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夏休みの話① ~レストラン『アンブロシア』へおいでませ~ その2

「あたしたちアンブロシア一族は、もともとスウェーデンって国に住んでたの。でも、あたしのおばあさんが日本に来て、日本人だったおじいさんと結婚した。だからあたしは、クォーターハーフってやつなの」

「そうか、それで外国の人みたいな名前なのに、日本語がペラペラだったんだ」


 花子の言葉に、ヒルデははにかむように笑いました。


「うん。あたしも名前はブリュンヒルデっていうけど、生まれも育ちも日本だからね。見た目も完全に日本人でしょ。だから初対面の人に名前をいうと、みんなびっくりするんだよ」

「でも、ヒルデさんの目の色は、とても不思議な色ですよね。青緑色で、きれいな色です。わたし最初は、宝石みたいって思いました」


 ソフィーにいわれて、ヒルデは照れ隠しするようにぞうきんをしぼりました。ソフィーたちもぞうきんで床をきれいに磨いていきます。


「ありがとうね、そういってもらえるとうれしいわ。それにこの目は、あたしたちアンブロシア一族の女の子が、力を引きついだあかしでもあるの。あたしたちの祖先は、神様の使い、戦乙女のヴァルキュリアだっていわれているのよ」

「ヴァルキュリア? ヴァルキュリアって、北欧神話の?」


 愛子にいわれて、ヒルデはうれしそうにうなずきました。


「そうなの。すごいわ、知ってる人がいるなんて。クラスのみんなにあたしのこと話しても、誰もヴァルキュリアのこと知らなかったから、知ってたのは愛子ちゃんが初めてだわ」


 ヒルデに手を取られて、今度は愛子が照れ笑いする番でした。


「そんな、そんなすごくはないでしょ。ただわたし、神話とかそういうのすごく好きだから、それでたまたま知ってただけでしょ。でも北欧神話はすごい好きな神話でしょ。創作意欲がわいてくるっていうか、読んでてとっても面白いわ」

「創作意欲?」


 花子に聞かれて、愛子はハッと口を押さえました。


「あ、いやなんでもないでしょ。それよりヒルデちゃんの力のこと、早く知りたいでしょ」


 愛子にうながされて、ヒルデは話を続けます。


「うん、あたしたちアンブロシア一族は、ヴァルキュリアの力を引いているっていわれているんだけど、愛子ちゃんはヴァルキュリアの力ってなんだかわかる?」

「うん、ヴァルキュリアは戦乙女っていう呼び名の通り、戦場で死んでしまった戦士を神の兵士として導く役目を持っているんでしょ」


 愛子の言葉に、ヒルデは首をたてにふりました。


「そうよね、よく知られているのが、今愛子ちゃんがいってくれた、兵士をスカウトする役割だわ。でもあたしたちが引きつぐ力は、戦士を導く力じゃないの」

「えっ、違うの? でも、他にヴァルキュリアってどんな力を持ってたかしら?」


 目をぱちくりさせる愛子に、ヒルデはおっとりした笑顔で続けました。


「ヴァルキュリアは、戦乙女であるとともに、神の兵士たちの料理を作る、料理人でもあったの。彼らは日中、戦いの技術を磨くために互いに殺し合っていたから」

「えっ、殺し合い?」


 目を見開く花子に、ヒルデはあわてて手をふりました。


「神話の話だから、本当かどうかはわからないわ。ただ、そうやって傷つき、もしかしたら死んでしまう者もいたかもしれない特訓のあと、ヴァルキュリアはある料理を神の兵士たちに食べさせたの。それを食べた兵士たちは、みるみるうちに傷が回復して、死んでしまったものも生き返ったっていわれているわ。……その料理こそが、アンブロシアと呼ばれる料理だったらしいの」

「アンブロシアって、ヒルデちゃんの」

「うん。あたしのファミリーネームなんだ。日本人のおじいちゃんと結婚したときも、おばあちゃんはこの名前を残すようにお願いしたの。名前といっしょに、あたしたちアンブロシア一族の女の人には、ヴァルキュリアの料理人としての力が引きつがれるのよ」


 ヒルデは胸に手を当てて、青緑色のひとみを輝かせながら続けました。


「だからあたしが力をこめて作った料理を食べれば、様々な効果が現れるのよ。ヴァルキュリアが作った料理のように、傷が治ったりもするし、他にも幻覚を見せたりすることもできるし、身体能力を高めたりすることもできるわ」

「すごいですね、まさに魔法の料理です」


 ソフィーの言葉に、ヒルデも首をこっくりしました。


「そう、魔法の料理なの。それであたしたちアンブロシア一族に伝わる伝承によると、ヴァルキュリアが作り上げた料理、アンブロシアを作ることができたとき、あたしたちアンブロシア一族は再び戦乙女に戻ることができるらしいの」

「そうか、それでさっき悲願っていったんですね」

「ええ。でも、あたしにとっては別に戦乙女に戻りたいとかは、あんまり思っていないの。ただ、アンブロシア、傷を回復させて、死者さえもよみがえらせるほどの料理は、なんとしても作り上げたいの。……もしそんな料理が作れたら、あたしはお兄ちゃんの傷を治すことができるから」


 ヒルデの言葉に、みんな口をつぐんでしまいました。休憩室の中が、重苦しい空気で満たされていきます。ヒルデはわざと明るい声でいいました。


「さ、あたしの力の話はこのくらいにして、早くおそうじ終わらせちゃいましょ。明日からはあたしも料理の特訓するから、みんなも味見お願いね」

「えっ、いいの? やったぁ、ヒルデちゃんの作るお菓子とってもおいしかったから、お料理も絶対おいしそう! 今から楽しみだわ」


 ポン子がうれしさのあまり飛びはねます。花子がわざとらしくため息をつきます。


「はぁ、やっぱり食い意地がはってるんだから」

「なによ、じゃああんたはいらないのね。ヒルデちゃん、花子ちゃんは味見したくないっていってるから、あたしたちだけでするわね」

「わぁ、ダメダメ、わたしも味見するに決まってるでしょ!」


 ワーワーギャーギャー騒ぐ二人を見て、ヒルデはおっとりした笑顔をうかべました。


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

本日19時台にもう1話投稿予定です。

そちらもお楽しみに♪

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