夏休みの話① ~レストラン『アンブロシア』へおいでませ~ その16
「うぅ……本当なんですぅ……愛子ちゃんがユーコで栗焼いたーでぇ……クシナをニメガミっていってたんですぅ……」
まくらに顔をうずめながら、クシナがぶつぶついっています。となりで寝ていたソフィーが、そんなクシナの背中をそっとなでつけてあげています。
「かわいそうに、クシナさん。すごい怖い思いをしたんですね。でももう大丈夫ですからね」
「ソフィーちゃんもクシナちゃんも、そろそろおいでよ。早くしないと、『朝までコイバナ』始まっちゃうよ」
ポン子にいわれて、ソフィーは目を白黒させました。
「『朝までコイバナ』って、なんですか?」
「いいからいいから、ほら、こっちおいでって」
強引にポン子に引っぱられて、ソフィーは真ん中あたりのふとんへ移動します。クシナもしぶしぶついていきます。いつの間に集まったのでしょうか、みんな真ん中に集まって輪を作っています。もちろんみんなパジャマすがたです。一見パジャマパーティーのような、ほほえましい集まりのように感じますが、ソフィーはなぜかいやな予感がして、身を硬くしました。
「えっ、いったいなにを始めるんですか?」
「いいからいいから、ほら、ここにすわって」
ポン子が自分のとなりにソフィーを、そのとなりにクシナをすわらせます。まだ状況が飲みこめていないソフィーとクシナを、ポン子がにやにやしながら見ています。
「まったくもう、ブリュンヒルデさんもいってたでしょ。明日からしっかりお店のお手伝いもしないといけないのに、こんな夜更かしするなんて」
世織がめがねを指で直しながら、輪になったみんなをじろりとにらみまわします。治実がちゃかすように笑いました。
「じゃあ委員長は、一足先にねんねしてたらどうだ? あたしらは勝手に楽しんどくからさ」
「いや、そういうわけにもいかないでしょう。あなたたちが暴走しないように、ちゃんと見張っておくのが委員長であるわたしの仕事ですから」
「そんなこといっちゃって、ホントは世織ちゃんも参加したいんでしょう。素直じゃないんだから」
未来があははと笑います。ふわふわのボブカットの髪が、シャワーをあびたからかしっとりとしめっていい感じのストレートになっています。その髪を、花子がうらやましそうに見つめています。
「花子ちゃん、どうしたの? 未来ちゃんのことじっと見つめちゃって。あんたまさか」
ポン子がにやにやするので、花子はムーッとふくれっつらになりました。
「もうっ、違うってば! わたしはまりあちゃんじゃないんだから。ただ、未来ちゃんの髪、ふわふわもかわいかったけど、ストレートもかわいいから、いいなぁって思っただけ。わたしおかっぱだから、ちょっとあこがれるなぁって思ったの。ポン子ちゃんったら、変な想像しないでよ」
ベーっと舌を出す花子を、ポン子がじろりとにらみつけます。
「なによあんた、肝試しのときは半べそかいてあたしにしがみついてたくせに」
「あれはその……ちょっと調子が悪かっただけよ! そんなので勝った気にならないでよね、お菓子ドロボウのくせに!」
「あっ、生首」
「ふん、もうだまされないわよ! 意地悪ポン子ちゃんなんかに負けないんだから!」
シャーッといかくしあう二人を、みんなあきれ顔で見ています。
「もう、二人とも、ホントは仲良しのくせに、ケンカしちゃダメでしょ。でも、花子ちゃんがいうように、未来ちゃんの髪ってすごいかわいいでしょ」
「確かにな。それに未来はけっこう男子からも人気高いらしいぜ。うちのクラスのやつらはひとくせもふたくせもあるから、どうなのか知らないけど、他のクラスの男子とかからよく声かけられるんだろ?」
治実がからかうような口調で未来にたずねます。未来は少しほおを赤くしてから、首をふりました。
「そんなことないよ。それにさ、ほら、本当に好きな人から声かけられないなら、いくら声かけられたって意味ないじゃん」
その言葉に、輪になっていた女子たちから歓声が上がります。
「あーっ、てことは、未来ちゃんもしかして……」
愛瑠が楽しそうに未来を見つめます。未来はあわてて手をふりました。
「待って待って、違うのよ、そういうわけじゃなくって」
「ダメだぜ、ちゃんと白状しないと。そのための『朝までコイバナ』なんだからさ。ま、朝までまだたっぷり時間あるし、ちゃんとしゃべってもらうからな」
「魅入ちゃん、なんかすごいノリノリじゃない。好きって気持ちがわかんないとかいってたのに」
花子がジト目で魅入を見つめます。
「いや、あれは自分の気持ちって意味だよ。あたしだって一応女の子だからさ、自分の気持ちはわかんなくても、他人のコイバナには興味あるんだよ」
「でもちゃんと魅入にも話してもらうからね。『朝までコイバナ』に参加したってことは、最低でも好きな人がいるかどうかは答えてもらうからね」
未来の言葉に、ソフィーがぎくりと顔をあげましたが、ポン子ががしっとその手をつかみました。
「うふふふ、ソフィーちゃん、逃がさないわよ。さ、『朝までコイバナ』に参加したんだから、白状してもらうからね」
「待ってください、そんなルールだったなんて、知らないですよ。それにわたし、そんな好きな人なんて」
「クシナはナギサが好きですよぉ! それにミールも好きですぅ! ナギサは優しいし、ミールはかっこいいからですぅ」
ソフィーの逃げ口上をさえぎって、クシナがなんともあっさり白状しました。みんな目が点になってしまいましたが、やがてアハハと笑い声が巻き起こりました。
「どうして笑うんですかぁ? クシナはホントにナギサとミールが好きなんですよぉ。でも、クラスのみんなも大好きですぅ。ネコミはちょっと怖いですけどぉ。って、わ、ちょ、ネコミ、こっちに来ないでくださいぃ!」
にやにやしながら治実がクシナに近づいてきたので、クシナはとなりにいたソフィーにしがみつきました。しかしソフィーは、顔が真っ赤になって、なんとかクシナとポン子から逃げようとバタバタしています。
「ソフィーちゃん、そんなにあわててるってことは、まさか誰か好きな人がいるんじゃないでしょうね? ダメよそんなの! わたしのソフィーちゃんに変な虫がついてたなんて! 白状しなさい、いったい誰なの、そのゴキブリ野郎は?」
いつの間に移動していたのでしょうか、まりあがうしろからむんぎゅっとソフィーを抱きしめ、怖い顔で問いつめてきます。ポン子はもちろん、みんな総出でまりあをソフィーから引きはがします。
「この変態パンチラ魔! なにソフィーちゃんに近づいて抱きついてんのよ! あんたの席はあっちでしょうが!」
「そうよ、だいたいどうしてまりあちゃんまで『朝までコイバナ』に参加してんのよ! 一番端のふとんにもぐりこんどきなさいよ!」
ポン子だけでなく愛瑠も目を三角にして、まりあをどなりつけます。うぅっと泣きまねするまりあでしたが、もちろん誰もそんな小芝居にはだまされません。世織とチェルシーに引きずられて、まりあはソフィーから一番離れた、もとの席へと戻されてしまいました。
「次にソフィーちゃんに近づいたら、縄で縛ってふとんに埋めるからね!」
愛瑠がカンカンになってまりあをおどします。まりあはがっくりとうなだれましたが、みんなふんっと鼻を鳴らすばかりでした。
「さ、邪魔が入っちゃったけど、『朝までコイバナ』の続きよ。ソフィーちゃん、白状してもらうからね♪」




