。

この物語は、そんな島の中の“トツカ”と呼ばれる地域で暮らす1人の女子高校生…


天ヶ瀬由紀(あまがせゆき)の物語だ。




―――――☆―――――


2237年


アメリカ合衆国植民地 旧日本内 トツカ

〝八木ヶ丘高校〟2年3組 教室


「とっ、友達からで良いので!」


眠くていまいち聞いていなかった。

昨晩は“UMA”なるものの文献を読み耽ていたので寝不足だったのだ。


「ぁ…えっと…友達になってくれるの…?」


朝のホームルーム前、いつも通りざわついた教室の中。

私の机の前で綺麗な90度のお辞儀をしたまま固まっている男子生徒にそう声をかける。


「そ、それは…いいんですか!?」


男子生徒は尚もお辞儀は崩さず、驚いたような声で、しかしとても嬉しそうな表情をしたまま顔だけ私の方を向いた。


まぁこの人が誰であるかは全く存じ上げないが、友人が増えるのは学生という身分の私としても吝かではない。

しかし今まで異性の友達との交流なんて経験は幼稚園の頃で止まっているし、そんな嬉しそうな顔で見つめられた所でここから話を広げる程の

話力はない事を自覚している。


そうだ、と自分の中で手をポンと叩き、小さい頃お父様から『友達と仲良くする方法』なるものを教わったのを思い出す。

その中には“趣味の話をする”というものがあったし、そもそもこういう話は世間一般的に男の子の方が好きな印象だ。



「じゃあ早速なんだけど、オカルトって興味ある?」



―――――☆―――――




「いやはや…腰まで伸びた綺麗な髪、そして顔が良い美少女こと由紀ちゃんさん、また両断しちったねぇ〜」


何故かおだてながらニヤニヤと近付いてきて話かけてきたのは幼馴染の“字原 陸(あざはらりく)”だ。

タイミングから察するに先程の一部始終を見ていたのだろう。


「おはよう陸。そうね、せっかく友達を増やすチャンスだったのに」


お父様から交友は広く深く持てと教わっているだけに、もしかしたら逃した魚は大きかったのかもしれない。


「友達?何言ってんの由紀、あれ告白でしょ?」


登校中に買ったのであろう豆乳を飲みながら私の前の席に座る。


「告白って何の事よ、友達になりたいって言ってたじゃない」


私も朝の準備をしながら適当に話す。


「友達“から”って言ってたでしょ?…てか…もしかして、その前の話聞いてなかった?」


友達…から…確かに思い返してみればそういった言い回しだったかもしれない。


「御明答、昨晩遅くまで調べ物をしててお辞儀までの過程が全然頭に入ってこなかったわ」


今更になって寝不足を恥じらうような仲ではない。そう言うと陸は『出たオカルト女』と呆れたような表情で口を開く。


「今度は何調べてたのさ、また旧日本の人がつくった迷信とか?」


「迷信って何よ、“てけてけ”も“チュパカブラ”も“ティアマト”も昔は実在したのよ!」


私が少しムキになって言い返すと、陸の顔が更に呆れた表情に変わる。


「ハイハイ…ホームルーム始まるんで、私も自分の席に戻りますねっと」


そう言いながら陸が席を立つと、同時にチャイムが鳴る。

机の上に目を移すと、準備の途中でまだ散らかったままだった。



―――――☆―――――



「と言う訳で…この第三次世界大戦は当時の日本と中国が世界規模の大虐殺を目的とし始められたものであり…それでもこの島にある程度の設備が与えられているのはかつて日本は各国との交流が……」


世界史の浜村先生の声がクラスに響く。

基本的に勉強する事は好きではあるが、こと歴史に関してはどうも苦手意識がある。

どうせ昔の話をするなら、伝説や心霊の類の話をして欲しいものだ。


「ふゎ〜…ぁ」


授業を聞いているつもりだが、やはり寝不足は天敵。いくら気をつけていても欠伸が出てしまう。


「天ヶ瀬!」


浜村先生が3割増の声量で私の名を呼ぶ。

しまった…見られてたか。


「ちゃんと聞いていたか?先生の目には随分と大きな欠伸をしていたように見えたが」


こういう時…素直に謝るのが正解なのか、上手くごまかすべきなのか…少し考えようとするが、睡眠不足の脳髄では答えにたどり着きそうにはない。


「はい。合衆国様は大戦を引き起こした旧日本とは元々良好な関係であり、主導権は元々合衆国側にありましたが、経済的な面…輸出入に於いても互いに支え合ってきた背景がある為…といった内容でしたよね?」


起立し、暗記済みの教科書の内容を噛み砕いて口に出す。

浜村先生は私の顔を見るやいなや不満げな表情を浮かべたまま振り返って勝手に授業を進めるので、私も勝手に着席する。


そういえば、お父様が昔同じような話をしてくれた気がする。

確か『交友関係が深ければ深いほど、もし悪い事をしてしまっても最低限の損害で済む』…みたいな内容だった気がする。

今にして思えば小さな子供にする話ではない気もするが…そう考えると今みたいな状況では素直に謝った方が皆に受け入れてもらいやすいんだろうか…。

自分の発言が悔やまれるばかりだ。




―――――☆―――――




放課後、多くの文献が残っている学校の図書室へ向かう。

救済戦以前はわざわざ紙とにらめっこせずとも手元で情報を仕入れる事ができる“インターネット”?といった便利機能があったらしいがそれも今では失われてしまったらしい。


図書室に着き、本棚を眺めていると噂話らしき会話をしている女子生徒の声が耳に留まる。


「ねぇ、聞いた?また近所で殺人事件が起こったらしいよ」


最近よく聞く話だ。どうやらこのご時世にまだ人工を減らそうとする通り魔がいるとかなんとか…。


「聞いた聞いた、白い布みたいなものが口についてて、刃物で惨い殺し方をするとかなんとかって…」


口に布…?刃物…?……口裂け女…??


