夏休みの話① ~レストラン『アンブロシア』へおいでませ~ その3
「ふぅー、やっとで終わったね。ずいぶんきれいになったんじゃない?」
花子が額の汗をぬぐいながらいいました。結局二階のそうじは、夕方近くまでかかったのです。ですが、ほこりだらけだった休憩室は、見違えるほどにきれいになりました。
「おーい、ヒルデ。どうだい、ひと段落ついたかい?」
一階から、ジークフリートさんの声が聞こえてきました。ヒルデが弾んだ声で答えます。
「うん、ピカピカになったよ! みんなのおかげだよ」
「よかった、ちょっと早いけど、こっちも準備できたから、みんな降りておいで。ごはんにしよう」
「わーい、待ってました!」
ポン子が歓声を上げます。他のみんなも、そうじでおなかがペコペコになっていたのでしょう、うれしそうに顔をほころばせています。
「じゃあ、みんなは先に席についてて。あたしはお兄ちゃんのお手伝いをしてくるから」
それだけいうと、ヒルデは急いで一階へ降りていきました。みんなもぞろぞろと一階へ降りていきます。
「あぁ、楽しみだなぁ。ヒルデちゃんがあんなにおいしい料理を作るんだから、そのお兄さんはもっとおいしい料理を作るはずだわ」
ほくほく顔の花子を、ソフィーがくすくす笑いながら見ています。
「花子さんは本当に食べることが大好きですね」
「そりゃそうだよ。ゆうれいのときは、なにか食べるってことはなかったから。そのぶんおいしいものには目がないっていうか、やっぱり食べることは大好きだよ。ソフィーちゃんはどうなの?」
「わたしももともと人形だったから、初めて食べ物を食べたときはやっぱり感動しました。でも、料理もすごくおいしかったけど、それ以上に出雲の湯のみなさんといっしょに食べたときの、あの温かさのほうがすごい心に残ってるんです。みんなといっしょに食べるって、あんなに温かくなるんだって、すごいほっとして……」
「そうだったんだね。確かに、一人でこっそり食べるよりも、みんなで食べるほうがおいしいよね」
花子がじろりとポン子を見ました。ポン子はふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向きます。
「もう、二人ともケンカしちゃダメですよ。せっかくおいしいものが食べられるっていうのに」
ソフィーが二人の間に割って入ります。二人はまだいがみあっていましたが、ソフィーににらまれたのでしかたなさそうにうなずきました。
「あぁ、ソフィーちゃんは本当にえらいわね。おバカ二人の面倒も見て、さっきのおそうじだって一番がんばってたもんね。ホントにえらいわ。わたしがよしよししてあげるわね」
まりあがソフィーにべったり抱きついたので、ポン子と花子がうっとうしそうに引きはがします。
「ちょっと、ただでさえ暑いのに暑苦しいことしないでよ」
「そうよ、それにあんた今、どさくさに紛れてソフィーちゃんのほっぺにちゅーしようとしてたでしょ! あたしの目はごまかせないわよ!」
「うるさいわね、そんなこといってるけど、あんたたちさっきのそうじでずっとサボりっぱなしだったじゃない! しかも、うまいことヒルデちゃんの目の届かないところでサボってて! サボり魔たちにいわれたくはないわ」
ギャーギャーわめく三人を、他のみんなは頭を抱えて見ています。見かねて世織が注意しました。
「まったく、なんでもいいけどおとなしくしておきなさいよ。そんなにはしゃぐなら、いっそお皿出しとかお手伝いしなさいよ」
テーブルにお皿を並べていた、アルバイトのお姉さんたちがくすくす笑います。ポン子たちの顔がボッと赤くなります。
「アハハ、そんな気にしなくていいさ。君たちは休憩室をきれいにしてくれたんだ。十分仕事してくれたじゃないか。今日はぼくの料理、楽しんでね」
厨房の奥からジークフリートさんが出てきました。それに続いてヒルデもお皿を運んでいきます。
「これでラストよ。さ、お兄ちゃんもこっちきて。みんなで明日からの成功を祈って、パーッとやりましょ」
「おいおい、パーッとやるって、明日からいそがしくなるんだぞ。ま、今日はほどほどにな。でも、プレオープンってのも悪くないし、みんないっぱい食べてくれ。明日からがんばろう!」
