四月の話 ~空から降ってきた天女様~ その7
「はい、みなさん春休みは楽しめましたか? 今日からまた学校が始まりますが、まずは先生から自己紹介しますね」
ポン子たちの担任の日美子先生が、教室を見わたしながらいいました。ポン子の転入した四年三組は、男の子が十人、女の子が十四人の、合計二十四人のクラスでした。どうやって妖怪である自分たちを人間の学校に入学させるのか、ポン子は不思議だったのですが、リンコ先生は驚きの方法を使っていたのです。
――まさか、ニセモノの学校を作って、そこと出雲小学校がくっつくことになったなんて、大がかりなうそをつくなんて――
リンコ先生はまず、架空の小学校――お山小学校――を作り出し、そこが生徒不足のために廃校になって、出雲小学校と合併することになったという、大がかりなシナリオを作ったのでした。もちろんリンコ先生だけでは、そんなことをいっても誰も信じなかったでしょう。しかし、リンコ先生は呂樹を捕まえる際に協力した陰陽師たちの協会に、そのときの借りを返してもらうということで、なかば無理やり手伝わせたのでした。
――陰陽師協会が、いろいろ術を使って学校の先生たちを、うまく説得したっていってたけど、どう考えてもやりすぎだよ――
もちろんそんなやりすぎのシナリオに、陰陽師協会が協力したのには理由があります。彼ら陰陽師協会も、妖怪たち――特に良い妖怪たちが多い出雲のお山とは、仲良くしておきたかったのです。
――そのためには妖怪の子供たちも、人間の学校で学んで人間とふれあうようにして、人間のことをよく知ってもらう、かぁ。でも、それはすごいいいことだよね。そうやってちゃんと人間のことを知っていったら、呂樹みたいに人間も妖怪も憎むような人も出てこないだろうし――
他にもいろいろ事情はあるのかもしれませんが、リンコ先生から教えてもらったのはそれくらいでした。
――それに、変化用のくるりん葉を陰陽師協会が強化してくれたから、くるりん葉づくりに追われることもないし――
くるりん葉とぬれ羽ガラスの羽を組み合わせて、陰陽師の術をかけることで、何度もくりかえし使えるくるりん葉が出来上がったのです。このくるりん葉は、雨にぬれても簡単に変化がとけることはなく(もちろんどしゃぶりの雨にぬれれば、いくらぬれ羽ガラスの羽とはいえ、変化はとけてしまいますが)、小学校に通うポン子たちにはもってこいのアイテムでした。
――ま、いいか。難しいことは考えないで、あたしたちは小学校をいっぱい楽しんじゃえばいいんだから――
そうと決まれば、もともとのんきな性格のポン子です。一番うしろの席であることをいいことに、クラスメイトたちを興味深そうにながめていき、最後に担任の日美子先生を見あげました。めがねをかけて背も低く、担任の先生というよりお姉さんというような感じです。
――でも、優しそうな先生でよかったな。怖い先生だったらちょっといやだったもん――
「さ、それじゃああとは新しいお友達を紹介しましょう」
――あ、来たわ。とりあえずお山小学校の生徒のふりをしなくちゃならないんだよね――
お山小学校の代表として、ここでポン子が呼ばれて、仲良くしてくださいという……それがリンコ先生が考えたシナリオでした。ポン子も当然自分が呼ばれるものだと思っていたので、どきどきとちょっとのわくわくを胸に抱えながら待っていたのですが、呼ばれた名前は予想外のものでした。
「それじゃあ、多田野さん。前に来てください」
「……え?」
ポン子は首をかしげました。もちろんポン子は妖怪なので、苗字などはありません。だから事前に、綿貫という、化けだぬきのポン子にとってとても覚えやすい苗字を作ってもらっていたのです。ソフィーはソフィー・レインドール、花子は長谷川花子、クシナはクシナ・ラ・ピュセルという苗字だったので、多田野という苗字は誰もいません。
――いったいどういうことなのかしら――
目をぱちぱちさせているポン子をよそに、多田野と呼ばれた女の子が黒板の前に立ちました。切れ長の目に、長くきれいな黒髪をしています。女の子はぺこりとお辞儀してから、はきはきした口調で自己紹介をしていったのです。
「多田野愛子といいます。みなさんとは小学校が違いますが、どうか仲良くしてください」
もう一度ぺこりとお辞儀する愛子に、みんなからはくしゅが送られます。ぽかんとしながらも、ポン子もとりあえずはくしゅをします。
――えっ、どうしてこの子があいさつ? あ、わかった、この子も他の小学校から転校してきたのね。じゃあたぶん、次にあたしたちが呼ばれて、自己紹介ってことね――
しかし、日美子先生の次の言葉に、ポン子はますます目を丸くすることになったのです。
「自己紹介ありがとうね。みなさんも仲良くしてあげてください。出雲小学校の生徒は愛子さんだけですが、小学校が違うからって仲間外れにしたりしたらダメですからね」
「えっ、どういうことですか?」
思わずポン子は日美子先生に問いかけていました。日美子先生はめがねの奥で、じろりとポン子をにらみつけました。
「あなたは、綿貫さんですね。どういうこともなにも、ちゃんと仲良くしてあげてくださいといったんです」
「そうじゃなくて、出雲小学校の生徒は、その愛子ちゃんだけってことですか? じゃあ、他のみんなは?」
日美子先生はきょとんとしていましたが、やがてふふふと笑いはじめたのです。
「なんだ、びっくりしました。ポン子さん、先生をからかおうったってそうはいきませんよ。確かに先生はまだピッチピチの一年生先生ですけど、そんな引っかけにはかかりませんからね」
おかしそうにいう日美子先生を、今度はポン子が、わけがわからないという顔で見ていました。ですが、すぐにポン子はむきになって先生を問いただしたのです。
「そんな、からかってるわけじゃなくて、ホントにどういうことかわかんないから聞いたんだよ。だってお山小学校の生徒って、わたしたち四人だけのはずなのに」
「ほら、やっぱりからかってるんじゃないの。だってお山小学校の生徒は、愛子さん以外全員って、この名簿にも書いてますよ。いくらからかおうとしたって、先生にはわかるんですからね」
「ええーっ!」
ポン子の驚きようも演技だと思ったのでしょうか、日美子先生はポン子を無視して、時間割の説明に移っていきました。これ以上いってもどうにもならないとさとったのか、ポン子はがっくりと肩を落としてしまいました。
――どうなってるの? お山小学校は、リンコ先生のうそなのに、どうして生徒がいるの? じゃああの愛子ちゃんって子以外は、みんなお山小学校の生徒なの? いったい何者なの――




