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夏休みの話② ~音痴なアイドルと未来を変える占い師~ その2

「もうっ、まったくなにやってるのよ、魅入(みいる)ちゃん……じゃなかった、魅入君までいっしょになって騒ぎ立てて! バツとしてポン子ちゃんと花子ちゃんは、今日一日中浮き輪ふくらませ係だからね」


 ヒルデの言葉に、ポン子と花子が同時に悲鳴をあげます。花子はポン子に食ってかかりました。


「もうっ、ポン子ちゃんのせいでわたしまでバツを受けることになっちゃったじゃんか! せっかく午後からは海でイケメンチェックしようって思ってたのに」

「だって、花子ちゃんが最初にせかすからいけないんでしょうが! あわてて頭に血が上っちゃったから、あの子たちにもつっかかっちゃったんだよ」

「しかもポン子ちゃん、魅入ちゃ……君とつきあってるなんて、そんなくだらないミエをはって、ホンットみっともないんだから」

「だってそうしないと、あの三バカ娘たちに、魅入君が取られちゃいそうだったからじゃんか。それじゃあんたは、魅入君があいつらとデートすることになってもよかったの?」

「いや、二人とも、今は誰も休憩室にいないんだし、あたしのこと魅入ちゃんって呼んでいいんだからな」

「あら、それはダメよ。魅入君はうちの看板娘……じゃなかった、看板男子なんだから。ちゃんと女の子たちをアンブロシアに呼びこんでもらわないと。そのためにみんなに、魅入ちゃんじゃなくて魅入君って呼んで、男の子として扱うように頼んだんだから」


 例年、アンブロシアのアルバイトの子たちは、みんな女の子だったので、男の人はひっきりなしに訪れてくれるのでしたが、女の子の集客がうまくいっていなかったのです。もちろんジークフリートさんは調理で忙しく、しかもあまりそこら辺のことは気にしてなかったようですが、ヒルデは違いました。


「今年はお兄ちゃんがようやく、アンブロシアの出張レストランを任されたんだから、とにかくせいいっぱい応援したいの。そのためには男の人だけじゃなくて、女の人もいっぱい呼びこまないと」


 そのため女の子だけどイケメンフェイスの魅入を、アンブロシアの看板男子にしたてあげたのです。魅入は別に反対しませんでしたが、ちょっと複雑そうでした。


「でもさ、あたしが看板男子にならないといけないなら、あたしはずっと泳げないってことだろ。水着着たら、女だってばれちゃうからな。でも、せっかく海の家に来たのに、さすがに泳げないのは……」

「魅入君、ちゃんとおれっていわないとダメよ。……でも、そうね、確かに魅入君のいいぶんも一理あるわね。じゃあこうしましょう。とりあえずあたしたちは一週間アンブロシアに泊まるわけだから、今日も含めて五日間でしっかり売り上げが稼げてたら、最終日は魅入君もいっぱい泳いでいいわよ。もちろんスクール水着……というか、女の子の水着着ていいわ」


 ヒルデにいわれて、魅入ははぁっとため息をつきましたが、うなずきました。


「ま、いいか。夏休みがまるまる修行づけにならなかったのは、ヒルデも含めてみんなのおかげだからな。それと比べたら、五日間泳がないくらいわけないさ。じゃああたしは、じゃなかった、おれは呼びこみに戻るよ。目を離すとまりあのやつが暴走してたりするかもしれないからな」


 魅入の言葉に、ポン子と花子は顔を見合わせました。


「そうだ、まりあちゃんはソフィーちゃんを!」


 昨日のソフィーとまりあの会話を思い出して、ポン子は目をらんらんと燃え上がらせます。怒りにこぶしをわなわなふるわせて、ビーチへ飛び出していこうとしますが、もちろんヒルデが前に立ちはだかります。


「ポン子ちゃん、逃げようったってそうはいかないわよ! お昼過ぎたあたりから、またレンタルに来る人たちも増えるんだから、しっかり浮き輪をふくらませてもらうからね」

「そんなぁ、でもヒルデちゃん、ソフィーちゃんが危ないのよ! 変態ドロボウ猫がソフィーちゃんのこと狙ってるんだから、あたしが守ってあげないと」

「ポン子ちゃんはお菓子ドロボウのドロボウたぬきだけどね」


 ちゃかすようにいう花子を、ポン子はキッとにらみつけました。


「あんた、夜じゃなかったらずいぶん威勢がいいじゃないの! また肝試し行きたいの?」

「そんなおどしには屈しないわよ! それに、人の恋路を邪魔するやつは、馬にけられるっていうんだからね! ソフィーちゃんのこと、応援してあげるのが、ホントの友達ってやつなんじゃないの?」

「ねぇ、二人ともさっきからなんのこといってるの? ソフィーちゃんの恋路って、ソフィーちゃん昨日の『朝までコイバナ』でも、誰が好きかいってなかったわよ。あ、もしかして二人にだけ話したのかしら?」


 ヒルデが青緑色の目をくりくりさせて、ポン子と花子をのぞきこみます。二人はあわててなんとかごまかそうとします。


「違うの違うの、あの、ほら、ソフィーちゃんに誰か好きな人ができたときに、あの変態に付きまとわれてたらかわいそうって思ってさ」

「だからまりあちゃんをしっかり見張って、暴走しそうだったら止めて、うまくいきそうだったら背中を押そうって思ってたの」

「あんたぁ! あの変態ドロボウ猫を応援する気?」


 まん丸の目を三角にして、ポン子が花子に食い下がります。ヒルデはパンパンッと手をたたいて二人を止めました。


「はい、そこまで! 二人とも早く仕事に戻ってちょうだい。まりあちゃんを見張るのは魅入君にまかせるわ」

「そんなぁ……」


 がっくりとうなだれる二人に、魅入がはげますように声をかけました。


「とりあえずまりあはおれが見張っとくから、二人はしっかり浮き輪ふくらませてくれよ」

「うぅ……。わかったわ、それじゃあ魅入君お願いね」


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