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夏休みの話① ~レストラン『アンブロシア』へおいでませ~ その15

「大丈夫だったの? ずいぶん遅かったから、みんな心配してたのよ。そろそろ様子を見に行こうかって相談してたから。でもよかった、なにかあったわけじゃないのね」


 八本松(はっぽんまつ)神社から帰ってきたポン子たちを、ヒルデは心底ほっとした顔でむかえました。ポン子たちはみんな、ぼーっとした足取りをしていて、ヒルデに力なく手をふりました。


「……どうしたの、みんな? なんだかすごい疲れてるみたいだけど」

「うーん、それがね、八本松神社についてからのことが、なんだかあんまり思い出せないのよ。なんかこわい目にあった気がするんだけど……」


 ポン子が自信なさげにいいました。愛子も頭をふって、ため息まじりにうなずきました。


「うん。なんだか思い出せそうで思い出せないでしょ。なんかすごいことがあった気がするでしょ。でも、それがなんだったか、ぽっかり穴が開いたように思い出せない……」


 ですが、みんながぐったりしている中、なぜかクシナだけは興奮気味で、さっきの出来事を語りだしたのです。


「どうしてみんな覚えてないんですかぁ? すごかったじゃないですかぁ! チェルシーとヒソカとナギサがすごい活躍して、宿題オババをやっつけたんですよぉ! それに愛子ちゃんも目がきらきらに光って、すごかったですよぉ! クシナ、感動しちゃったですぅ!」


 興奮気味のクシナを、ポン子と花子はうさんくさそうに見つめています。


「もう、クシナちゃんったら、八本松神社のお札を取ってから、ずっとこの調子なのよ。ねぇ、ヒルデちゃん。あそこってホントはやっぱり怨念が残ってたんじゃないの? それでクシナちゃん、呪われちゃったんじゃ……って、冗談よ、冗談。冗談だからほら、花子ちゃんもそんな泣きそうな顔しないで」


 腕にしがみついていた花子はもちろん、しゃべっていたクシナも、たれ目にいっぱい涙をためて、ポン子を見あげました。


「うそですよねぇ! クシナ、クシナ、オーメンに呪われちゃったですかぁ? い、い、い、いやですぅ!」

「ああ、もう、しがみつくんじゃないわよ、うっとうしいわね! あんたがわけのわからない作り話をいいだすからじゃないの! なんで(ひそか)君が出てくるわけよ、それにどうして日美子(ひみこ)先生がやっつけられないといけないのよ。しかもあんた、なにどさくさにまぎれて日美子先生のこと宿題オババなんていってんのよ」

「そんなの、クシナにいわれても知らないですよぉ! みんなの話が難しすぎて、クシナにはちんぷんかんぷんだったんですぅ。ただ、みんな栗ご飯がどうのこうのいってたですよぉ。『栗焼いたー』って、うれしそうに愛子ちゃんがいってたですぅ。きっとおなかが空いてたんですねぇ」

「栗焼いた? どうして栗が出てくるの? 別に季節でもないのに、おかしいでしょ。ポン子ちゃんのいうとおり、クシナちゃんったら、変な話作っちゃダメでしょ」

「違うですよぉ! ていうか、どうして愛子ちゃんまで覚えてないんですぅ? 愛子ちゃん、クシナのことニメガミとかなんとかいってたじゃないですかぁ」

「ニメ……ガミ? なにそれ? そんなこといってないでしょ」

「いってたですよぉ、本当なんですぅ」

「かわいそうに、クシナちゃん、すごい怖い思いして、ちょっと変になっちゃってるでしょ。ちょっと落ち着いたほうがいいでしょ」


 愛子にまでたしなめられて、クシナはもうカンカンです。手をふり上げてじだんだをふみます。


「本当なんですってばぁ! どうしてみんな覚えてないんですぅ? これじゃあクシナがうそつきの悪者みたいになっちゃうじゃないですかぁ!」

「いや、だって実際そうじゃない。あたしたちは八本松神社に行って、ちょっと神社の松がざわついたぐらいしか感じなかったもん。ねぇ」

「そうネ。ワタシも別になにも見なかったヨ。八本松神社に行くまでは変な気配を感じたケド、それもきっと気のせいだったワ。無事に帰ってきたのがなによりの証拠デス」

「でも、クシナちゃんがずっと手をにぎっててくれたから、なんだかそこまで怖くなかったわ。クシナちゃん、ありがとうね」


 全くみんな覚えていなかったので、クシナは怒りを通りこして、目をぱちくりさせるだけでした。


「じゃあ……じゃあ、やっぱりクシナ、オーメンに呪われてたんですかぁ? オーメンがクシナだけに、変な幻覚を見せてたんですぅ?」

「あーあ、クシナちゃん、こりゃもう連れてかれちゃうわね」

「こ、こ、怖いこといわないでくださいよぉ! ポン子ちゃん、連れてかれるって、どこに連れてかれるんですかぁ? 怖いところじゃないですよねぇ? 遊園地とか楽しいところですよねぇ?」

「きっととっても楽しい遊園地よ。観客みんながおばけの、楽しい楽しいホラー遊園地」

「ポン子ちゃん!」


 花子がじっとポン子をにらみつけたので、ポン子はあわてて口をつぐみました。


「わたしだけじゃなくて、クシナちゃんまで泣かせるつもり? わたしたち怖がりなんだから、そんな変な話しないでよ!」


 目をうるませて、手をぎゅっとにぎりしめながら花子がいいました。ポン子はもうたじたじです。いつもおちゃらけて口げんかする花子がこの調子では、ポン子も調子が狂うのでしょうか、おとなしくうなずきました。


「悪かったわよ。そうね、ちょっと悪ノリしすぎちゃったわ。クシナちゃんも、怖がらせてごめんよ」

「じゃあ、クシナがいってることが本当だって信じてくれるんですねぇ?」

「いや、それは普通に作り話でしょうが!」


 ポン子につねられて、クシナは涙目でじたばたします。みんなあきれ顔でそのドタバタ劇を見ていましたが、やがてヒルデが笑いながらいいました。


「さ、それじゃあそろそろ二階に行って、おふとんひいて寝ましょう。明日からはみんなにもガンガン働いてもらうからね」


 あちこちから「えー」と声が上がりますが、みんな言葉とはうらはらにニコニコしています。肝試しも終わったので、ほっとしたからでしょうか。ただ一人クシナだけは、最後までずっと、本当にあった出来事をなんとか信じてもらおうと、がんばって話すのでした。


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