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七月の話 ~男の子? 女の子? 人魚の王子とハートの盗賊~ その9

「クシナちゃん、そんなプールサイドでバチャバチャしてないで、こっちきて泳ごうよ」


 ポン子がプールの中から、クシナに手招きしました。気持ちよさそうに泳ぐポン子を、クシナはムーッとふくれっつらになってにらみつけました。


「ポン子ちゃん、ひどすぎるですよぉ。クシナ、泳げないっていったはずですよぉ」

「ビート板使って浮かんでるだけでも気持ちいいよ。ねぇ、花子ちゃん」

「うん。ゆらゆら浮かんで、ゆうれいだったときのことを思い出すよ。のんびりできるし、なにより冷たくって気持ちいいよ」


 ポン子だけでなく、花子までもが手招きしたので、クシナはもうカンカンでした。手をふり上げてポン子たちに文句をいおうとしたそのとき……。


「クシナはぶっ!」


 いきなりクシナが、ばしゃんっとプールの中に落っこちてしまったのです。クシナのうしろに、いつの間にか治実(なおみ)が、クククと笑いをこらえながら立っていました。


「あぶっ、た、助けぶっ、たす、ぶはっ、助けっ、ぶふっ、ふえぇっ!」


 バシャバシャともがきながら、クシナが言葉にならない悲鳴をあげました。治実がアハハハと爆笑します。


「やっぱりお前、泳げなかったんだな。アハハハ、いい気味だな、新入りめ!」


 笑い転げる治実に、世織(せおり)があわててどなります。


「ちょっと猫田さん、なにやってるの! みんな、早くクシナさんを助けて!」


 世織の言葉に、ポン子たちも大急ぎでクシナのそばへ泳いでいきます。なんとかからだを持ち上げようとしますが、クシナがめちゃくちゃに手足をバタバタさせるので、ポン子も花子も、ビシバシたたかれまくります。


「痛い痛い、ちょっとクシナちゃん、落ち着いてよ! そんなめちゃくちゃに暴れないで、助けるに助けられないよ!」


 肩をがんがんたたかれながら、ポン子が負けじとわめきます。クシナの手をなんとか押さえて、ポン子、花子、世織の三人がかりでプールサイドに引っぱっていきます。


「あぶっ、あっぷ、うぅ、はぁはぁ、死ぬかと、死ぬかと思ったですぅ……。ネコミは、ネコミはクシナを、殺すつもりだったんですねぇ……」


 荒い呼吸をなんとか整えて、クシナが涙目で治実をにらみつけます。


「いやいや、悪い悪い。でも、気持ちよかっただろ、あんなプールサイドでバチャバチャしてるより、プールの中で泳いだほうが絶対楽しいって」

「だからって泳げない子をいきなり突き落としちゃダメよ。猫田さんったら、乱暴すぎるわ」


 世織に白い目で見られて、治実は肩をすくめました。


「へいへい、次からはしませんよ」


 そのままプールに飛び込む治実に、世織はこぶしを振り上げて怒りました。


「だから、飛びこんじゃダメって!」


 治実を追っていく世織の代わりに、ポン子と花子がクシナのそばに寄ってきます。ゲホゲホせきこむクシナの背中を、二人は優しくさすりました。


「大丈夫だった? さすがに治実ちゃんひどすぎよね」

「いきなり突き落とされたら、あたしたちでもおぼれちゃうよ。ほらほら、よしよし」


 せきこみ、泣きついてくるクシナを、ポン子がよしよしとなだめます。


「うわわぁぁん! ひどいですよぉ、もういやですぅ、クシナ、教室に帰るですよぉ。次からプールは見学するですぅ!」

「わかったから、ほら、もう泣き止みなよ。とりあえずプールサイドでゆっくりしとこう」


 ポン子がクシナの肩をぽんぽんっとたたいて、それからプールへ戻ろうとします。その手を、クシナががっしりとつかんだのです。


「へっ?」

「待ってくださいよぉ、お願いですからぁ、クシナのそばにいてくださいぃ」

「ええっ? やだよ、クシナちゃんのそばって、つまりプールサイドにいろってことでしょ。暑いし、あたしはプールに戻るわよ」


 逃げようとするポン子でしたが、クシナはがっちりつかんで逃がしません。助けを求めるように花子がいたところを見ますが、もちろん花子はすでにプールに逃げこんでいました。


「うそでしょ、花子ちゃん!」

「ポン子ちゃん、ちゃんとクシナちゃんのこと見てあげてね。わたしはポン子ちゃんたちの分まで泳いでおくから」

「なにがあたしたちの分まで泳いでおくよ! こらっ、待ちなさい!」


 花子がいるプールに戻ろうとしますが、クシナがそうさせてはくれませんでした。


「行かないでくださいよぉ、もしまたネコミに狙われたら、クシナ、おぼれ死んじゃいますよぉ!」


 ただでさえ直射日光で熱いプールサイドで、クシナにむぎゅうっとしがみつかれて、ポン子はもうたじたじでした。なんとか引きはがそうとしますが、クシナはたれ目にいっぱい涙をためこんで、ポン子をじっと見あげています。


「いやいや、治実ちゃんだってもう突き落としたりしないわよ。ここでゆっくりしとけばいいじゃんか。あたしはプールに戻りたいの!」

「うそですよぉ、あ、さてはポン子ちゃんも、ネコミとグルグルなんですねぇ?」

「はぁ?」

「ネコミとグルグルして、クシナをおぼれさせようって思ってるんですねぇ? そうはいかないですよぉ!」

「いやいや、知らないわよ、それにグルグルってなによ? もしかして、グルっていいたいわけ?」

「どっちだっていいですよぉ。だいたい、クシナは飛べるのに、どうして泳ぐ練習なんてしないといけないんですかぁ? もういやですぅ、プールなんてだいっきらいですぅ」

「もう、暑苦しいって、ちょっとだれか、助けてぇ!」


 ポン子のさけびに、すずやかなソプラノの声が答えました。


「クシナちゃん、それじゃあわたしといっしょに泳ぎましょうよ」


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