異世界道中ニーマロン
異世界転生しても全く役に立たない、そんな普通の少年の話。
@短編その34
「東海道中膝栗毛がお題だ」
「マジか」
「膝栗毛。ニーマロン」
「それが言いたいだけだな」
お題募集中。何かください。
この世界では、13歳になったら親元を離れ、一人旅をして修行するのが慣例だ。
旅をする間に、人生を考え、職業なども決めるのだ。
だいたい二〜三年の旅をするのが定番だ。
俺もついに13歳。ウマに乗っての旅だ。
俺の爺さんは白い牛に乗って旅をした。その旅で生涯の伴侶、婆さんと出会ったのだ。
親父は綺麗な白馬で旅をして、鉱山を見つけて大金持ちになった。
俺の母さんは最初の妻で、今は5番目の母さんだ。良い人なので不満は無い。
さて、このウマだが、旅など乗り物に使う生き物を称してウマという。
ウマは代々父親が息子の13歳の誕生日にプレゼントするものである。
ああ、俺も親父みたいな綺麗な白馬がいいなぁ・・・ペガサスでも良いけどね。
「息子よ!お前のために注文したウマが届いたぞ!」
「やったーー!!」
俺は屋敷を出て、庭に行ってみた。
あれ?いないぞ?
「上だ上!」
親父の声に反応して、上を見た。
影が俺を覆う・・・ばさっ・・ばさっ・・ 羽音?
急に突風が吹き荒れる!
・・・・・・・・。
まさかね。
ギュウウウ・・
この声は・・・! 俺は親父の首根っこをひっ捕まえ、グラグラ揺さぶった。
「親父ぃいい!!!」
「カッコイイだろ?な?な?私はドラゴンに乗りたかったんだよなぁ〜」
「自分の夢を息子に押し付けんな!!ドラゴンだぞ!!餌代も、休ます場所も、どうすればいいんだ!!」
「そこ考えてなかった(テヘペロ)」
でっかいドラゴンが、庭に所狭しと舞い降りた。でも狭かったようで、テラスをクラッシュした。
栗色のドラゴン。でかい。種類はブロンズドラゴン。テラテラに艶があって、栗の皮を彷彿とさせる。
「お前、マロンな」
名前は決まった。鱗もちょっと栗のように丸みがあるのも、名前の由来である。
3日後、俺とマロンは旅立った。
どこに行くかは全く考えていないが、美味しいものや珍しいものが食べたかったので、噂の街へと飛んだ。
目的地、アレンザは、通常ウマで4日掛かる。
でもドラゴンで飛んだら6時間だったよ!!
た、旅の情緒が、醍醐味が・・・ゆっくり進んで景色も堪能しながら、時には同じ旅人とコミュニケーションをとりながら行くのがいいんじゃないですかねぇ〜〜・・・
全く時間にとらわれないのに、なんだってこのスピードで旅をせにゃあならんのだ?
あー・・昔・・・前世なら喜んだかもしれない。さっとぱっと往復出来たからな。
実は俺は前世の記憶持ちで、前のオレは30歳くらいで死んだ。
なんか毎日忙しくて、追い立てられる毎日で、気がついたらこの世界に転生してた。
病名は分からんが、多分死んだんだ。ブラックというよりも、オレが要領が悪かったんだ。
テキパキ出来なくて、急げばさらにドツボにハマって・・・疲れていると更にさっさと進まなくて・・
大学出て、就職して、休み返上で働き続けて・・・良い事無かった人生だった。童●だったし。
せめて、一人旅でいい、旅行行きたいなぁ・・
雑誌や広告を見ながら溜息ばかりだった。
で、最近前世の記憶が戻ったんだ。
前世で出来なかった分、13歳の修行の旅、楽しもう!!って張り切っていたんだが・・・
あ。もう着いたわ、アレンザの街。
マロンはどこに置いておけば良いのやら・・・
せめてゴールドドラゴンなら、小型化して肩に乗せられるのに・・・ブロンズは出来ないんだよなぁ・・
ギュギュー
何を言っているか分からんな!
腹かな?腹ぺこりんかな?
親父からもらった『ドラゴン飼育のポイント』を読む。
なになに・・・
『ブロンズドラゴンは、1日2食。朝ドラゴンフード2個、夜ドラゴン用オーク肉2キロを食べさせる・・水分はたっぷり』
ああ、そのくらいの量でいいんだ!よかったぁ・・・
ドラゴン用の食料は、マロンの体に括り付けているので楽だ。
寝させる所だけ用意すればいいんだな?
