七月の話 ~男の子? 女の子? 人魚の王子とハートの盗賊~ その12
ぐったりした太陽を男子のコースへ追いやって、世織が代表してどなりました。
「次に女子コースに入ってきたら、男子全員に責任取ってもらうからね」
「責任って、なにをさせるつもりっすか?」
男子コースに戻った太陽が、ふくれっつらで世織を問いただします。世織はギロッと鋭い目で太陽をにらみつけました。
「簡単よ、次からプールは女子だけにして、男子はグラウンドで持久走でもしてもらうわ」
「なっ、めちゃくちゃっすよ! いくら委員長だからといって、そんな横暴は許されないっすよ!」
抗議する太陽に、世織が声を荒げました。
「こっちに来なかったらいいだけじゃないの! おとなしくしてたらそんな強権は発動しないわ。わかったら男子コースでじっとしてなさい!」
「ずるいっすよ、だいたい凪沙は男子じゃないっすか、それなのに当然のようにそっちにいるなんて、せこいっすよ! お前ら気づいてないかもしれないっすけど、凪沙は女のふりして、お前らの水着すがたをじろじろ見てるっすよ!」
「んなことするはずないじゃないの! ヘンタイヨウが、適当なこといってんじゃないわよ」
ポン子が手をふりあげて大声を上げます。しかし、太陽も負けじとどなりかえします。
「うそじゃないっすよ、本当っす! お前ら凪沙を女と同じように思ってるかもしれないっすけど、凪沙は本当はおれと同じ変態なんすよ。ギラギラした男なんすよ、狼なんすよ!」
「どう考えてもあんたの作り話でしょう! だいたい江口君、八百さんのこと男だなんだっていってるけど、ときどき八百さんのスカートめくってるじゃないの! それって八百さんが女の子だってあんたも認めてるって証拠じゃない」
冷静にツッコむ世織でしたが、変態にはその理屈は通用しなかったようです。
「いや、おれは男女関係なく、スカートがあればめくるっすよ。それがおれのポリシーっすから」
「きゃあぁっ! やっぱりこいつ、ド変態だわ!」
花子が悲鳴をあげました。世織は完全にあきれ顔です。
「まったくもう、江口君には困ったものだわ。ポリシーとかかっこいいこといってるけど、ただの変態じゃないの。江口君さえいなければ、うちのクラスももっと平和なんだけど」
「きゃあぁっ!」
今度は愛瑠の悲鳴が聞こえました。世織がすばやくうしろをふりかえります。
「吉見さん、どうしたの? まさか、有栖川さんがまたいやらしいことをしたんじゃ?」
「お兄ちゃんが、お兄ちゃんがこっち見てた! ゴーグル外してこっち見てたわ! 変態!」
愛瑠が男子コースのほうを指さしています。その先には、やせた猫背の男の子が、ブンブンと手と首をふって否定しています。
「違う違う、女の子のほうなんて見てないよ、ホントだよ、ホントだって」
お兄ちゃんと呼ばれた男の子、吉見透が必死に言い訳しています。しかし愛瑠はカンカンです。透に怒りを爆発させます。
「どうしてゴーグルつけてないのよ! そんな状態で水泳の授業を受けるなんて、え、え、エッチなこと考えてるからじゃないの!」
「違うってば、今日たまたま忘れちゃったんだよ。ホントだって、信じてくれよ。あ、そうだ、愛瑠のゴーグル貸してよ。そしたら」
「いやよ、どうしてお兄ちゃんにゴーグル貸さないといけないのよ。それに、わたしゴーグルつけてなかったら、未来の景色がめちゃくちゃに見えて、とんでもないことになるんだから!」
ぎゃーぎゃーわめきあう二人を見て、愛子がそっと世織にたずねました。
「前から思ってたんだけど、あの透君は、いったいどんな力を持ってるの? 愛瑠ちゃんみたいに、めがねをかけてなければ使えるらしいってことはわかるけど、そんな危険な、それでその……エッチな力なの?」
愛子の言葉に、世織は苦々しい顔でうなずきました。
「そうね、吉見君の力は吉見さんと同じような、裸眼で見たときに発動するものよ。彼はめがねやゴーグル越しじゃなくて、裸眼で見たものを透視することができるの。つまり、透けて見ることができるってことよ」
「えっ、じゃあもしかして、わたしたちの水着も……きゃあっ!」
愛子の顔が真っ赤になります。急いで手でからだを隠す愛子に、透が再び否定しました。
「ひどいよ、愛子ちゃんまで。それに世織ちゃん、ぼくの力を説明するなら、ちゃんと説明してよ! 愛瑠と同じように、ぼくの力もすごく使いづらいんだよ。ぼくの透視能力は自分で調節できないから、都合よく水着だけ透視なんてできないんだよ! 透視しようとしても、レントゲン写真みたいになるのがオチだよ」
「でも、うまいこと水着だけ透視できる可能性だってあるじゃないの! そんなえ、エッチな力持ってるんだから、お兄ちゃんはめがねやゴーグル越しじゃないと女の子を見ちゃダメなのよ!」
愛瑠にガツンとどなられ、透はがっくりとその場にうなだれました。すごすごと背を向ける透を、太陽がなぐさめます。
「ふん、変態どもが落ちこむふりなんて見せちゃって。どうせ同情してほしいだけでしょ」
花子が鼻を鳴らしました。ポン子があきれたように花子に声をかけます。
「いや、あんたはなにもしてないじゃないの」
ポン子の言葉は聞こえないふりをして、花子は肩をすくめます。その目に、凪沙と泳ぎの練習をするクシナのすがたが映りました。そのとたん、花子がピンッとひらめいたのです。
「そうだ、凪沙ちゃんだ!」
「えっ、凪沙ちゃんがどうしたのよ?」
ポン子にたずねられましたが、花子はそれには答えず、魅入のほうへと泳いでいきました。
「魅入ちゃん、そうだわ、凪沙ちゃんよ! 凪沙ちゃんの協力が必要なのよ」
「えっ、凪沙がどうしたって?」
ぽかんとしている魅入に、花子は再び同じ言葉をくりかえします。
「凪沙ちゃんよ! 凪沙ちゃんに協力してもらえばいいのよ」
「いや、だからなにを協力してもらうんだよ?」
首をひねる魅入に、花子は二ッと笑いかけました。
「それはあとで説明するわ。とにかく、今日放課後残ってちょうだい。あ、ポン子ちゃんたちもだよ。それに魅入ちゃんと、もちろん凪沙ちゃんも」
「いいけど、ホントになんだってのよ?」
ポン子に聞かれても、花子はにやにや笑うだけでした。




