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夏休みの話① ~レストラン『アンブロシア』へおいでませ~ その7

「ひっく、ひっく……。もう、絶対まりあさんと口きかないです。もう知りません!」


 第一グループはなにも起こらず、無事に帰ってきたので、今度は第二グループである、ソフィー、まりあ、治実(なおみ)未来(みく)の四人が八本松(はっぽんまつ)神社に向かいました。そしてやはり無事に帰ってきた……と思いきや、ソフィーが半泣きになっていたのです。ソフィーを治実と未来がなぐさめ、そのうしろでまりあがにやにや笑いをうかべています。


「ちょっとこの変態! ソフィーちゃんにいったいなにをしたのよ!」


 思わずポン子がつっかかりますが、まりあは大げさにあわてた様子で答えました。


「違うのよ、あれは事故よ、事故! 完全に事故だわ。途中バサバサッてカラスの羽ばたきが聞こえたから、思わずソフィーちゃんに抱きついただけよ。そのはずみで、ソフィーちゃんのスカートがめくれ上がっちゃったけど、暗くてよく見えなかったもの。だから、全部事故だわ!」

「なにをどうやったらそんな事故が起こるのよ! 全部あんたの計画通りなんでしょうが!」


 ポン子のツッコみに、治実もうなずいてまりあを責めます。


「そうだぜ、スカートだってめくれ上がったんじゃなくて、お前が思いっきりまくってたじゃないか! だいたいお前、暗い暗いっていいながら、懐中電灯持ってただろ! 持ってた懐中電灯で、ソフィーのパンツ照らしてただろうが! それなのに事故だなんて、白々しいこというんじゃねぇよ」

「だってしかたないじゃない、たまたまスカートがめくれて、たまたま持ってた懐中電灯でパンツが照らされちゃったんだもん。それでパンツ見ちゃったとしても、それは不可抗力というものであって、わたしの責任じゃないわ」

「うそつくんじゃないわよ、あんた、よだれだらだらたらしながら、顔を近づけようとしてたじゃないの! もしソフィーちゃんと二人だけだったらと思うと、ゾッとするわ」


 未来もぱっちりした目をこれでもかとつりあげて、まりあをにらみつけています。他のみんなも、鬼のような形相でまりあをとりかこみました。


「あ、いや、だから、事故なのよ、事故。本当よ!」


 大げさなしぐさでノーを表現したからでしょうか、まりあのフリフリドレスのポケットから、パサリとメモ帳が落ちました。


「あっ、それは、ダメェ!」


 まりあがものすごいスピードで拾おうとしましたが、メモ帳は一瞬で消えてしまいました。ハッとまりあが顔をあげると、世織(せおり)が能面のような無表情でまりあと、そして手にしたメモ帳とを交互に見ています。


「ああっ、世織ちゃん、ひどいわ! 時間を止めてメモ帳を奪ったのね!」


 さけび声をあげるまりあでしたが、世織はそれ以上に大きな声でどなりつけました。


有栖川(ありすがわ)さん、なんですかこれは! 『ソフィーちゃんのパンチラゲット! 夏休みマル秘大作戦』ですって?」

「ひぃっ、違うの、ホントに違うのよ!」


 ブンブン首をふるまりあを、治実たちがとっつかまえます。その間にみんな、まりあのメモ帳を読んで、ゾゾゾッと背筋を凍らせていくのでした。メモ帳にはまさに、肝試し以上に肝を冷やすような内容ばかりが書かれていたのです。


「こんな、こんな破廉恥な作戦立てておいて、事故ですって? ……覚悟はできてるんでしょうね!」


 夜の闇の静寂が、まりあの悲鳴によって切り裂かれていきました。




「まったく、油断もすきもありゃしないわ。あまりにひどいからさ、未来と協力して、あの変態を八本松神社の本殿に閉じこめようとしたんだけど、うまく逃げやがったんだ」


 治実が苦々しげにいいました。未来はまだソフィーをなぐさめています。メモ帳は燃やされ灰にされましたが、それでもまだソフィーは泣き止みませんでした。


「怖かったよね、ソフィーちゃん。大丈夫よ、今日寝るときは、あの変態とソフィーちゃんのおふとん、部屋の反対側に配置するから。もう指一本ふれさせないようにあたしたちが見張っとくから、だからもう泣かないでね」

「うぅ……。まりあさん、信じてたのに、あんなひどいことするなんて……」

「もう、ごめんってばぁ。ちょっとしたジョークじゃないの」


 みんなにほっぺをつねられ、ほっぺが真っ赤になっていましたが、まりあはまったくこりた様子もなく話しかけてきます。治実と未来がソフィーの前に立ちふさがりました。


「今日はもうソフィーには近づかせないぞ!」

「あっちに行きなさいよ、この変態!」

「そんなぁ……」


 まりあはすがるようにソフィーに目を向けましたが、ソフィーは露骨にまりあから目を背けました。がっくり肩を落とすまりあでしたが、もちろんみんな白い目で見ているだけでした。


