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夏休みの話② ~音痴なアイドルと未来を変える占い師~ その10

「さぁ、行くわよソフィーちゃん!」


 プレイボール(?)のかけ声とともに、ポン子が一気にかけだしました。ソフィーがヒッと顔を引きつらせます。


「そりゃあっ!」


 センターラインの代わりである、ふとんの境目ぎりぎりでジャンプして、ポン子はクルクルッと宙返りしてから、その勢いで思いっきりまくらを投げつけたのです。ソフィーがきゃあっと悲鳴をあげます。まくらがボフンッと間の抜けた音とともに、ソフィーに当たって地面に落ちました。


「やったわぁ! これで得点は四倍よ!」

「……綿貫(わたぬき)さん、非常にいいにくいんだけど……。あなたたちのチーム、まだ1点も取ってないから、0を何倍にしても0なんだけど……」

「へっ?」


 目をぱちくりさせるポン子を見て、ソフィーチームのみんなが必死で笑いをこらえています。反対にポン子チームのメンバーは、みんな頭を抱えています。


「ポン子ちゃん、とにかく早くこっちに帰ってきてよ! ポン子ちゃんがぶつけられたら、得点が二倍になるんだからね!」

長谷川(はせがわ)さん、だから何度もいうけど、0を何倍しても0よ。あなたたちまくら投げする前に、算数ドリルの特訓したほうがいいんじゃないかしら」


 世織(せおり)の言葉に、ポン子と花子の顔が引きつります。それで油断したのでしょうか、花子の顔にボフッとまくらが当たりました。


「ヒット! ソフィーチーム1点!」


 間髪入れずにポン子の背中に、まくらがボスンッと当たりました。


「ヒット! ソフィーさんの得点だから、ソフィーチーム得点四倍! ソフィーチーム4点対ポン子チーム0点よ」

「そんなぁ、ソフィーちゃん!」


 ポン子がじろっとソフィーをにらみつけます。ソフィーはすまなそうな顔でいいました。


「ポン子さん、ごめんなさいね。でも、わたしもアイドルのライブって興味あるから、今日は勝たせてもらいますよ」


 ソフィーの言葉に、ポン子がムーッと口をとがらせます。


「ソフィーちゃん、やってくれたわね! お返しよ!」

「ポン子ちゃん、ダメでしょ! まだ得点決めてないから、ソフィーちゃんに当てても意味ないでしょ!」


 ソフィーにまくらを投げようとするポン子を、愛子があわてて止めました。


「とにかくまずは、まくらをチェルちゃんに渡して、チェルちゃん中心で攻めていきましょう。ポン子ちゃんは得点がたまってきたあたりでソフィーちゃんを狙っていくのよ」


 愛瑠(あいる)もまくらをチェルシーに渡して、ポン子たちに指示を出します。対するソフィーチームは、ヒルデが指示を出しています。


「チェルシーちゃんは治実(なおみ)ちゃんがなんとか止めてね。あたしたちは得点してるし、リードしてるから、ポン子ちゃんを積極的に狙っていくわよ。治実ちゃん、チェルシーちゃんからまくら取ったら、あたしたちと離れてチェルシーちゃんとバトルしてて」

「離れて? どうしてだ?」

「チェルシーちゃんにあたしたちが狙われたら、多分得点されちゃうわ。それで点を取られたあとにソフィーちゃんを狙われると、得点がどんどん倍になってくけど、治実ちゃんとチェルシーちゃんが一対一で戦ってたら、得点は1点ずつでしか動かない、つまり点差がそこまで縮まることはないわ。その間にポン子ちゃんを狙っていけば、点差を広げられるよ」


 ヒルデの説明に、愛瑠がめがねをかちゃりと直してうなずきます。


「さすがヒルデちゃん、冷静に分析してるわ。ヴァルキュリアの本領発揮ね。でもこっちも、ネコちゃんを封じられるのは願ったりかなったりよ。チェルちゃん、なんとかネコちゃんから点を取ってね!」


 愛瑠に激励されて、チェルシーはビッと親指を立てました。


「もちろんネ! ワタシと治実、どっちが強いかハッキリさせるデス!」


 まくらをがっしりつかんで、チェルシーはポン子たちから距離を取ります。治実もチェルシーを油断なく見すえながら、ソフィーたちから距離を取ります。


「その間にわたしたちは、とりあえずソフィーちゃん以外のメンバーを狙いましょう」

「でも愛瑠ちゃん、チェルちゃんはネコちゃんと戦ってるし、ポン子ちゃんは投げても得点にならないよ。いったい誰が投げるつもりなの?」


 未来(みく)の言葉に、愛瑠はえへんとせきばらいしてから答えました。


「もちろんわたしよ」

「えっ、愛瑠ちゃんが? でも、愛瑠ちゃんそんなに運動神経よかったっけ? いや、そりゃあたしたちもそんなに投げるの得意じゃないけど」


 とまどう未来でしたが、愛瑠は自信満々にまくらを受け取りました。そしてキッとまりあをにらみつけます。


「もちろんよ。このときをどれだけ待ったことか……。ド変態スカートめくり魔! 覚悟しなさいよ!」


 いつもはおどおどしている愛瑠が、さっきのポン子と同じような躍動感あふれるジャンプで、まくらを思いっきりまりあに投げつけたのです。完全にノーマークだったまりあは、ひえっと悲鳴をあげてその場にうずくまります。ですが、愛瑠はそれを予測していたかのように、正確にまりあにまくらを投げつけたのです。


「ヒット! ポン子チーム1点!」

「ちょっと待って、世織ちゃん、今絶対愛瑠ちゃん力を使ってたでしょ! 未来の景色を見て、わたしがしゃがむのを予想してたんだわ! 無効じゃないの!」


 まりあがワーワーまくしたてますが、もちろん世織は首をふります。


「そんな言い訳は通用しないわ。それに吉見さんの力はランダムに未来が見えるんだから、都合よくあなたがよけるすがたが見れるわけないでしょう」

「でもぉ……」


 まだ納得いかないという感じのまりあでしたが、ソフィーがプラチナブロンドの髪をなでてなぐさめます。


「大丈夫ですよ、まだわたしたちのチームがリードしてますから。それにまくらはまたこっちに来ましたから、わたしがまたポン子さんを狙って当てますから」

「あ、ちょっと待って。ソフィーちゃん、あたしに作戦があるのよ」


 ヒルデがソフィーを呼び止めます。ソフィーチームは、なにごとかごにょごにょと相談しています。


「ちょっと世織ちゃん、あれはOKなの? 時間稼ぎしてるんじゃないの?」


 花子が文句をいいますが、世織はやはり首を横にふりました。


「時間ギリギリでだったらそう判断するけど、まだ二分しか経ってないし、時間稼ぎとはいえないわね」

「もうっ、わたしたちの班のメンバーなんだから、ちょっとはひいきしてよ」

「そんな不正は許されないわ。審判を買収しようとするなら、長谷川さんだけ算数ドリル特訓の刑にするわよ」


 世織の言葉に、花子がひぃっと悲鳴をあげました。と、そのとき魅入(みいる)の声が休憩室にひびきわたりました。


「ヒット! ソフィーチーム5点!」


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