第三話 神経やや衰弱
大変お待たせいたしました!
まさか一月も空けてしまうとは!
前回までのお話を忘れた方もいると思うので、おさらいします。
京都出身の女の子・山城 華澄と、関西弁の男の子・難波 徹が放課後の教室でちょっと変わったトランプゲームを遊びます。
以上です。
それでは第三話「第三話 神経やや衰弱」お楽しみください。
「よっ」
「こ、こんにちは」
放課後の教室。
華澄は徹と三度顔を合わせていた。
「自分、ホンマ暇なんやな」
「ひ、暇とちゃう」
「せやったら、俺と遊びたくて待っとるっちゅーことか?」
「……う……」
「いやー、モテる男は辛いわー」
顔を赤くする華澄をからかうようにそう言うと、徹はトランプを取り出した。
「さて、今日は何と! 全く新感覚のトランプゲーム! その名も! じゃかじゃかじゃかじゃかじゃん!」
ビシッとポーズを決めると、徹は高らかに宣言した。
「神経やや衰弱や!」
「は?」
・トランプラフ・ 第三話
〜神経やや衰弱〜
「え、な、何? 神経衰弱?」
「ちゃうちゃう。神経やや衰弱や」
「え、やや?」
明確な否定に、華澄の頭には疑問符がいくつも浮かぶ。
「普通の神経衰弱は、遊びなのに記憶力を使うて疲れるやろ? これはそのストレス軽減版なんや」
「どう違うん?」
華澄の問いに、徹はカードを幾つか選んで机の上に伏せる。
「基本のルールは一緒や。二枚めくって、同じ数やったらもらえる」
徹はカードをめくり、A二枚をまとめて自分の方に寄せる。
「ただ、こん時同じマークをめくってしもたら、そのカードは戻されん。めくったままになるんや」
そう言って、めくったクラブのAとKを指し示す。
「え、そのめくったままになってるカードと同じ数めくったら、どないなるん?」
「そのまま取れる。自分でも相手でもな」
もう一枚カードをめくり、K二枚を合わせて、A二枚に重ねる。
「やっぱりそうなんや」
「ただし、一枚目で同じ数めくった場合はもう一回めくれるんやけど、二枚目で合うた時は、それ取って一枚目戻して相手の番になる」
「うん。分かった」
ルールを頭の中でさらう華澄。
確かにそれなら普通の神経衰弱よりもスムーズにできそうだ。
「さ、並べるで」
「て、手伝う……」
二つ繋げた机に、五十二枚のカードが並ぶ。
「ほな最初はグー! じゃんけんぽん!」
「負けてしもた……」
「じゃんけんは弱いなー」
「で、でもゲームには勝ってるし……」
その言葉に、徹がにやりと笑う。
「えらい自信やな。せやったらこの勝負、賭けしよか。勝った方の言うこと一つ聞くってやつや」
「えっ」
華澄の顔が身体を守るように腕を回し、身を引いたのを見て、徹は慌てた様子で手を振る。
「ちゃうちゃう! やらしいこととかせーへんて! あくまで遊びの範疇で、や!」
「ほ、ほんま……?」
「当たり前や! どないな事想像したんや……」
「っ……!」
先程より更に顔を赤くする華澄。
「わ、悪かった! 始めよ始めよ!」
徹がめくったのはスペードの5。続いてめくったのはハートのQ。
華澄が見たのを確認し、カードを戻す。
「次は山城の番や」
「う、うん」
華澄がめくると、ダイヤの7とハートのAが現れ、また裏返される。
「さて次は俺やな」
めくったカードはクラブの2と5。
「あ! しもた!」
「これでこの二枚は開けたまま、なんやったね」
「せや……。しかもこいつは……」
「確かスペードの5がここに……」
華澄が徹の最初にめくったカードを開き、
「揃った!」
先制点を手に入れた。
「くぅ〜! しくじったぁ! まぁまだまだこれからや! もう一回めくり!」
「う、うん」
次にめくって出たのはハートのJ。そして、
「ダイヤの2……!」
「あ〜! せやったらそいつも持ってき!」
華澄はクラブの2と共にカードを手に入れた。
「二枚目やからハートのJは戻して、俺の番やな!」
徹は勢いよくカードをめくった。
一進一退の攻防が続く。
華澄が当てれば、徹が取り返す。
かと思えば徹が同じマークを出してしまい、華澄が取り返す。
勝負は終盤に差し掛かった。
「俺の六枚負けか。これ全部取れたら俺の勝ちやな」
徹の番で、場には十枚のカード。
華澄はごくりと唾を飲み込む。
「まずスペードの3は出してもろたから、こっちのクラブの3と合わせて、と」
「あぁ……」
「そしてこのダイヤのKには、ここや!」
立て続けにカードをゲットする徹。
華澄は見ている事しかできない。
「後は勘や! ここは、お! 8はここにあったな! ほんで次は、6か……。こっちは4やったから、どっちかやな……」
二つのカードの間を行き来する指。
その指がぴたりと止まる。
「こっちや!」
めくったカードは、
「ダイヤの、6……」
徹の勝利を示していた。
「俺の勝ちやな! おおきに!」
「負けてしもた……」
しかし、これまでの神経衰弱より、短時間で、しかもストレスは少なかった。
この神経衰弱、楽しいな、と思っていたところへ、
「さ、せやったら一つ言うこと聞いてもらおか」
「え?」
徹の楽しそうな言葉が、華澄を凍らせる。
怯える華澄に、手をひらひらさせて笑う徹。
「いや、難しい事言わへん。明日も一緒に遊んでや」
「あ、うん、それなら……」
「明日は大勢の方がおもろいゲームやるから、俺の友達二人も入れてぇな」
「えっ」
そこに最終下校の鐘が鳴る。
「お、ちょうど時間やな。ほなまた明日な」
「あ、待っ」
徹はカードをまとめると、さっと荷物を持って教室を出て行った。
「……どないしよ……」
残された華澄の顔には、恐怖と絶望が等分に広がっていた。
読了ありがとうございます。
いやー、勝負の描写って本っ当に難しいものですね。
赫き王に、過程を吹っ飛ばして結果だけが残るッてしてもらわなかったら、今月中に投稿できなかったかも……。
次回は四人対戦! 怯える華澄の運命やいかに!
第四話「ドン」をお楽しみに!
……家賃、じゃなかった、投稿は今月中には必ず!




