狸和尚と狐小僧(創作民話 18)
人里近くの山に狸と狐が住んでおりました。
ある日のこと。
どちらが化け上手かということになり、そこで二匹は人間に化けて勝負をすることにしました。
狸は和尚に、狐は小僧に化け、人の住む里へと向かいました。
この勝負。
先に正体を見破られた方が負けとなります。
二匹はふもとまでやってきました。
ところがそこで、本物の和尚と小僧にはち合わせをしてしまいます。
二組の和尚と小僧は、見分けがつかぬほどそっくりでした。
村人たちはこまってしまいました。
双方とも自分らが本物だといってゆずらず、どちらが本物かわからないのです。
庄屋はそこで一計を案じました。
「和尚様と小僧しか知らないことを、双方にたずねようと思う。本物は正しく答えようからな」
村人らにそう言いおいてから、庄屋は二組の和尚と小僧の前に進み出ました。
「これから、それぞれに質問をいたします。答えていただけますかな」
「もちろんじゃ」
「いかようなことでも」
それぞれの和尚がうなずきます。
「では、こちら様から」
庄屋は、まず片方の和尚と小僧に問いかけました。
「和尚様は小僧さんのことを、いつもなんと呼んでおられますかな」
「ちんねんじゃ」
「では小僧さん。和尚様の顔には、ホクロがいくつありますかな?」
「ふたつです」
小僧が答えます。
庄屋はふむふむとうなずいてから、もう一方の和尚と小僧に向き直りました。
「和尚様、小僧さんの顔には、ホクロがいくつありますかな?」
「ひとつもない」
「では小僧さん。和尚様から、いつもなんと呼ばれておりますかな?」
「ちんねんです」
小僧が答えます。
「みなさん、まちがいのない答えでありました。お茶でも飲みながら、しばしここでお待ちを」
庄屋はこまり顔で屋敷に入りました。
「さすがだな」
「あんたこそ」
「これでは引き分けだな」
「そのようだ」
狸和尚と狐小僧がこそこそ話していますと、そこへお茶と団子が運ばれてきます。
「団子まで食えるとはな」
「さっそくいただこう」
二匹は団子を食べながらお茶をすすりました。
するとたちまち。
狸和尚は狸に、狐小僧は狐にもどってしまいました。
二匹が一目散にその場を逃げ出します。
逃げ去る二匹を見て、
「思ったとおりでありました」
庄屋は満足そうにうなずきました。
「庄屋殿、いったいどういうことなんじゃ?」
本物の和尚が首をかしげます。
「あちらのお茶には、たっぷり塩を入れておきましたもので」
「そうであったか。それでなぜ、あやつらがニセモノだとわかったのじゃな?」
「ホクロのことをたずねたとき、こちらの小僧さんは和尚様の顔を見て答えました。ですが、あちらの和尚様は相手の小僧さんの顔を見て答えました。それでわかったのです」
庄屋は正体を見破ったからくりを教えました。
そのころのこと。
「ワシら、どうして見破られたのかな?」
「まちがえた覚えはないのにな」
狸と狐はしきりに首をひねっていました。
「なんでだろう?」
「どうしてなんだ?」
どんなに考えてもわかりません。
ただ……。
ひとつだけわかったことがありました。
人間は恐ろしいものだということが……。