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七月の話 ~男の子? 女の子? 人魚の王子とハートの盗賊~ その19

 盛り上がるクラスメイトたちを見て、魅入(みいる)は照れくさそうに苦笑しました。


「まったく、すごいプレッシャーをかけるんだから」

「でも、これでやる気出たでしょ?」


 花子にいわれて、魅入は力強くうなずきました。


「ああ、もちろんだ。それじゃあみんな、準備はいいな?」


 魅入は黒板の前に立った四人に声をかけました。愛子、ソフィー、クシナ、凪沙(なぎさ)は、少し緊張したおももちで首をたてにふりました。


「よし、行くぜ、それっ!」


 魅入がパチッとウインクしました。そのとたん、クシナがつけていたくしから、目が焼けるほどの強い光が放たれたのです。魅入はもちろん、他のみんなも思わず顔をおおいます。


「うわっ、なんだこれ!」

「クシナのくしがぁ、なんなんですかぁ?」


 頭をブルブルふるクシナでしたが、光はじょじょにおさまっていきました。クシナはおそるおそるくしに指をふれます。バチッと指が、くしからはじかれました。


「ひゃあっ! いったいどうなってるんですかぁ?」

「そりゃあたしが聞きたいよ。……とりあえず別に異変はないみたいだけど、みんな大丈夫か?」


 他のクラスメイトたちに目をやり、魅入の顔が引きつりました。


「なっ……。うそだろ」

「ミー様……ミー様ぁ!」


 教室にいたクラスメイトたちはみんな、目がハート型に変わっていたのです。もちろん魅入がウインクしたのは、クシナたちだけでした。それなのになぜか、他のみんなまでハートが盗まれていたのです。悲鳴をあげて逃げようとする魅入でしたが、まりあと太陽がものすごい勢いで飛びかかってきます。


「ミー様ぁ、好きっす、好きっす、パンツ見せてくれっすよぉ!」

「ミー様、くちびるを、わたしにくちびるを恵んでください! キッスさせてください!」


 変態二人に抱きつかれて、魅入はひぃっとおびえたような声を出します。他のクラスメイトたちも、次々に魅入に飛びかかってきます。


「なんだこれ、どうしてこんなことになってるんだ!」

「魅入ちゃん、大丈夫?」


 愛子の声がしたので、魅入は太陽とまりあを必死で引き離しながら答えました。


「大丈夫なもんか! 愛子たちは、無事なのか!」

「無事よ、わたしとクシナちゃん、ソフィーちゃんは無事だけど、他のみんなはチャームにかかってるでしょ!」


 魅入の顔から一気に血の気が引きます。太陽とまりあがグーッと顔を近づけてくるので、魅入は思いっきり身をよじってさけびました。


「なんとかしてくれぇ! このままじゃ、あたしは」

「とにかく片っ端からチャームを解除するしかないでしょ! まずは変態二人を解除して!」


 魅入に群がるクラスメイトたちを、なんとか引き離しながら、愛子がさけびかえします。


「いや、無理だ! こいつら、目をつぶってやがる!」


 あせってうわずった声が、クラスメイトたちの群れの真ん中から聞こえてきます。もはや魅入のすがたは、みんなに囲まれて見えなくなっていたのです。それでも愛子は必死に魅入に声をかけます。


「とにかくがんばって! なんとかしてみんなを引きはがすから、それまでの辛抱でしょ!」

「そんなの無理だよ、ひぃぃっ、まりあ、やめろ、くちびるを近づけるな! バカ、太陽、ズボン脱がそうとするな!」


 魅入の声が、だんだんと弱々しくなっていきます。かなり追い詰められているようです。ですが、愛子たちも三人ではどうしようもありません。しかも愛子もソフィーも、特別な力を持っているわけではなく、クシナにいたってはどんな力なのかいまだにわからない状態なのです。


 ――わからない状態……? そうだわ――


 ソフィーがハッと顔をあげました。急いでクシナを見て、それから魅入に大声で呼びかけたのです。


「魅入さん、もう一度、もう一度チャームをかけてください!」

「なんだって? 無茶いうなよ、チャームを解除するならまだしも、チャームをかけろだって?」

「そうです、クシナさん、そこのイスの上に立ってください!」


 ぽかんとしているクシナの手をつかんで、ソフィーはなかば強引にクシナをイスの上に立たせました。背が低いクシナも、イスの上に立ったことで魅入の顔を見ることができました。


「た、た、大変ですよぉ! ミールが、クシナのミールが、太陽とまりあに食べられちゃいそうになってますぅ!」

「変ないいかたするな! 早く助けてくれよ! ホントにあたし、こいつらに……ひぃっ!」


 情けない悲鳴をあげる魅入に、ソフィーが再度大声をかけます。


「もう時間がないです! 早くクシナさんに、チャームをかけてください! 思いっきり、全力でかけてください!」


 イスの上に立っているクシナと、魅入の目が合いました。魅入はもうやけくそ気味です。


「ああ、もうっ、こうなったらやってやるよ!」


 太陽とまりあの顔を押さえつけながら、魅入はクシナに全力でウインクしました。またもやクシナのくしから、とてつもない光が放たれます。その光は教室中を照らしたのです。クラスメイトたちもみんな、光に包まれていきます。そして――


「ミー様ぁ……あれ? あたしたち、なにしてたの……?」


 魅入にしがみついていたポン子が、目をぱちくりさせています。他のクラスメイトたちも、まるできつねにつままれたように、きょとんとしています。


「よかった、みなさん、チャームが解けたんですね!」


 ソフィーの言葉に、みんなようやく状況を飲みこめた様子で、ハッと魅入に顔を向けました。ただ二人をのぞいて……。


「ミー様、ミー様ぁ!」

「うおおっ、魅入、パンツ、パンツをぉ!」

「きゃああっ、この変態二匹、離れなさいよ! まりあちゃんとヘンタイヨウがまだ魅入ちゃんにしがみついてるわ!」

「やめろお前ら、チャームはもう解けてるだろ! しがみつくな、口を近づけるな、ズボン脱がすな!」


 魅入だけでなく、全員がかりでまりあと太陽を引きはがします。二人はわざとらしくまばたきしてから、頭をふりました。


「あれ、ああ、そっか。わたしたち魅入のチャームにかかってたのね」

「危なかったっすね。まったくおれたちのハートまで盗むとは、魅入おそるべしっすね」

「なにあんたたち、ようやくチャームが解けましたみたいな顔してるのよ! 絶対解けたあとも魅入ちゃんにセクハラしてたでしょ! お仕置きよ!」


 ポン子の言葉にみんなも乗っかり、まりあと太陽をとりかこみます。二人のちょっぴりうれしそうな悲鳴が、教室中にひびきわたりました。


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

明日で七月の話が終了いたしますので、今回もおまけの話を投稿させていただこうと思います。

そのため、明日は七月の話とおまけの話の2話ぶんを19時台に投稿する予定です。

そちらもよろしければどうぞ♪

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