夏休みの話② ~音痴なアイドルと未来を変える占い師~ その13
ものすごい跳躍力でジャンプした治実は、五人を飛び越えてポン子へと一直線に向かいます。五人はポン子を守ろうと……せずに、なぜか愛瑠の前に立ちふさがったのです。それを見た治実はにやりとほくそ笑みました。
「やっぱりヒルデのいった通りだったな!」
治実は肩車していたソフィーを、思いっきり投げ飛ばしたのです。ソフィーが四人のうしろに移動します。
「ソフィー、今だ! ポン子にまくらを投げろ!」
しかし、ソフィーはポン子ではなく愛瑠に向かってまくらをふりかぶったのです。そしてポン子チームのメンバーも、ポン子以外はみんな、愛瑠を守るようにソフィーの前に移動します。ソフィーはすばやく、愛瑠にまくらを投げ……つけずに、治実にまくらを投げ返したのです。
「よっしゃ! うしろががら空きだ!」
治実はつかんだまくらを、そのまま愛瑠に投げつけたのです。まくらが二つ、愛瑠にドガンッバゴンッと、おおよそまくらがぶつかる音とは思えない音が休憩室にひびきわたりました。愛瑠がうぎゃっと悲鳴をあげ、ポンッとけむりにつつまれたのです。
「やっぱり愛瑠に化けてたんだな、ポン子!」
ふとんにごろっと受け身を取って、治実が勝ち誇ったようにいいました。ドテテンッと痛そうな音とともにふとんにしりもちをついて、ソフィーはおしりをなでながら立ちあがりました。
「いたた……。でも、ヒルデさんのいった通りでしたね。わたしの腕力じゃ、誰にまくらを投げても、油断してなくちゃ当たりません。それなら逆転する残りの策は、誰かがリーダーであるポン子さんに当てるだけしかない。そしてそれができる確率が一番高いのは、治実さんでした」
「もちろんそれは、愛瑠ちゃんもよくわかってた。だからきっと策を練ってくると思ったわ。じゃあどんな作戦を使うかっていうと……。すがたを変えてくるんじゃないかって思ったのよ」
ヒルデも満足したようにほほえみました。けむりにつつまれた愛瑠に向けて、ヒルデは続けます。
「もちろん変化は反則だけど、そんなこと口のうまいポン子ちゃんたちなら、きっとうまいことうやむやにするはず。なら、それをうまく逆手に取っちゃえばいい。ポン子ちゃんが変化した誰かに当てれば、うやむやにされても関係ないものね。でも、誰に変化するかわからないはずよね」
「だからヒルデは、あたしたちがまくらを投げようとしたとき、お前らがかばうやつこそが、本物のポン子だろうって考えたのさ。あとはあたしたちは、うまいことパス回しでかく乱して、お前らがかばったやつにまくらを投げればいい。それで得点二倍のまくらが二発、ポン子にぶち当たるからな」
にやりと笑って、治実はビッとけむりに包まれた愛瑠を指さしました。
「さぁ、それじゃあすがたを現しな、ポン子! それであたしたちの勝ちだ!」
治実にいわれるまでもなく、けむりは消えて、そして愛瑠のすがただった……愛瑠が現れたのです。
「えっ、どうして?」
初めてヒルデが驚きの声を上げました。愛瑠はパンパンッとパジャマをはたいて、ため息をつきました。
「もうっ、ネコちゃんホントに思い切り投げるんだから。痛かったわよ、とっても。でも、これでわたしたちのチームの勝ちね」
愛瑠の言葉に、ソフィーチームのみんなが目を見開きました。ソフィーが愛瑠に食いかかります。
「どうしてですか? 変化がとけたはずなのに。それともまだ変化がとけてなくて、ポン子さん、うまいこと愛瑠さんに成りすまそうってずるをしようと思ってるんじゃ」
「そんなことしてないよ。その証拠に、ほら」
ポン子がアハハと笑って、それからくるんっと宙返りしました。それはポン子が変化するいつものやりかたでした。ですが……。
「あれ、ポン子ちゃん……」
変化を解いて現れたのは、ポン子だったのです。ソフィーは目をぱちくりさせました。
「ヒルデちゃんの読みは完璧だったわ。でも、わたしもそこまでは読んでいた。だからポン子ちゃんに、変化するそぶりを見せて、わたしはわたしに、ポン子ちゃんはポン子ちゃんに変化するようにいったのよ」
ヒルデがあっと声を上げました。ポン子は世織に視線を向けました。
「世織ちゃん、治実ちゃんが愛瑠ちゃんにまくらを当てても、1点にしかならないよね。それがまくら二つ分。だから2点分だよね」
「そうね。タイムアップぎりぎりだったから、得点も認められるわ。つまり『夏のアイドル祭り』ライブチケット争奪戦、チーム対抗まくら投げ合戦の最終スコアは、ポン子チーム16点対ソフィーチーム10点で、ポン子チームの勝利ね」
「ちょ、ちょっと待ってよ! でもポン子ちゃんは力を使っていたわけでしょ、それはルール違反じゃないの?」
ヒルデの言葉に、世織は首を横にふりました。
「厳密には力は使っていないわ。だって二人は自分自身に変化してるんだから、それって変化してないと同じだもの」
「うぅ、それはそうだけど……」
押し黙るヒルデに、ポン子はビッとブイサインして宣言しました。
「これであたしたちの勝ちよ!」
ソフィーチームはムーッとほおをふくらませましたが、ポン子の笑顔に、パチ、パチと、拍手がちらほら鳴りだして、やがていっぱいの拍手へと変わりました。
「どうやらあたしの読み通りになったみたいね。でも、このあとまだ波乱があるみたいだけど……あたしにもよくわからないわ。いったいなにが起こるのかしら」
拍手をしながら、未来がぽつりとつぶやきました。
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明日は2話投稿する予定です。
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