ジークフリートさんがワインの入ったグラスをかかげました。みんなもいっせいに乾杯していきます(もちろんポン子たちは全員、オレンジジュースです)。
「わぁ、でもすっごくおいしそうな料理ばかりだわ!」
ポン子や花子はもちろんのこと、他のみんなも歓声を上げます。大皿によそってあるのを取り分けながら、みんな口々に料理について質問していきます。
「すごい食欲をそそる香りだわ。パスタ……っていうより、焼きそばかしら?」
「うん、ペペロンチーノ風シーフード焼きそばさ。いわゆる塩焼きそばみたいなもんだよ」
「こっちはシーフードカレーね。ちょっぴり辛いけどおいしいわ」
「辛いのが苦手な子は、この生クリームをちょっとかけてごらん。そしたら味がマイルドになるからね」
「こっちの平べったいのは、そのまま食べるんですかぁ? クシナ、そのまま食べたんですけどぉ、ちょっと物足りなかったですぅ」
「あぁ、ごめんごめん、ちゃんと説明してなかったね。これはトルティーヤっていって、そのまま食べるんじゃないのさ。こっちの具を、ほら、お肉とかレタスやトマト、それにチーズをたっぷり乗せて、折り曲げて食べるんだよ。タコスって料理なんだけど、どうかな?」
「おいしいですぅ! クシナ、タコさん苦手だったんですけどぉ、こんなおいしいタコさんもいたんですねぇ」
「クシナちゃん、タコじゃなくてタコスよ。別にタコは入ってないわよ」
みんなワイワイいいながら、それぞれ料理を取り分けていきます。ジークフリートさんはそのたびに、おいしい食べ方や料理の説明をしてくれます。食べ終わったころにはみんな、ジークフリートさんのことが大好きになっていました。
「ごちそうさま! あー、おいしかったぁ……。どの料理もとってもおいしかったし、それにジークフリートさんがいろいろ教えてくれるから、勉強にもなったわ」
花子がおなかをさすりながら、幸せそうにほほえみます。ポン子が茶化すようにツッコみました。
「へぇ、三バカトリオのエースが、勉強になっただなんて、面白いこというんだから」
「いや、ポン子ちゃんも三バカトリオの一人だからね……」
あきれ顔の花子でしたが、ポン子は気にせずおなかをたたきました。ぽんぽこたぬきみたいに、おなかがふっくらしています。
「でも、本当においしかったわ。あぁ、来てよかったぁ……」
「さ、おいしいもの食べたんだし、明日からはビシバシ働いてもらうからね! 特にポン子ちゃんと花子ちゃんは、今日サボってたぶんも、しっかり働いてもらうわよ」
「そんなぁ、ばれてたんだ……」
ヒルデにじろりとにらまれて、二人はううっと小さくなってしまいました。ジークフリートさんがアハハと笑います。
「いやいや、みんなにはすごい助かってるよ。本当いうと、今年は二階の休憩室を封鎖しようって思ってたところなんだ。ぼくとアルバイトの子たちだけじゃ、とてもじゃないけどそこまで手入れは回らなかっただろうからね。でも、みんながそうじしてくれたから、今年も休憩室を開放できる。利用する人が毎年多かったから、今年も喜んでもらえると思うよ」
ジークフリートさんにほめられて、みんなの顔もほころびます。ジークフリートさんはにっこりしてから、思い出したように厨房の奥へと戻っていきました。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「えーっと、どこにやったかな、あ、あったあった。ほら、そろそろ暗くなってきたから、いい感じの時間だろう。みんなで花火してきなよ」
ジークフリートさんが持ってきたのは、花火セットでした。わぁっと歓声が上がります。
「でもお兄ちゃん、お片づけが」
「いいよそれは、ぼくたちでやっておくからさ。そんな顔するなって、ぼくらも洗い物終わったらすぐ行くからさ」
ヒルデの顔がさみしさでゆがんだので、ジークフリートさんはあわててつけくわえました。もちろん、他のみんなは大喜びです。口々にジークフリートさんにお礼をいいます。
「ぼくのほうこそ助かってるよ。さ、それじゃあ行ってきな。海辺だけど、ちゃんとバケツも持っていくんだぞ」
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