夏休みの話② ~音痴なアイドルと未来を変える占い師~ その11
魅入の言葉に、ポン子チームのみんながいっせいにチェルシーと治実に顔を向けました。チェルシーがしかめっつらで治実をにらみつけています。
「さすがは治実ネ。こうも簡単にワタシに当てるナンテ。でも、ここからはワタシのターンね!」
チェルシーがすごい勢いで分身して、一気に治実にまくらを投げつけたのです。治実は超人的なスピードで、まくらをかわします。ドッゴォンッと、まくらが出す音とは思えないような、すさまじく重い音がひびきわたりました。
「ちょっとチェルシーちゃん、力を使っちゃダメってさっき世織ちゃんがいってたじゃんか! あなたが力を使うなら、わたしだってソフィーちゃんに抱きついて守ったっていいわよね」
まりあの言葉に、世織が毅然とした態度で制しました。
「もしソフィーさんに抱きついたら、没収試合にするからね!」
「でも、チェルシーちゃんのあれはダメでしょ!」
なおも食い下がるまりあに、魅入がすまなそうに答えました。
「いや、あたしも止めたんだけどさ、治実がそんなのどうでもいいから、全力のチェルシーと戦わせろっていって聞かないんだよ。だから二人が戦う場合に限って、力を使ってOKにしたんだ」
魅入の言葉に、ポン子チームのみんなが歓声を上げます。ですが、魅入の宣言にその歓声が一気に悲鳴に変わったのです。
「ヒット! ソフィーチーム6点!」
「ちょ、ええっ! まさか、チェルシーちゃんが?」
手首のスナップを効かせて、チェルシーはまくらを手裏剣のように投げつけます。超回転するまくらですが、治実はいとも簡単にまくらをつかみました。そしてすばやくカウンターでまくらを投げます。目にも止まらぬスピードで、まくらはチェルシーの足にベゴンッと当たったのです。
「アウチッ!」
「ヒット! ソフィーチーム7点!」
またもや治実が得点をあげます。これで3ポイント連取です。治実はへっとニヒルに笑いました。
「なんだ、チェルシーもたいしたことないな。もっとワクワクするバトルを期待してたのに」
「ハァ、ハァ、なんデスッテ?」
すでに息が上がっているチェルシーに、治実はくいっくいっと挑発的に手招きします。
「ほら、くやしかったらあたしを倒してみな! くのいちの意地ってやつを見せてみろよ!」
治実にいわれるまでもなく、チェルシーはまくらを再び投げつけます。治実はバシンッといい音を立てて、まくらをキャッチしました。
「ねぇ、どうしよう! あのままじゃチェルシーちゃんが」
「落ち着いて、ポン子ちゃん! ここでうろたえて、チェルシーちゃんを加勢しようとしても、わたしたちじゃどうしようもないわ。ここは耐えて、少しでも早くソフィーちゃんにぶつけ……えっ? なに、あのフォーメーションは!」
愛瑠のさけびに、みんなソフィーたちのほうに目をやりました。ソフィーチームのメンバーは、ヒルデ、まりあ、凪沙、クシナの四人が横一列に肩を並べていたのです。みんな手をうしろにまわしています。そしてそのうしろに、ソフィーがひかえていたのです。目を丸くするポン子たちでしたが、愛瑠だけは冷静でした。
「そうか、誰が投げるかかく乱する気だわ!」
「えっ、どういうこと?」
未来に聞かれて、愛瑠はみんなにうしろへ下がるようにうながしました。そしてうしろにいるソフィーを指さしたのです。
「たぶんまくらは、ソフィーちゃんが持ってるのよ。で、前線の四人のうち、誰かにまくらを渡すつもりね。きっと全員で投げる動作をするはずだわ。そうやってかく乱して、わたしたちを混乱させるつもりよ」
「えっ、そんなぁ、じゃあどうやって防げばいいのよ?」
花子の絶望的な問いかけに、愛瑠は落ち着いて答えました。
「ソフィーちゃんの動きをよく見ておくのよ。フェイントをかけてくるかもしれないけど、注意深く見ておけば、誰にまくらを渡したかわかるはずだわ。あとはポン子ちゃんの前に立って、ポン子ちゃんを守って! 他のメンバーなら当たっても1点だけど、ポン子ちゃんに当たったら点が倍になるから」
「さすが愛瑠ちゃん、まさかこっちの作戦を見破るなんて。ソフィーちゃん、急いで! あっちが守りを固める前にやっちゃうのよ!」
ソフィーはうなずき、まくらをそっと下に構えました。誰に渡したのでしょうか、みんなごくりとつばを飲みます。そして、愛瑠の予想通り、前線の四人がいっせいに投げる動作をして……そして誰も投げませんでした。
「えいっ!」
四人のうしろから、ソフィーが思いっきりまくらを投げたのです。ポン子ではなく、愛子を狙ってまくらが飛んできます。ですが、その動きは愛瑠に読まれていました。愛子の前にふみだし、すれすれでまくらをキャッチしたのです。
「あっ、そんなぁ!」
「ポン子ちゃん!」
愛瑠がすぐにまくらをポン子にパスします。ポン子はまくらをがしっとつかんで、再びくるくるっと宙返りして、思いっきりソフィーに投げつけたのです。前線の四人は体勢を崩していたので、ソフィーを守ることができません。ボスッという音とともに、ソフィーにまくらが当たりました。
「ヒット! ポン子チーム8点!」
「えっ、8点? さっきまで1点だったじゃない! 四倍されても、4点じゃないの?」
ヒルデに問いただされて、世織は黙ってうしろを指さしました。治実がくやしそうに顔をゆがめています。その足元にまくらが落ちていました。
「じゃあ、まさか!」
「綿貫さんがソフィーさんにまくらを当てる前に、チェルシーさんが猫田さんにまくらを当ててたわ。だからまずは1点プラスされて、ポン子チーム2点。それを四倍にして、ポン子チーム8点よ」
世織の説明に、ポン子チームのメンバーが喜びを爆発させます。
「やったぁ、これで逆転よ!」
「チェルちゃん、すごいわ! ネコちゃんから得点奪うなんて!」
「よおしっ!この調子でどんどんソフィーちゃんを狙って、点差を広げていくわよ!」




