表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/485

七月の話 ~男の子? 女の子? 人魚の王子とハートの盗賊~ その11

「すごいですぅ、すごいですぅ、すごすぎるですよぉ!」


 水面をバシャバシャさせながら、クシナが興奮してさけびまくります。ポン子たちも急いでクシナと凪沙(なぎさ)のそばに近づいていきました。


「よかったわ、喜んでもらえて。ね、プールも、水の中も楽しいでしょ?」

「楽しいですよぉ! ナギサ、ありがとうですぅ。クシナ、水の中大好きになりましたぁ!」


 喜び合う二人に、ポン子たちは目をぱちくりさせながら質問します。


「ねぇねぇ、いったいどうなってるのよ? なにがあったっていうの?」

「クシナちゃん、あんなに長くもぐってて、息は大丈夫だったの?」

「クシナさんがおぼれたんじゃないかって、みんなすごい心配してたんですよ」

「でもあんな長くもぐってられるなんて、びっくりしたでしょ。あ、もしかしてあれって、凪沙ちゃんの力でしょ」


 矢継ぎ早に質問を浴びせられて、クシナと凪沙は顔を見合わせました。凪沙はクシナににこりと笑いかけてから、照れたようにみんなの質問に答えました。


「クシナちゃんはおぼれたりしてないから、みんな安心してね。あのね、わたしのからだにふれている人は、みんな水の中でも呼吸できるようになるの。それに、水の中でも地上と同じように、よく見えるようになるし、音も聞こえるようになるの。だから、わたしにさわってる限り、おぼれたりはしないのよ」


 驚くみんなに、クシナが何度も首をたてにふって、興奮気味に続けました。


「そうなんですぅ、クシナ、水の中でも全然苦しくなくって、ホントにお魚さんになった気分でしたよぉ。クシナ、プールが好きになりましたぁ!」

「よかった、そんな喜んでくれるなんて、うれしいわ。わたし、人魚の末裔(まつえい)だから、水の中じゃないと力を使えないのよ」


 凪沙の言葉に、みんな「えぇっ?」とすっとんきょうな声をあげました。ポン子が凪沙をじろじろ見ながら、まん丸の目をさらに丸くしました。


「すごい、人魚なんて、出雲のお山にもいないわ。でも、あたし昔人間の絵本で見たことあるけど、人魚って足の代わりに、魚のしっぽが生えてるんじゃなかったっけ?」


 ポン子が首をかしげます。凪沙は恥ずかしそうに笑いました。


「わたしたち人魚族は、魚のしっぽこそ生えてないんですけど、水の中ではちょっとすがたが変わるんです。わたしの目の色、何色だったか覚えてますか?」


 凪沙に聞かれて、ポン子はこっくりとうなずきました。


「うん、覚えてるよ。きれいな緑色だったよね。……あれ、でも、凪沙ちゃん……」


 みんなもぽかんとして、凪沙の目を見つめました。すんだ緑色の目だったのが、すきとおるような青い色に変わっていたのです。


「目の色が変わってる。でも、どうして?」

「目の色だけじゃないんです。ほら、これが人魚族のあかしなんですよ」


 そういって凪沙は、スイムスーツのうでの部分をまくりました。


「あっ、うろこが!」


 スイムスーツをまくったところには、きらきらとした青いうろこが見えました。凪沙ははにかむように笑って、スイムスーツを元に戻しました。


「すごい、とってもきれい……本当に人魚姫みたいでしょ」


 愛子がうっとりした顔で凪沙を見ました。凪沙はほおを赤らめ、うれしそうにお礼をいいます。


「ありがとう、愛子ちゃん。そういってもらえるとうれしいわ。……でも、うろこだらけだと人魚だってばれちゃうし、人によっては不気味だって思われることもあるから、だからスイムスーツを着てるのよ。これなら普通の人間みたいに見えるでしょ」

「そうだったんだ。でも、ちょっともったいないでしょ。だって、あんなにきれいなのに。わたしはすごく好きだなぁ」


 愛子がそっと凪沙のスイムスーツにふれました。凪沙は目を細めて、それからにこりと笑いました。


「凪沙は泳ぎも上手だからな。しかも教えるのもうまいから、クシナも凪沙と練習すると、うまく泳げるようになるんじゃないか?」


 声をかけられて、みんながうしろを振り向きました。スクール水着すがたの魅入(みいる)が、背泳ぎしながら近づいてきました。


「水に慣れたら、泳ぐこともできるだろうし、凪沙としばらく練習しなよ。なんでも慣れさ」

「魅入ちゃんは早く男の子に慣れないとね」


 花子が茶化すようにいいました。バランスを崩したのか、魅入の顔が水の中に沈んでしまいます。ぷはっと水から顔を出し、魅入は花子をじろりとにらみつけます。


「まったく、余計なお世話だっての」


 泳ぎをやめた魅入のすがたを、花子だけでなくなぜか愛子までじっと見つめています。愛子の視線に気づいた魅入は、首をかしげました。


「どうした、愛子? あたしの顔になにかついてるか?」


 魅入に聞かれて、愛子は「あっ、そうか」とひとりごとをいいました。


「どうしたんだよ。いったいなにが、『あっ、そうか』なんだ?」

「あ、ごめんね魅入ちゃん。でも、魅入ちゃんがすごいハンサムだったから、一瞬びっくりしちゃって」


 愛子にいわれて、魅入の顔が赤くなります。


「変なこというなよ。みんなまりあに影響受けたか知らないけど、だんだんおかしくなってきてるぞ」

「違うのよ、そういうわけじゃないんだけど、ほら、魅入ちゃん女の子の水着を着てるでしょ。でも、イケメンだから、ちょっと違和感があって」


 言い訳する愛子を、魅入はジト目で見つめました。


「あのなぁ……。なんどもいってるけど、あたしは一応女なんだぞ。スクール水着くらい普通に着るよ。だいたいそれをいったら、凪沙のほうが問題じゃないか」

「えっ? どうして?」


 ぽかんとしている愛子たちに、魅入はため息まじりに続けました。


「そりゃあ、凪沙はかわいらしいし、水着もスイムスーツを着てるから忘れてるかもしれないけど、凪沙は男子だぞ。さっき日美子(ひみこ)先生もいってただろ、男子と女子は別々のコースで泳ぐようにって。女子に混ざってるじゃないか」


 みんななるほどと納得したようにうなずきました。ですが、もちろん誰も凪沙を追い出そうとする人はいませんでした。


「別に凪沙ちゃんはこっちのコースでいいわ。だって心は女の子なんだもん。それに凪沙ちゃんみたいなかわいい子が、男子といっしょに泳いでたら、ヘンタイヨウにセクハラされそうだもん」


 花子がけらけらと笑いながらいいました。


「うるせぇっすよ、おれは男には興味ねぇっす」


 いつの間に現れたのでしょうか、ポン子たちのすぐそばで、太陽が口をへの字に曲げて腕を組んでいました。女の子たちがいっせいに太陽に飛びかかります。


「あんたなに当然のように女子のコースに紛れこんでんのよ!」

「さっきいったわよね、こっちに来たら沈めるって!」

「二度と悪さできないようにこらしめてやるわ!」

「ひぇぇっ、助けてくれっす!」


 太陽の悲鳴と、ごぼごぼというあぶくの音が、プールにこだまするのでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