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夏休みの話① ~レストラン『アンブロシア』へおいでませ~ その5

 出雲町は海に面していながら、山にも恵まれた、リゾート地としては理想的な地理となっています。その中でも天女が降りてきたという海岸、羽衣(はごろも)(まつ)湾がとくに有名です。ポン子たちが泊まっている海の家、レストラン『アンブロシア』も、この羽衣松湾にありました。


「……でね、羽衣松湾は天女伝説でも有名なんだけど、実は、知る人ぞ知る、心霊スポットでもあるのよ。なんでも妖怪である、土グモ一族ってやつらが、このあたりの松林に住んでいたらしいわ」


 ヒルデが神妙な面持ちで、怪談を語っていきます。凪沙(なぎさ)やクシナはもちろん、他のメンバーもほとんどが青い顔でヒルデの話を聞いています。そんな中、ヒルデは話を続けました。


「土グモ一族は、恐ろしい力を使って出雲町があったあたりはもちろん、日本中を支配していたらしいわ。でも、それだけでは満足しなかった。土グモ一族はそのまま天界……つまり、神様たちの世界にまで進攻しようとしたらしいの」


 他のみんなと同じように、ポン子もじっと話を聞いていました。しかし化けだぬきという妖怪であるポン子は、別に怖さを感じているのではなく、むしろ興味深い気持ちでヒルデの話を聞いていたのです。


 ――へぇ、土グモ一族かぁ……。でも、そんな妖怪、聞いたことがないわね。うーん、もしかしたらもう滅んでしまったのかもしれないわ。コン兄ちゃんが昔いってたけど、妖怪の中にはすでに滅んでしまった名もなき種族もたくさんいるって。土グモ一族もそうなのかも――


 ポン子が考え事をしている間にも、ヒルデの話は続いていきます。


「それで神様たちは怒って、土グモ一族を滅ぼそうと、この羽衣松湾に天女様を遣わされたそうよ。そのときにここの松に、天女様が羽衣をかけて水浴びをした。だから羽衣松湾っていうらしいのよ」

「へぇ、そんな由来があったんだ。でもヒルデちゃん、よく調べたわね。あたしたちもこの町に来てまだそんなに経ってないのに」


 目を丸くする未来(みく)に、ヒルデは照れたように笑ってうなずきました。


「えへへ、ホントはお兄ちゃんにも手伝ってもらって、それで調べたのよ。やっぱり肝試しは、夏休み恒例のイベントだから、怖い話も必要かなって思ってさ」


 みんな感心したように息をつきますが、ポン子は首をかしげてクシナを見つめました。


 ――そういえば、クシナちゃんも天女様なんだよね。一応は……。でも、ポンコツでもなんでも、天女であることに変わりはないわ。そして、ヒルデちゃんが話している怪談にも、天女様が出てくる。これって、偶然なのかしら――


「でね、天女様は土グモ一族と戦って、最後はなんとか土グモ一族をやっつけるんだけど、そのときに倒された土グモ一族の怨念が、長い間この土地に呪いとして残っていたらしいの。だからその呪いを浄化して、たたりを清めようって建てられたのが、この奥にある神社、『八本松(はっぽんまつ)神社』なのよ」


 ヒルデが小さく息をはきました。海岸沿いから延びている、八本松神社までの道が、ずいぶんと黒く、重苦しい空気に閉ざされているかのように見えます。怖さを熟成させるように、少し長めに間を取ったあと、ヒルデはいきなりパンッと手をたたきました。クシナと凪沙がひぃっと小さく悲鳴をあげます。


「さぁ、それじゃあさっき決めたペアで、八本松神社まで行ってもらうわ。八本松神社の境内、本殿の手前に、お札を全部で七つ置いてきたから、一枚ずつ取ってきてね。一応制限時間は一組二十分よ。くれぐれも気をつけてね」

