七月の話 ~男の子? 女の子? 人魚の王子とハートの盗賊~ その16
「はぁ、やっぱりどうやっても、あいつらのハートは盗めないな……って、おい、なんでそんなににぎわってるんだよ、遊びじゃなくて修行なんだぞ」
魅入がうしろのギャラリーたちをふりかえって、文句をいいます。
「あら、別にいいじゃんか。あたしたちの出番はまだでしょ。あ、ポン子ちゃん、その『わたあめ妖精』に『光のブーメラン』を使うわ」
ふわっふわのボブカットの女の子が、テーブルに並べられたカードを一枚指さしました。
「ああっ、未来ちゃんずるいよ! またあたしのエインヘリャルがやられちゃったよ」
ポン子がムーッとふくれっつらをします。相手の女の子、占部未来は、へへっと笑って、ふわふわした女の子が描かれたカードを手に取りました。
「『光のブーメラン』で『わたあめ妖精』はあたしのエインヘリャルになったわね。さ、あとはみんなで攻撃! これでポン子ちゃんのデッキの枚数は0枚よ。あたしの勝ちね!」
「ちぇーっ、やっぱり難しいよ、『ラグナロク・ソーサラーズ』。ていうか未来ちゃんずるいよ、あたしのかわいいエインヘリャルたちを片っ端から奪うんだもん」
「まぁ、未来は出雲町ラグナロクカップで、おれに次ぐ町内二位だからな。まだ始めたばかりのポン子じゃあまだ勝てないさ。だが、いいところまで行ったんじゃないか?」
つんつんした髪にきつい目をした男の子、引野勝利が肩をすくめました。まりあもうなずきます。
「そうよ、わたしのデッキなんか、いつも未来にぼこぼこにされちゃうもん。ショーリにカード借りたとはいえ、いいデッキ組んだんじゃないの?」
「いや、そりゃそうでしょ。だってまりあのデッキはめちゃくちゃじゃん。かわいい女の子のエインヘリャルばっかりで、クイックスペルもチャントスペルも入ってないじゃんか」
「そりゃそうよ、せっかく自分でデッキを組めるのに、かわいい女の子のカード使えないと面白くないでしょ」
あっけらかんというまりあを、未来も勝利も苦笑しながら見ています。しかし、それ以上に苦笑しているのは世織でした。
「あのねぇ、あなたたち、いくら放課後だからといって、学校にカードゲーム持ってきちゃダメって何度も」
「まぁまぁ、固いこといわないでよ。せっかくみんなでこんな面白そうなイベント開いてんだから。それより世織ちゃんも食べる? 特訓って聞いたから、おなかすくだろうと思ってあんドーナツ作ってきたよ」
ショートカットの黒髪に、ちょっぴりふっくらした女の子が、世織に紙袋を渡しました。紙袋の中には、モチモチした生地に砂糖がまぶされた、おいしそうなあんドーナツがたくさん入っていました。
「ブリュンヒルデさんも、お菓子学校に持ってきちゃダメって何度もいってるじゃないの。どうしてみんな校則を破ろうとするのよ」
「もう、ヒルデって呼んでっていってるじゃない。そんなこというなら、世織ちゃんはあんドーナツいらないんだ。じゃあみんなで食べましょ」
ヒルデはふっくらしたほっぺをぷくっとふくらませてから、ポン子たちにあんドーナツを持っていきます。
「みんな、おやつ食べよー」
「わあい、ありがとうヒルデちゃん」
「ポン子、食べるのはいいけど食べたら手をふけよ。カードはおれたちソーサラーにとって魂に等しいからな。食べかすで汚れるなんてことは許されないぜ」
「大丈夫よ、ポン子ちゃん。ハンカチあるから、これ使って」
未来にハンカチを渡されて、ポン子は照れくさそうにうなずきました。
「ありがとう、未来ちゃん。じゃあちょっと休憩して、おやつを」
「いやいや、次はポン子の番だからな。いっとくけどあたしの特訓なんだから、ちゃんと付き合ってもらうぞ」
声がしたほうにふりむくと、魅入がジト目でポン子を見ています。花子が急いでヒルデたちのそばにかけよります。
「じゃあ次はポン子ちゃんとソフィーちゃんね。あたしとクシナちゃんは休憩よ。大丈夫、ポン子ちゃんの分まであんドーナツ食べとくね」
「なにいってんのよ、このお菓子ドロボウが! あたしの分残してなかったら、くすぐり地獄を味わわせるからね」
「元祖お菓子ドロボウにそんなこといわれたくないわよ! さっさと特訓に行ってきなさい。あっ、未来ちゃん、ショーリ君、わたしにもカードゲーム教えてよ」
ポン子がすわっていた席に、花子がルンルン気分ですわります。じだんだをふむポン子でしたが、ソフィーにうながされてしかたなく魅入の前に立ちます。
「だいたいあたしは、いつも魅入ちゃんのチャームにかかってるんだから、練習台にもならないじゃないの」
「そんなこといわずにポン子さんも協力しましょう。そうしないと、魅入さんの夏休みが特訓づけになっちゃうんですよ」
「そりゃまあ、わかってるけど。でも、次は勝てそうだったのにな」
「まぁまぁ、あ、そうだわ。わたしといっしょにポン子さんもカード買いに行きますか? 未来さんや勝利君も連れて、カードショップに行ってみましょうよ」
ソフィーの言葉に、ポン子は目をぱちくりさせました。まん丸の目がさらにまん丸くなっています。
「珍しいね、ソフィーちゃんがそんなこというなんて。ソフィーちゃん、真面目で宿題のことばかり考えてるって思ってたのに」
「もうっ、そんなふうにわたしのこと見てたんですか? 別にわたしは、そんな真面目なだけの子じゃないですよ。それに、さっきポン子さんがゲームしてて、ちょっと興味があっただけです」
ちょっとだけほおを赤くして、ソフィーがポン子を見あげました。
「そうだったんだ……。わかった、それじゃあ夏休みになったら、お小遣い持ってカード買いに行こう!」
へへっとうれしそうに笑うポン子に、魅入があきれ顔で声をかけます。
「とりあえずそろそろいいか? 特訓を再開するぞ」
魅入の言葉に、ポン子たちはこっくりとうなずきました。