…口裂け女が出るなら是非とも会ってみたいものだ。現代人は昔の心霊を盲信と笑って興味を持たないが、私は口裂け女への対抗策すら予習済みだ。むしろ彼女であれば仲良くなれる自信すらある。


兎にも角にも覚えておこう。物騒な話程度にしか認識してなかったが、口裂け女と遭遇できるのであれば会いに行ってみるのも悪くないかもしれない。


私は気になる本を何冊か選んで借り、そのまま帰った。





―――――☆―――――





自宅。

自覚できる程度には裕福な家庭ではあるのだが、両親は共働きなので家に帰っても話す相手はいない。

入浴を済ませてから、髪を乾かしながら自室で書に耽る。


「なまはげ…」


心霊にも特定の地域でしか伝えられてないものだったり、地域によって形態が異なったりするものがあるのか…。


発行年に似合わず綺麗な状態で残っている〝日本のおばけ特集デラックス(2018)〟を読んでいると、部屋の窓からコンコンとノックの音が聞こえる。


「やーぃ、自宅ぼっちオカルトマニアの由紀ちゃんやーぃ」


窓を開き、張り付いている陸を見つめる。


「毎回思うんだけど、隣の建物とはいえどうやってアパートの1階に住んでいる女子高生が一軒家の3階にある窓を叩けるのかしら?」


物理的におかしいクライミング能力だと思うのだが…。


「そう思うならとりあえず入れてよ…結構つらいんだから…」


であれば普通にインターホンを押して玄関から入れば良いのでは?なんて常識を大人しく聞き入れる性格ではない。

彼女は私のオカルトマニアを異常というが、彼女の体育会脳はそれこそ異常だ。


「じゃあ引っ張ってあげるから手伸ばしてよ」


「ん、あんがと」






―――――☆―――――






陸は私が本を借りて帰った日は、晩御飯を食べてないと心配して一緒に食べてくれる為に買ってきてくれる。


「パンと、おにぎり!どっち派?」


それに、おそらく両親がいなくて寂しい思いをしていると思っているのだろう。

常に笑顔で、私に話しかけてくれる。


「ねぇ、聞いてる?」


孤独を感じる事はないし、1人で本を読むのも好きだが、それもきっと彼女がこうして孤独を消してくれるから成り立っているのだろう。


「ねぇ、由紀!」


エモい雰囲気にしようとモノローグで語っていたら陸がなにやら怒っているので、当たり障りのなさそうな返答を探す。


「えっと…カシマレイコ?」


「私は五体満足だよ…って何の話だ!」


なにやら違ったみたいだ。


「いやいや冗談、私がパン好きじゃないの知ってるでしょ」


勿論聞いてはいたが、10年来の友人がまさか今更おにぎりかパンか、なんて聞いてくるとは思いもしなかった。


「まぁね〜」


言いながら、陸はコンビニ袋からおにぎりを3つを出して私に渡す。


「えっ、こんなに食べれないよ…?」


私の胃袋はおにぎり1つ前後しか許容できないのだが…。


「えっ、そうなの?じゃあ私食べるね」


2つをコンビニ袋に戻す。少食なのも、勿論陸は知っているはずなのだが…。


「貴女…誰?」


陸じゃない。よくよく考えれば、陸がカシマレイコなんて知っているはずもない。

姿かたちは私のよく知る陸だが、私の目の前にいる彼女は間違いなく別人だ。


「えっ、わ、ワタ、ッワ」


それは、陸の声から徐々に人の声なのかどうかすらわからない奇声へと変わり、見る見る内に姿かたちも変化していった。

身長は2m近くにもなり、口元にはマスク、手には巨大なハサミ。

仲良くなれる自信があるとは言ったが、仲の良い人物が“なる”なんて聞いてない!


「キヒ、も、ワァ!」


ポマード、なんて言う隙もないまま、“ソレ”は私の胴体を切り離した。




擬態するとか知らないし…ないじゃん…質問タイム。




うっすらと自分の下半身が離れていくのを見たまま、私の意識は途絶えた。

・天ヶ瀬 由紀


主人公、身長167cm。

それなりにモテる程度の容姿に加えて、腰まで伸びたストレートヘアが特徴的。オカルト(霊的現象、神的現象、不自然な現象諸々含む)が好き。嫌われているわけではないが、学内外問わず陸以外に深い交友関係はない。好物はセロリ。


・字原 陸


由紀の親友、身長164cm。

小さい頃から由紀と仲が良い。スポーツ向きの身体と、かなりの運動神経の持ち主。ホラーが苦手。好物はドーナツ。

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