夏休みの話② ~音痴なアイドルと未来を変える占い師~ その5
「それじゃあ見えた未来を伝えるわね。っていっても、あたしに見えたのは三つだけよ。そのどれもが、あなたとまりあにふりかかる試練といったところね」
「試練……ですか?」
ソフィーは不安そうに水晶玉を、そして未来の顔を見つめました。未来は重々しくうなずきました。
「そう。試練ね。乗り越えるべき壁。二人のきずなを壊そうとするものよ」
「きずなを、壊そうとする……」
紫と金のカーテンが、風もないのにゆらめきました。吊り下げられているタロット(とついでに『ラグナロク・ソーサラーズ』のカード)も、ゆれてカチカチとぶつかりあっています。
「でも、あたしが見たのは最悪の未来じゃなかったわ。二つの試練は、あなたたちが乗り越えられる試練だった」
「えっ、二つ……? でも、未来さん、試練は三つ見えたって、さっき……」
ソフィーの言葉に、水晶玉に映る未来のひとみがゆらぎました。
「……未来さん?」
未来はためらっている様子で、じっと水晶玉を見つめたままでした。ソフィーが心配そうに未来に視線を移します。
「……ソフィーちゃん、本当に話しても大丈夫? ソフィーちゃんには、この試練を乗り越えるだけの勇気はある? ……あたしは、正直いって恐ろしいわ。あなたから見えた未来は、あたしにとっても試練だから。あたしの力で、最悪の未来だけは書き換えたけど、それでも……」
「未来さんの力って……」
未来は首をふりました。疲れたように息をはいて、それからまっすぐにソフィーを見つめました。ソフィーもその視線をしっかり受け止め、うなずきました。
「話してください。わたし、どんな未来でも立ち向かいます。まりあさんを守れるのなら……」
再度未来はため息をつきました。ですが、今度はさっきと違ってさっぱりしたような、吹っ切れた表情でした。
「ふふ、本当に強いわね、ソフィーちゃんは。いいわ。それじゃあ話してあげる。……あたしが見たのは、三つの試練よ。一つ目は、秋の訪れる季節にやってくるわ。秋とともに、見えないなにかが町にやってくるの」
「見えない、なにか……ですか?」
「うん。あたしには見えなかった。でも、それはこの町の人たちに害を与えるものだった。術の使い手、神に近い存在だったわ。……そして、そいつにまりあの存在が奪われてしまうの」
「そんなっ!」
恐怖の声を上げるソフィーに、未来は苦々しげにうつむきました。
「恐ろしい未来だったわ。そいつに存在を奪われた人たちは、みんなそいつに支配されてしまう。でも、それだけじゃなかったわ。あたしもすべては見えなかったけれど、様々な人間たちの思惑がからみあって……」
未来はそこで言葉を切りました。ふるえを止めようとするかのように、自分で自分の肩を抱きしめます。ソフィーが気づかうように未来にたずねました。
「未来さん、大丈夫ですか? あの、やっぱり今度にしたほうが」
「ありがとう、でも大丈夫よ。それにせっかく占いの館に来てもらったのに、最後まで話さないなんて、そんなの占い師失格だわ。ちゃんと最後まで伝えさせてちょうだい」
未来は大きく深呼吸して、呼吸を整えました。心配そうに見るソフィーに、いたずらっぽくウインクしてから、話を続けたのです。
「二つ目の試練について話をするけど、その前にこれを渡しておくわ」
未来は立ち上がって、頭上にぶら下がっていたカードのうち一枚を外して、それからソフィーに渡しました。それは『ラグナロク・ソーサラーズ』のカードでした。
「これは?」
「ふふ、それをちゃんとソフィーちゃんのデッキに入れておくのよ。それがソフィーちゃんが二つ目の試練を乗り越えるための、切り札になるんだから」
ソフィーは目を丸くしました。じっとカードを見つめていましたが、ソフィーはすぐに首をかしげました。
「でも、未来さん、わたし『ラグナロク・ソーサラーズ』のデッキ、持ってませんよ。確かにちょっと興味ありましたけど、未来さんや勝利君みたいに強くなれそうじゃないですし」
「大丈夫、夏休みの間に、あたしが特訓してあげるから。それにショーリも誘ってね。……二つ目の試練は、『ラグナロク・ソーサラーズ』に関係した試練よ。寒い季節……多分冬休みだと思うけど、そのときに試練がやってくるわ」
試練と聞いて、ソフィーの顔が再びこわばりました。ですが、目だけはしっかり未来の顔をとらえています。未来もまっすぐにソフィーを見かえし、うなずきました。
「ふふ、その顔を見れば、なんだかきっと大丈夫って思えるわ。この試練も、しっかりとは見れなかったけど、どうやら『ラグナロク・ソーサラーズ』の大会が関係しているみたい。その大会に、大事なものを賭けて挑むことになりそうね」
「大事なもの、ですか?」
「うん。それがなんなのかまではわからなかったけど。でも、とにかくその戦いからは逃れられないみたい。だからソフィーちゃんも、しっかり特訓しないとまりあのこと、守れないわよ」
未来の言葉に、ソフィーはごくりとつばを飲みこみました。未来から渡されたカードを、しっかりと見つめます。
「ショーリほどじゃないけど、あたしも結構カード持ってるから、とりあえずデッキは貸してあげるわ。あ、それとまりあもちゃんと誘って特訓しないとね。あの子、デッキに入れるカードを、完全に絵柄だけで選んでるから、戦略もなにもないからね」
「えっ、まりあさんも大会に参加するんですか? わたしてっきり、まりあさんは観戦するのかと思ってたんですけど」
「ええ、あたしが見た未来じゃ、まりあとソフィーちゃんが協力して一緒に戦ってたわ。そういう意味では、ちょっと不思議なのよね。『ラグナロク・ソーサラーズ』は、一対一の対戦カードゲームだから、どうして協力してるんだろうって思ったけど。ま、そこらへんはなるようになるわ」
あっけらかんとした口調でいう未来を、ソフィーは苦笑いしながら見ていました。
「……さ、それじゃあ最後の試練について話をしましょうか。……覚悟はいいかしら?」
未来の問いかけに、ソフィーは静かにうなずきました。
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