3時間ほど遠くに飛んで来いと放ち、その間にオレは街を見に行く。
餌と水の補充、俺の買い物、そして食事。
名物の団子を食べて、軽食にナッツタフィーを買った。
ぶらりと街を見物しながら、マロンと待ち合わせをした街の外にある野原に行くと、マロンが寝ていた。
まだ1日目だが、これからどうなるか心配である。
マロンの体に凭れ、空を見ていると、10数匹のドラゴンが飛んで行くのを見つけた。
多分どこかの竜騎士団だろう。
さて・・・この旅は人生を決める旅。自分に合った職を見つける意味もある。
今見た竜騎士団に入るのも良し。
ギルドで冒険者をするのも良し。
どこかの商人に弟子入りして商売を覚えるのも良し。
「俺は何になろうかなぁ・・・」
そしてウトウトと眠ってしまった。
ギュウウーーー!!!
「?!」
マロンが騒いでる?!何かあったか?
慌てて起きあがると、マロンにロープが巻き付いていて、踠いているが体の自由がきかないようだ。
「雷撃」
「ぎゃああ!!」
数人の男達が、体が痺れて大人しくなった。あー、びっくりした。盗人かな?
マロンには証明札をつけいているから野良では無い。それを勝手に捉えようとしたのだから、文句は言わせない。
俺は男達を縄で簀巻きにし、大きな樹に括り付けた。
「さーて、夜中にはモンスターが来るかもね〜。じゃあな」
喚く男達をほったらかして、俺とマロンは飛び立った。
うーーーむ。どうしよう?
こんな事、また起こらないとも限らないしなぁ・・
どうしたものか・・正直邪魔だ。
別に見せびらかしたい訳でない、普通のウマで良かったのになぁ・・・
転生したけど俺の知識は役立たず。
この世界にも事務職はあるだろうけど、やりたくない。
剣だってそんなに強くない。
魔法なんか生活魔法で精一杯。
転生意味無い。
俺にあるのは、若さと親が金持ちなだけ。俺の金では無い。
そして、貰ったドラゴン。
行きたいところにすぐ着く。おもんない。
別に剣も魔法も極めたい訳じゃ無い。
やりたい事も今は無い。
この前まで、旅を楽しもう、自分に出来る事を見極めよう・・・前向きに思っていたんだ。
でもウマのせいで、そういう気持ちも削げた。もうどうでもいい。
こんな日々がしばらく続いて・・・
俺はついにマロンを放つ事にした。
高かろうと、親父の夢だっただろうと、手間。邪魔。いらない。
かわいそうだから、かなり辛抱したけど、もういい。
「さあ、これで最後のご飯だ。うちに帰れるんなら帰れ」
荷台の餌袋や鞍を外し、 目の前に餌を並べた。
キュウウ・・・
どうやらマロンは意味がわかっているようだ。賢いからな、マロンは。
「出来ればばうちに戻れ。だめなら、暮らしやすいところに行け」
キュウ・・・・
しょぼんとするマロン。
そういう寂しそうな声を出すな・・
連れて行っても、マロンを置ける場所はなかなか無い。
本当、迷惑だぞ、親父は・・・
せめて小型化出来る種族だったら良かったのに。
キュウウウーー!!!キュウウウーーー!!!
くそっ・・・そんな声で泣くなってば・・・
俺は堪えて歩き出す。
キュウ・・・
声が小さくなる。
マロンはあそこから動いていない。
俺の言う通り、ついてこない。
ごめん、マロン。
邪魔だ。
面倒だ。
俺が自由に出来ない。
だからって、置いていくか?
せめて、俺んちに連れていくくらい、すればいいじゃないか。
置いていくって。
捨てていくって。
最低だよな、俺は。
あれから1時間は経過していた。
だから戻っても、マロンはもういなかった。
ああ、薄情な俺に愛想を尽かしたか。
ごめんな、マロン。
マロンがいたら、モンスターも気にしなくて済んだ。
マロンがいたら、寂しく無かった。
マロンがいたら、家にすぐに戻れた。
今俺はモンスターに追われ、崖から落ちて足を折って動けないでいる。
「ふぅ・・」
すごく酷い骨折で、骨まで飛び出ているのに、なぜか痛くないんだ。
うはは、神経どっかやっちゃったぞ。痛く無いのはありがたいが、痛みで危険度が分かる、そのセンサーがぶっ壊れたって事だ。血もかなり出ている。安らかに死ねるかもな。
まあ、これは・・・マロンに酷い事をした天罰ってやつかな・・
せっかく転生したけど、今回も良い事無しだった。
もう死なせてくれよ、なあ神様。
もしかしたら、意味のある転生だったかもしれないが、俺はこれで終了だ・・・
キュウウ!!キュウウ!!
マロンか。
薄情な俺を助けなくていいんだぞ。
戻るくらいなら、捨てなければいいのに。馬鹿だった。
目を開けると・・マロンが・・・
俺を喰っている。折れた足を、しゃぶっている。
あはは・・・報復、かな?
腹減ったのかな・・・
野生に戻れなかったのかな・・・
ああ、喰え喰え。もうすぐ俺は死ぬんだから。
ん?
