四月の話 ~空から降ってきた天女様~ その6
「ええっ、学校? この子が? それこそぼろが出ちゃうでしょ! 絶対天女だってばれちゃうと思うわ」
「クシナちゃんだけじゃないわ。ソフィーちゃんと花子ちゃんもいっしょに行くことになっているのよ」
それを聞いて、ポン子はまん丸の目をさらに丸くしてしまいました。口もぱっくり開けたまま、なにもいえずに固まっています。
「ソフィーちゃんたちは別に構わないわよね? 別にクシナちゃんが一緒に学校に行くことになっても」
ソフィーと花子は同時に首をたてにふりました。
「うん、もちろん。むしろ知ってる人がいるほうが安心するし、わたしは賛成だわ」
「わたしも、やっぱりいろいろ不安だったから、頼れる人が花子さん以外にいるとすごく助かります」
「いや、ソフィーちゃん、あの子どう見ても頼れないと思うわよ。ていうかあたしはやっぱり反対だわ! だって花子ちゃんもソフィーちゃんも、まだまだ人間の世界にすら不慣れなのに、いきなり学校なんてめちゃくちゃだよ! そのうえこんなお荷物……じゃなかった、クシナちゃんの面倒まで見るなんて、かわいそうだよ!」
まくしたてるポン子を、リンコ先生はにやにやしながら見ています。その笑顔にちょっと嫌な予感を覚えつつも、ポン子は続けました。
「とにかくもう一度考え直してくださいよ! せめて来年くらいからにしたほうがいいと思うわ」
「でも、ヤマタノオロチが目覚めそうなのは確かなんでしょう?」
リンコ先生の言葉に、クシナは何度もこっくりしました。
「そうですよぉ! ヤマタノオロチは、いつおねんねから目が覚めるか、わかんないですよぉ。もしかしたらもう目覚めて、おなかが空いてるころかもですぅ。そうなったらみんな食べられちゃうですよぉ」
クシナの言葉に、ポン子の背筋がぞっと寒くなりました。お風呂から上がってきたばかりだというのに、なんだかぞくぞくします。
「らしいわよ。それでもポン子ちゃん、来年からにするの?」
「うう……。でも、それならあたしがいったように、大人に変化を……って、絶対無理だよなぁ、クシナちゃんが大人のふりなんてできるはずないよ」
「ああっ、またクシナをバカにしたですぅ! もう絶対許さないですよぉ!」
「もう、しゃべりかたからしてどう見ても大人じゃないもん。それならリンコ先生がいったとおり、いっそのこと学校に入ってもらって、帰ってくるときとかに町を調べてもらったほうがいいわね。でも、不安だなぁ」
リンコ先生はにやにや笑いをうかべたまま、ポン子に問いかけました。
「そんなに不安なの?」
「だって、クシナちゃんは別にどうでもいいけど、ソフィーちゃんや花子ちゃんが困るのは、やっぱり見過ごせないよ」
その言葉を待ってましたとばかりに、リンコ先生は目を輝かせました。
「そうよね、ポン子ちゃんはソフィーちゃんや花子ちゃんのことが心配でしょ。そうだと思ったから、ちゃんとポン子ちゃんも学校に通うように手配してあるわ」
「ああ、なんだ、それなら安心……って、ええぇぇぇっっ!」
すっとんきょうなさけび声をあげて、ポン子は手をバタバタとふって、リンコ先生に、からだじゅうで「ノー」とさけびます。
「やだやだやだよ! だって学校って、お勉強をするところでしょう。あたし、人間たちの文字を覚えるのだってすごい苦労したのに、これ以上お勉強するなんてやだよ! そんなことするより、気楽に町で遊びたいもん!」
リンコ先生の細いつり目が、さらに細くなりました。冷ややかな声でポン子にたずねます。
「そっかぁ、いやなの。ポン子ちゃんさっき、ソフィーちゃんや花子ちゃんが心配っていってたのに、いやなんだ?」
「う……それは、その……」
「ポン子ちゃん二人と学校行くのいやなんだって。二人とも楽しみにしてたのにねぇ」
リンコ先生がソフィーと花子をふりかえりました。これはポン子にとってかなりダメージのある攻撃となったようです。ソフィーもポン子も、すごくがっかりした表情をうかべていたのですから。
「えーっ、せっかくポン子ちゃんと学校でいろいろ学べると思ってたんだけど。そっか、いやなんだ」
「わたしも残念です。ポン子さんすごい頼りになるから、助けてもらいたかったのに……」
「うう、ず、ずるいよリンコ先生……」
ポン子はうらめしそうにリンコ先生を見あげました。リンコ先生はにたぁっと笑ってポン子を問いつめます。
「それで、どうするの? 学校に行くの? それとも行かないの?」
「うう……わかったわよ、行きます、行けばいいんでしょ! 学校に行って、ソフィーちゃんと花子ちゃんをフォローして、そこのポンコツ……じゃなかった、クシナちゃんの調査の手伝いをする! それくらいやってやりますよ!」
もはややけくそ気味にいうポン子に、リンコ先生は二っと笑ってうなずきました。
「それでこそポン子ちゃんよ! よかったわ、実はもう転入手続きはすんでたのよ。これでポン子ちゃんが行かないとかいいだしたら、困ったことになってたわ」
「ええっ、じゃあもう決定してたんですか! それじゃああたしに聞く意味なかったじゃないですか!」
「そんなことないわよ。もしポン子ちゃんがどうしてもいやっていうんだったら、そのときはあきらめてたわ。でも、ポン子ちゃんは二人のためにちゃんと引き受けてくれるって信じてたから。もちろん二人も信じてたのよ」
「えっ、そうなの?」
ポン子に聞かれて、ソフィーと花子はえへへと照れたように笑いました。
「ごめんね、だまってて。でも、ポン子ちゃんには秘密にしておくようにリンコ先生からいわれてたから」
「でも、うれしいです。ポン子さんがいっしょに学校に来てくれるなんて。わたし、ホントはすごく不安だったから、頼もしいです」
二人がポン子にかけよります。喜ばれたのがうれしかったのか、ポン子までもてへへと照れて笑いました。
「二人がそういうなら、うん、あたしがんばるよ! 学校に行って、二人のことをしっかりサポートするからね」
「ちょっと、クシナのこともちゃんとサポートしてほしいですぅ!」
クシナも寄ってきたので、ポン子はうっとうしそうにまゆを上げます。
「あんたも? うーん、ま、とにかく面倒ごとは起こさないようにしなさいよ。ソフィーちゃんと花子ちゃんの迷惑にならないように、おとなしくしててね」
「なんですぅ、そのいいかたはぁ! クシナはそんな面倒ごと起こしたりしないですぅ」
「いや、あんたが煙突に突っこむから、こんな面倒なことになってるんじゃないの……」
ジト目でクシナを見るポン子でしたが、はぁっとため息をついてうなずきました。
「まぁいいわ、あんたのこともついでに守ってあげるわよ。……でも、リンコ先生、まだ聞いてなかったんですけど、あたしたちいったい何年生になるんですか?」
「もちろん高校三年生だよ」
「はぁっ? いやいや、無理だよそんなの!」
「まさにこうさんですぅ」
「……クシナちゃん?」
目を点にするポン子でしたが、リンコ先生はアハハと笑って首をふりました。
「ごめんごめん、じょうだんさ。ちょっとからかいたくなってね。ま、それはいいとして、学年だけど……」
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