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夏休みの話① ~レストラン『アンブロシア』へおいでませ~ その19

 結局『朝までコイバナ』は、世織(せおり)がみんなに、「明日も早いからさっさと寝なさい!」とどなるまで続きました。ソフィーはなんとかポン子たちと同盟(同盟条件は、『宿題をさせられるのは一日一時間』という、ソフィーにとってはなんとも不平等な条約でした)を結ぶことで、なんとか解放してもらえたのです。


「でもさでもさ、ソフィーちゃんがそんなかたくなに『朝までコイバナ』を拒否るってことは、やっぱり誰か本命がいるってことだよね」


 花子がにやにや笑いをうかべながら、からかうようにソフィーをつっつきました。電気はすでに消されていたので、花子は気づきませんでしたが、ソフィーは耳まで赤くなっています。あわてて首をブンブンふりました。


「そういうわけじゃないですってば。もう、早く寝ましょう。世織さんもいってたでしょ、明日は早いって」

「またまた、怪しいなぁ。ま、いいか。アンブロシアでのお泊まりはまだまだ続くんだし、その間にじっくりはかせてあげるからね」

「うぅ……。ポン子さんだけじゃなくて、花子さんも最近意地悪ですよ……」


 ぐったりとふとんにうずもれて、ソフィーがうらめしげにつぶやきました。


「でも、誰なんだろうなぁ。ソフィーちゃんの好きな人って」

「ちょっと、ポン子さん! さっき同盟を結んだじゃないですか、もうその話は終わりにしてください」


 ぷくっとふくれるソフィーに、ポン子はアハハと笑ってうなずきました。


「わかってるわよ。ごめんごめん、ただ、ソフィーちゃん見てると、ちょっとからかいたくなっちゃうんだもん」

「もう、ひどいです……」


 ソフィーはぷいっとポン子に背を向けました。そしてわっと小さく悲鳴をあげたのです。


「まりあさ、むぎゅっ!」


 いつの間に現れたのでしょうか、まりあがソフィーのブランケットにもぐりこんでいたのです。すばやくソフィーの口を押さえて、まりあが懇願するようにソフィーを見あげます。


「ソフィーちゃん、どうしたの?」


 ポン子に聞かれて、ソフィーはあわててまりあを抱き寄せ、ポン子たちに見えないように隠しました。そして上ずった声でごまかしたのです。


「ううん、なんでもないです。あの、おやすみなさい」


 ポン子も花子も、不思議そうにソフィーを見ていましたが、別段気にしている様子もなく、おやすみとソフィーに返しました。ほっと胸をなでおろすと、ソフィーはブランケットの中に抱き寄せたまりあに、小声でたずねました。


「いったいどうやって、みなさんの監視をかいくぐってきたんですか?」


 まりあは無言で、ソフィーに布のようなものを見せました。暗闇でも、派手な星条旗の柄がよく見えます。それはチェルシーの隠れ身マントでした。


「もう、チェルシーさんの持ち物、勝手に使ったんですか? まりあさんったら」

「ソフィーちゃん、ごめん。でも、お願い、いっしょに寝てほしいの」


 まりあの藍色の目が、うるうるとうるんでいます。ソフィーはまゆをつりあげて、警戒するようにまりあを見つめました。


「それって、わたしになにか変なことしたいからですか?」

「ううん、違うの、お願い、話を聞いて」


 しかしソフィーは、話を聞く代わりにまりあをぎゅっと抱きしめたのです。驚きソフィーの顔を見あげるまりあでしたが、ソフィーはそっとうなずきました。


「わかりました。信じます。……でも、もし変なことしたら大声出しますからね」


 ソフィーに見つめられて、まりあも静かに首をこっくりしました。


「……ありがとう」


 まりあはそれだけいうと、顔をソフィーの胸にうずめました。まるで小さな赤ん坊のように、まりあはソフィーにしがみつきます。ソフィーはそっと、そのプラチナブロンドの髪をなでてあげました。


「……眠れないの」

「えっ?」

「その……わたしね、いつもお人形さんといっしょに眠ってるの。パパもママも、お仕事で夜帰ってこないから、小さいころさびしくって、お人形さんを抱いて寝てたの。だから今も、そうしないと眠れないの。でも、おっきなお人形さんだから、さすがに持ってこれなくて」


 まりあが上目づかいにソフィーを見あげます。そこにはいつもの変態なまりあではなく、夜の闇におびえ、人形にすがるか弱いまりあがいるだけでした。思わずソフィーはまりあを抱きしめました。


「そうだったんですね……。わかりました。いいですよ。今日だけまりあさんのお人形さんになりますから。いつもいっしょに眠ってるお人形さんだと思って、わたしを抱きしめて寝てくださいね」


 うるんだ目が、大きく見開かれました。安心させるようにソフィーは、まりあの背中をさすりました。


「いいの……? もしかしたらわたし、ソフィーちゃんをだましてキスしようとか、そんなこと思ってるかもしれないのに、本当にいいの?」

「もしそんなこと考えてたら、わざわざいわないですよ。それにわたし、まりあさんのたましいにふれて、まりあさんが本当は誰かのぬくもりにあこがれているって、知ってるんですよ」


 まりあのほおがボッと赤く燃え上がりました。ムーッと口をとがらせて、小さな声でソフィーに抗議します。


「もうっ、ひどいわ、ソフィーちゃん」

「ふふ、いつもエッチな意地悪されてるお返しです」


 ううっとまりあが口ごもります。ソフィーは満足そうにほほえみ、それからまりあの髪にほおずりしました。


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

明日で夏休みの話①が終了いたしますので、それとは別におまけの話を投稿いたします。

夏休みの話①のその20を投稿後、おまけの話を投稿する予定です(時間は空けずに連続投稿します)

よろしければそちらもどうぞ♪

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