足が・・・軽くなった?というか、動く?
怪我が治ってる。
マロンが治してくれたのか?
キュウウウ・・
「ありがとう、マロン。俺を許す気か?」
キュッ!
マロンが頭を縦に振った。
再び俺はマロンと旅を再開。
俺はロンが待てる場所を用意した。
組み立てテントだ。この中なら、マロンが目立たない。
マロンの気配を弱くするお札を用意し、そこで寝て待ってもらう事にした。
飛びっぱなしも疲れるし、逆に矢などで狙われる。
牧場の隅っこなどの土地を借りて、テントを組み立てるのだ。
そして街へ行き、買い出しをして戻る頃には、マロンは目覚めて何かよこせとせっつく。
「おまたせ、マロン。新鮮なオーク肉を手に入れたよ」
ナイフで裂いて、マロンの口に放り込む。
ギョ、ギョと鳴きながら食べている。美味しい時はこの鳴き声だ。
可愛いなぁ。
ドラゴンの飼育も、仕事にしてもいいかなぁ。
まあ仕事なんて色々あるから、よく考えよう。
キュウ
マロンが俺に擦り寄るが、大きな頭ですり寄せるから、俺はずるずると押される。
「おいおい。押すな押すな、あははは」
そして俺はマロンの頭を抱きしめた。
「明日はどこに行こうかね、マロン」
俺の前世の記憶なんか、全く役に立たない。
ま、前世だって、俺は仕事に振り回されてるだけで、何の役にも立てない人生だった。
マロンが俺を助けてくれて、俺に生きるチャンスをくれた。
もうすぐ俺は14歳。
どんな人生を選べばいいか、まだまだ考え中だ。
「マロンはどうしたらいいと思う?」
キューー・・・キュキュ
うん、何言っているか分からんわ。
今はいろんな国や街を廻り、美味しいものを食べたり、面白い商品を見たり、本も読んだり、色々やることは多い。
俺はマロンと再会してから、道中記を認めるようになった。
日記兼街の紹介といった内容だ。グルメ&お店本だ。
珍しいものを見つけたら、さっとメモを取る。そして道中記に清書する。
夜寝る前に書いてると、ふと前世を思い出した。
古文だっけ?授業で習った、江戸時代に書かれた旅行ガイドの走りともいう・・・
そうだ。この道中記の名は、異世界道中ニーマロン、これに決まりだ。
だがこれは売るつもりはない。俺の日記でもあるからな。
どちらかといえば、俺の覚え書き。どこに何が売ってたか、何が美味しかったか、って内容。
「さあて、もうこれくらいにして寝よう。おやすみ、マロン」
キュ
俺はマロンに寄っかかって眠るのだった。
「マローーン!!行くぞーーー!!」
ギュ
ぼくは今日からマロンと一緒に旅に行く。
このマロンはドラゴンで、ひい爺ちゃんのウマなんだ。
マロンは長生きだから、ぼくで4代目。ひい爺ちゃんは去年死んじゃった。
それでマロンもすっかりしょんぼりしていたから、ぼくの旅に付き合ってもらおうって思ったんだ!
「気をつけて行ってこいよ、ニーマロン、持ったか?」
「持った!じゃ、行ってきまーーーす!」
このニーマロンは父さん版だ。
代々旅の道中記を、我が家では書く決まりとなっている。
マロンがバササッ、と翼をはためかせ、ふわりと浮き上がって飛び立った。
すげーー!!
ドラゴンをウマにして旅をしたのは、ひい爺さんが最初だったんだ。
その後、我が家では13歳の旅立ちは、ドラゴンが定番。
「ああ。13歳になったんだ。頑張ってこいよーーー」
近所の仲良し達が、ぼくに手を振る。
「さあ、マロン。よろしくね!」
ギュギュ
マロンが返事をしてくれた。
ひい爺さんは、旅行を終えて帰ってくると、世界地図の作成を始めたのだった。
マロンとあちこち飛び回り、十五年掛けて完成。
今も使われている『世界地図完全版』を世に出して、大成したんだ。
爺さんはこの地図を利用して、未開の地を冒険し、数々の宝を持ち帰った。
父さんはひい爺さんの地図の原盤、そして爺さんの宝を展示する博物館を作って、学芸員になっている。
そしてぼくは・・・まだ決まっていない。
ぼくはひい爺さんの本の中で好きなのは、美味しい料理のページなんだ!
ひい爺さんの頃には無かったメニューを食べ尽くすのが、ぼくの目標!
さあ、頑張るぞーーー!!
ギュ・・・
ほぼ毎日短編を1つ書いてます。随時加筆修正もします。
どの短編も割と良い感じの話に仕上げてますので、短編、色々読んでみてちょ。
pixivでも変な絵を描いたり話を書いておるのじゃ。
https://www.pixiv.net/users/476191