「ひぃぃ、い、い、い、いやですぅ! クシナ、クシナもう帰るですよぉ!」

「帰ってもいいけど、クシナちゃん、お札取ってこないと、土グモ一族の怨念が……」


 ヒルデにおどかされて、もはやクシナは完全に言葉を失っています。気も失っていないか、花子があわててクシナを揺さぶりました。


「クシナちゃん、大丈夫?」

「ひぇぇっ! いやですぅ!」


 クシナがいきなり大声を出したので、今度は花子がビクッと固まってしまいました。ポン子がぷぷぷとバカにしたように笑います。


「あれれ、花子ちゃんまさかと思うけど、怖いんじゃないわよね。まさかねぇ、もとゆうれいの花子ちゃんが、怖がったりするはずないもんね」

「バ、バ、バカにしないでよ! わたし、怖がったりなんか」

「あっ、うしろ、生首が」

「ぎゃあーっ!」


 悲鳴をあげて花子がポン子に抱きつきます。ポン子はもう大爆笑です。


「アハハハハッ、花子ちゃん、怖いのダメだったんだ。知らなかったわ」


 いつもの調子で花子をからかいますが、花子が完全にマジ泣きになっているのを見て、ポン子はあわあわとあわてはじめました。


「あ、あの、花子ちゃん、ごめん、あたし調子乗りすぎちゃった、ね、大丈夫だから、ね」

「わああぁぁんっ! うぇっ、ひっく、わああぁんっ!」


 泣きわめく花子の背中を、ポン子がゆっくりさすって落ち着かせようとします。愛子と愛瑠(あいる)も、花子を優しくさすります。


「ちょっと、ポン子ちゃんったら、悪ノリしすぎよ。あんなことされたら、誰だって怖いに決まってるじゃない」

「うぅ、ごめんよ。あたしも今のは悪かったと思ってるよ。ホントにごめんね」


 みんなに白い目で見られて、ポン子は平謝りです。ヒルデが困ったようにみんなを見ます。


「ごめんね、あたしも、最初の怪談ちょっと怖すぎたかしら? どうしよう、今日はちょっとやめておいたほうがいいかしら?」

「い、い、いやですぅ! だってぇ、だってぇ、ヒルデちゃん、さっきお札取ってこないと、オーメンにやられるっていってたですぅ!」

「オーメン? あ、怨念ね。大丈夫よ、あれはあたしの作り話だって。だから安心して」


 話の途中で、ひゅううっという笛のような音が神社のほうから聞こえてきました。クシナと凪沙が、ひぃっと悲鳴をあげて抱き合います。


「い、い、い、いやですよぉ! 神社だって、クシナをオーメンで狙ってるんですぅ! クシナ、クシナ、呪われたくないですよぉ!」


 ガタガタふるえるクシナたちを見て、ヒルデはどうしたものかと考えこんでいましたが、やがてえんりょがちに提案しました。


「それじゃあさ、とりあえず続行はするけど、ペアじゃなくてグループで行くようにしましょうか。今、七ペアあるから、二ペアずつと残り三ペアの、三つのグループに分けたらどうかしら。それなら少なくとも四人で行けるから、少しは怖くなくなるよ。……どうかなぁ?」


 ヒルデの言葉に、みんな神妙なおももちでうなずきました。ヒルデはすまなそうに花子にたずねます。


「花子ちゃんはどうする? あの、お札の話はあたしの作り話だから、気にしないでね。休憩室で先に休んでおく?」

「ひっく、ううん、大丈夫……。ごめんね、騒いだりして……」

「そんなことないわ。花子ちゃんのせいじゃないもん。あたしのほうこそごめんね、あんな怖い話しちゃって」


 ヒルデが花子の背中をさすりながら、優しくあやまりました。花子は無言でうなずきます。


「あたしもごめんね、花子ちゃん、大事なお友達なのに、調子に乗っちゃった。ひどいこといってごめんね」


 ポン子も花子の頭をなでてあげます。花子はムーッとポン子をにらみつけましたが、やがて小さくうなずきました。


「わかった、許してあげる。でも、その代わりお願いがあるの」


 花子にいわれて、ポン子は悲しそうな顔でうなずきました。


「わかってるよ。あたしは別のグループになるから、だからもう泣かないで」

「違うよ、ポン子ちゃんのグループがいいの」


 これにはポン子も驚いたようで、まん丸の目がさらに丸くなっています。


「どうして? だってあたし、花子ちゃんにひどいことしたのに」

「それでも、ポン子ちゃんのそばがいいの。……ポン子ちゃんといっしょだと、怖くないから」


 花子がぎゅうっとポン子の手をにぎります。ポン子は恥じ入ったようにうつむき、それからつぶやきました。


「……ごめんね、花子ちゃん。わかった。ちゃんと守るからね」


 花子はこっくりうなずきました。


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