「ホントにあの変態は……。帰ってきたら、あたしたちでとっちめてやりましょう」


 ポン子が花子の頭をわしわしっとなであげました。さっきよりはだいぶん落ち着いてきたのでしょうか、花子もにこりと笑います。


「さ、それじゃあ最後は、第三グループだけど……。花子ちゃん、ホントに大丈夫?」


 ヒルデがすまなそうにたずねました。花子は少しおびえたような顔をしましたが、ポン子の手をぎゅっとにぎってうなずきました。


「うん、大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて」

「ううん、こっちこそごめんね。……それじゃあ、気をつけてね。怖かったりしたら引き返しても大丈夫だからね」

「ダメですよぉ! お札取ってこないと、オーメンに襲われるですぅ!」

「クシナちゃん、オーメンじゃなくて怨念だよ。いったい何度間違えるのよ……」


 ポン子があきれたようにツッコみます。ですが、怨念と聞いて、クシナのそばにいた凪沙(なぎさ)が、ぶるるっとみぶるいしてクシナにしがみついたのです。


「ひゃっ! ……あ、ごめんね、クシナちゃん……」

「ううん、いいんですよぉ。ナギサも怖かったですよねぇ。でも、ちゃんとクシナが守ってあげるですぅ」

「いや、あんた今の今までむっちゃ怖がってたじゃんか」


 再びツッコむポン子でしたが、そこにチェルシーが話に割り入ってきました。


「大丈夫ネ。ワタシの忍術で、ゴーストたちもみんなやっつけるヨ。ワタシにまかせてほしいネ」

「チェルシーちゃんがいっしょだと、本当に心強いでしょ。クシナちゃんも凪沙ちゃんも、安心して大丈夫でしょ」


 愛子がはずんだ声でいいました。ポン子がまん丸の目をさらに丸くしてたずねます。


「へぇ、意外だわ。愛子ちゃんは怖くないみたいね」


 今度は愛子が目を丸くする番でしたが、すぐに首をふりました。


「ううん、わたしだって怖いでしょ。でも、それ以上にいい体験になりそうだなって思って。怖い話を書くときとかって、やっぱり体験してるかしてないかで全然リアリティが違うでしょ」

「えっ、怖い話を、書く?」


 みんなぽかんとしています。愛子はハッと口を押さえて、あわてて首をふりました。


「違う違う、あの、怖い話を書くじゃなくて、ええっと、その……日記よ、日記! ほら、夏休みの宿題の日記に、肝試ししましたって書けるなぁって思ったでしょ」


 夏休みの宿題という言葉を聞いて、三バカトリオの顔が真っ青になりました。愛瑠(あいる)が思わず笑います。


「もう、三人とも、おばけが出てきたよりもっと怖そうな顔してるわよ」

「うぅ、だって……日美子(ひみこ)先生、容赦なくたくさん宿題出してきたんだもん。算数プリントに漢字つづり帳、計算ドリルに漢字ドリル、自由研究に絵日記に……」

「やめるですぅ! もう聞きたくないですよぉ! オーメンもクシナじゃなくて、宿題を呪って欲しいですぅ」

「いや、怨念だし、怨念が宿題を呪うってどういう状況よ……」


 あきれ顔の愛瑠のとなりで、世織がふんっと鼻を鳴らしました。


「でもそうよ、わたしたち小学生にとって、夏休みの宿題は怨念以上に強敵だから、肝試しが終わって帰ったら、ちゃんと宿題にとりかかってもらうからね」

「ええっ、うそでしょ! いやだよそんなの、ていうか宿題なんて持ってきてないもんね! 海の家での一週間は、宿題とは無縁の生活を送るわよ」


 ポン子がしたり顔でいいましたが、世織はにやりと笑って反論しました。


「残念でした。あなたたちがそういうと思って、ソフィーさんにお願いして、あなたたち三人の宿題も持ってきてもらってたのよ。ソフィーさん、持ってきてくれたわよね?」


 未来になぐさめられていたソフィーに、世織がたずねます。ソフィーは顔を上げて、こっくりうなずきました。


「はい、世織さんにいわれたとおり、持ってきました。ポン子さんたち、宿題をタンスの奥にしまいこんでたんですけど、ちゃんと引っ張り出してリュックに入れてきましたよ」

「ちょ、なんでそんな余計なことしてるのよ、ソフィーちゃんは……。これじゃあお仕置きが必要ね。ソフィーちゃんはくすぐりの」

「そんなことしたらどうなるかわかってるわよね?」


 世織とまりあにじろりとにらまれて、ポン子たちはがっくりうなだれました。三人の肩を、愛子がポンポンッとたたきます。


「まぁまぁ、どっちにしてもしなきゃならないでしょ。だったらみんなでがんばろう。……でも、その前に、まずは肝試しでしょ。そろそろ出発よ」


 愛子にいわれて、ポン子たちもうなずきました。クシナも凪沙も、ふるえながらお互い抱き合っています。


「それじゃあ、八本松神社の本殿前にあるお札を取って、戻ってきてください。がんばってくださいね」

「うん、じゃあ行ってくるね。さ、みんな行くわよ」


 ポン子の声に背中を押されて、みんなおそるおそる闇の中へと進んでいきました。


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