夏休みの話① ~レストラン『アンブロシア』へおいでませ~ その20
「……ねぇ、ソフィーちゃん。あのね、ひとつだけ聞きたいことがあるの」
「なんですか? なんでも聞いてください。あ、エッチな質問はなしですよ」
先にソフィーがけん制したので、まりあはうっと顔をしかめました。
「まさかまりあさん、ホントにエッチな質問しようと思ってたんですか?」
ソフィーがあきれ顔でまりあを見つめました。まりあはいたずらがバレた子供のように、そっぽを向いてぶつぶつつぶやきました。
「だって、今日はわたしのお人形さんになってくれるっていってたから、どんな質問してもいいかなって思ったんだもん」
「エッチなのはダメですよ。ね、わたし、まりあさんとはもっと仲良くなりたいですけど、エッチなことされるとちょっと……」
ソフィーはちょっぴりさびしそうにいうと、伏し目がちにまりあを見ました。まりあはどぎまぎしながら、ソフィーの青いひとみを見つめ返します。
「ホントに? ホントにわたしと、もっと仲良くなってくれるの?」
「エッチなことしたり聞いたりしないなら、もちろんです」
ソフィーの言葉に、まりあの藍色の目が明るく輝きました。さっきよりもからだをよせて、ソフィーの胸に顔を押しつけます。しばらくそのままじっとしていましたが、やがてまりあが顔をあげました。緊張したおももちで、ソフィーを見あげます。
「それじゃあね、その……わたしと、あの、な、仲直り……してくれる?」
ソフィーはきょとんとしていましたが、すぐにうふふとほほえんだのです。おかしそうに笑うソフィーとは対照的に、まりあはこわばった顔でソフィーを見あげたままでした。
「あの……ソフィーちゃん……?」
「まりあさんったら、仲直りしてくれるなんて、おもしろいこと聞くんですもん。そんな質問するってことは、まりあさん、わたしが本気でまりあさんのこときらってるって思ったんですか?」
「えっ?」
「そりゃあ、肝試しのときはエッチなことされて、ちょっといやだなって思いましたけど、でも、まりあさんはわたしの友達ですから、ちょっとのことできらいになったりはしませんよ」
「友達? わたしのこと、ホントに友達って思ってくれるの?」
ソフィーはちょっぴり口をとがらせて、すねたように聞きました。
「わたしはあのときから、まりあさんのたましいにふれたときから、まりあさんのこと友達だって思ってましたよ。友達だし、もっと仲良くなりたいって思いました。まりあさんは違ったんですか?」
ソフィーにたずねられて、まりあはあわてて首を横にふりました。おもちゃを取り上げられた子供のように、不安そうな顔でソフィーを見つめます。ソフィーはまりあの頭を、再び優しく抱き寄せました。
「ごめんなさい、わたしも意地悪いっちゃいましたね。でも、まりあさんいっつもエッチな意地悪してくるから、今夜はいっぱいお返しさせてもらいます」
「もう、ソフィーちゃんの意地悪……」
まりあがソフィーの胸に顔をうずめました。プラチナブロンドの髪を、いつくしむようになでるソフィーに、まりあが再びたずねました。
「ソフィーちゃん、もう一つだけ、聞いてもいい?」
「いいですよ。なにが知りたいんですか?」
「……ソフィーちゃんは、好きな人……いるの?」
まりあがソフィーの胸から離れて、おびえたように顔を見あげます。ソフィーはそんなまりあの頭を、むぎゅっと自分の胸に押し寄せました。
「わふっ」
顔をあげようとするまりあを、胸に押し寄せたまま、ソフィーは内緒話をするように、ひそひそ声で話しかけました。
「……いますよ。わたし、その人のことすごい素敵だなって思ってるんです。わたし人形だったから、まだ愛するって気持ちがよくわからないですけど、それでもその人といっしょにいたいって思いますし、ずっと仲良くしたいなって思ってるんです」
ソフィーの言葉に、まりあは胸に顔をうずめたまま、じっと固まってしまいました。まりあのふるえが、ソフィーのたましいにじかに伝わってくるようでした。ですがそれとともに、ソフィーの胸の鼓動も、直にまりあに伝わりました。
「……そっか。ソフィーちゃん。その人のこと、本気で好きなんだね。すごいドキドキしてるもん。……わたしなんかじゃ、入りこめないくらいにドキドキしてる」
ソフィーの顔を見ないようにして、まりあがあきらめたような口調でいいました。ですが、そんなまりあをさらに胸に押し当てて、ソフィーは続けました。
「……どうしてこんなにドキドキしてるか、わかりますか?」
「だって、その人のことを考えてるからでしょう?」
「ううん、違います。考えてるだけじゃなくて、その人が一番近くにいるからですよ。一番近くに、それこそたましいさえも触れられるくらいに、とても近くにいるからですよ」
信じられないといったおももちで、まりあが顔をあげました。ソフィーは顔をそらしていて、電気も消えていたのでよく見えませんでしたが、その顔は熟したリンゴのように赤くなっています。
「ホントに? ソフィーちゃん、それって、もしかして……」
「さ、もう寝ますよ。明日は早いって世織さんもいってましたから。……でも、今日はお人形さんの代わりしてあげますけど、いつかはお人形さんじゃなくて……」
ソフィーはそのままぎゅうっとまりあの顔を胸に押し当て、はにかむように笑いました。まだなにかいいたげなまりあでしたが、ソフィーの胸のドキドキを聞いて、静かにからだをあずけました。
「……うそでしょ、それじゃあ、ソフィーちゃんの好きな人って……」
ソフィーとまりあが寝息をたてはじめたころに、ポン子がとなりにいた花子に声をかけました。
「うん、多分ポン子ちゃんが考えてる通りじゃないかしら。でも、びっくりだわ。絶対それだけはないって思ってたのに。……でも、どうする?」
花子に聞かれて、ポン子はこぶしをわなわなふるわせながら答えました。
「決まってるじゃないの、断固阻止するわ! あたしの大事なソフィーちゃんをだまくらかす、変態ドロボウ猫には、地獄を見せてやるんだから!」
息巻くポン子を見ながら、花子は気づかれないように小さくため息をつきました。
――まったく、ソフィーちゃんのことになると全然まわりが見えなくなるんだから。それがソフィーちゃんにとっておせっかいになってるって、ポン子ちゃんも早く気づけばいいのに――
いつもお読みくださいましてありがとうございます。
夏休みの話①はひとまずこれで終了となります。明日からは夏休みの話②を投稿していきます。
また、本編とは関係がありませんが、おまけの話をこのあと投稿しますので、そちらもぜひ
お楽しみいただけると幸いです♪
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