夏休みの話① ~レストラン『アンブロシア』へおいでませ~ その4
「あーあ、線香花火も終わっちゃったなぁ。線香花火って、パチパチいってるときはすごいきれいだけど、落ちちゃうとなんだかさみしくなっちゃうでしょ」
手に持っていた線香花火の先っぽを見つめながら、愛子がぽつりとつぶやきました。
「世織ちゃんはいいよね、時間止め放題で、花火見放題だもんね」
茶化すようにいう花子を、世織はじろりとにらみつけました。
「そんなことにわたしは力を使わないわ。それに時間を止めても、全然楽しくないでしょう? 普通の花火も、線香花火も、最後には散ってしまうのが一番きれいなんじゃないの。少なくともわたしはそう思うわ」
「さすが世織ちゃん、なんだか大人ね」
愛瑠がバケツに花火を片づけながらいいました。
「デモ、いつ見ても花火はいいネ。ワタシも本当は、分身の術を使うとき、けむりじゃなくて花火使いたいノヨ。でもグランマに怒られたヨ」
てへへと笑うチェルシーを、未来があきれ顔で見ています。
「そりゃそうでしょ。くのいちが派手な花火使ってたら、すぐに見つかっちゃうじゃない。忍者ってのは、隠密行動が一番大事なんだから」
「ケド、ミクも自分の水晶玉、ずいぶんデコレーションしてるネ。ハデ好きなフォーチュンテラーも珍しいヨ」
「うるさいわね、いいでしょ、趣味なんだから」
未来がふんっと鼻を鳴らします。そばで聞いていたソフィーが、目をぱちくりさせてチェルシーにたずねます。
「チェルシーさん、その、フォーチュンテラーって、いったいなんなんですか?」
「フォーチュンテラーってのは、占い師のことよ。あたしの力は占いの力なの」
「未来ちゃんの力はホントにすごいよね。わたしも未来ちゃんみたいに便利な力だったらよかったんだけど……」
愛瑠がうらやましそうに未来を見ます。未来は得意そうに笑いました。
「まぁね、あたしの力はかなりすごいのよ。それは」
「ちょっとちょっと、早くこっちにおいでよ。肝試しのくじ引き、みんな引いちゃったよ」
ポン子が未来たちの話に割り入ってきました。未来がほおをふくらませます。
「えーっ、ちょっと、もうみんなくじ引いちゃったの? ずるいわ、呼んでくれたっていいのに」
「そんなこといわれても、しかたないじゃんか。みんな最後の線香花火楽しそうにしてたからさ」
「ポン子ちゃん、線香花火三秒で落としちゃってたもんね。あれは笑ったわよ、ぷぷぷ」
「あんたぁ! あんたも線香花火みたいに落としてやるわよ!」
花子とポン子がいつものこぜりあいを始めたので、ソフィーと愛子があわてて間に入ります。
「ちょっとちょっと、もう暗いのにケンカしちゃダメでしょ!」
「ほら、二人とも落ち着いてください。未来さんたちは、今のうちにくじ引いてください。二人はわたしたちでなんとかしておきますから」
花子とポン子を引きはがしながら、ソフィーたちがうながします。未来たちも急いでヒルデのところへ行きました。
「でもよく考えたら、わたしたち肝試しなんてしていいのかしら? だってわたしたちは陰陽師候補生でしょう。それなのに、肝試しだなんて」
「相変わらず委員長はお堅いことだぜ。いいだろ、そんなの。夏の恒例のイベントなんだし、深く考えなくてもいいと思うぜ」
あっけらかんという治実を、世織はため息まじりに見つめました。
「それはいいから、早くくじを引いてペアを決めましょう。あとは愛子ちゃんと未来ちゃん、それに世織ちゃんだけよ」
ヒルデにいわれて、世織は首をふりました。
「わたしは残ったくじでいいわ。委員長たるもの、最後に引くのがスジってものでしょう」
「いや、それはよくわからないけど……。まぁ、世織ちゃんがそういうなら、愛子ちゃんと未来ちゃん、先に引いてね」
ヒルデがお菓子の空き箱を、二人の前に差し出します。中には三本割りばしが入っていました。
「先に愛子ちゃん引いていいわ。それこそあたしは占い師だから、どれを引いたら誰とペアになるかってすぐわかっちゃうもん。世織ちゃんも先にどう?」
「わたしはいいわ。占部さんと多田野さんが引いたあとのくじで大丈夫よ」
「まぁ、別に男子もいないんだし、誰とペアになったとしても関係なくないか? いや、そりゃあまりあとだけは絶対ペアになりたくないけどさ」
治実の言葉に、愛子たちの顔から血の気が引きます。愛子が恐る恐る未来にたずねました。
「ちなみにさ、未来ちゃん、この三本の中にまりあちゃんとのペアになるくじは……残ってるかわかるでしょ? 教えて」
「大丈夫よ、それは。むしろ運命は、まりあちゃんにいいように回ってるみたいだから」
意味深ないいかたに、愛子たちは目をぱちくりさせましたが、それでもくじを引いていきました。
「それにしても、さっきの言葉は聞き捨てならないわね、ネコちゃん。むしろみんな、わたしとペアになったらとっても楽しい思いができると思うわよ」
まりあがいきなり声をかけてきたので、治実はウワッと思わず悲鳴をあげてしまいました。じろっとまりあをにらみつけます。
「びっくりしたな、お前はおばけかよ?」
「ひどいわ、ネコちゃん! それに男子いないとかいってたけど、ちゃんといるじゃないの、凪沙が」
「ああ、そういや忘れてた。でもあいつ、完全に女子グループに入ってるから、男子とは全然思えないんだよな」
「それちょっとわかるですぅ。ナギサはとっても優しいから、クシナ大好きですよぉ。クシナ、ナギサとペアになりたいですぅ、それかミールがいいですよぉ」
凪沙と魅入の手を、クシナがぎゅっとにぎりました。魅入は照れたように笑うだけでしたが、凪沙はうれしそうにクシナの手をにぎりかえしました。
「わたしもクシナさんとペアになりたいですよ。クシナさんだったら、守りの力できっと守ってくださいますもの」
「守りの力、ですかぁ? どういうことですぅ?」
「そうか、そういや凪沙は、怖いのダメだったもんな。あたしは別に平気だけど。まぁでも安心しなよ、凪沙。うちのクラスの女子は、基本的にみんなおばけよりも力を持ったやつばかりだからさ」
けらけらと笑う魅入を、みんながじろりとにらみつけます。
「魅入ちゃんったら、それどういう意味よ!」
かみつくポン子に、魅入は大げさに怖がります。
「おお、こわ。な、ポン子ですらこれだから、きっと誰とペアになっても守ってもらえると思うぜ」
「もうっ、あたしをなんだと思ってるのよ!」
「こわーい化けだぬきだろ。なんてな」
アハハハとみんなの笑い声が、海辺にこだましました。ポン子はぷくーっとほおをふくらませました。
「それじゃ、みんなくじ引いたし、ペアを発表するわよ。まず一組目は――」




