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四月の話 ~空から降ってきた天女様~ その5

 みんなぽかんとした顔で、クシナを見つめました。クシナは不思議そうに首をひねりました。


「えっ、だって、どう調査するか調査しないと、そんなのわかんないですよぉ」


 当り前のようにいうクシナに、ポン子は身を乗り出し、食ってかかりました。


「どう調査するか調査するって、どういうことよ! あんた、女神さまにいろいろ聞いてたんじゃないの?」

「そんなの知らないですよぉ! そりゃあ、聞いたかもしれないですけどぉ。クシナはさっき煙突に突っこんだときに、いろいろ忘れちゃったんですぅ」

「ええっ!」


 みんないっせいに声をあげます。てへへと笑うクシナのほっぺを、ポン子がぐにゅうっとつまみました。


「痛い痛い痛いですぅ! 暴力反対ですぅ!」

「なにが暴力反対よ、あんたそんなのんきなこといってる間に、そのヤマタノオロチが出てきちゃったらどうするのよ!」

「そんときはクシナがこのくしで、バシッと封印しちゃうですよぉ」

「いったいどうやってそのくしで封印するつもりなのよ? ていうかそのくし、いったいどんな力があるのよ」

「それは、その……た、たぶんすごい力があるんですよぅ! 女神さまがうそつくはずないですもん!」


 ポン子は疑わしげにクシナのくしを見つめました。それからぷぷぷと意地悪く笑ったのです。


「女神さまがうそつくはずない、ねぇ……。もしかしてあんた、女神さまにからかわれたんじゃないの? それか、あんたがあまりにポンコツだから、うまいこと女神さまに天界から追い出されちゃったんじゃない?」


 ポン子としては、ただのじょうだんのつもりだったのでしょう。しかし、クシナの顔から一切の表情が消え、能面のようになってしまったのを見て、ポン子はハッとしました。少しずつクシナの顔が、くしゃくしゃになっていきます。ポン子はなんとかとりつくろおうと、あわてて明るい声ではげまします。


「やーねぇ、じょうだんよ、女神さまはあんたを信頼してるから、そんな大事な使命を与えたのよ。だから元気……」


 クシナのたれ目は、すでに限界になっていました。一粒涙がこぼれると、それが合図となって一気に滝のように流れます。さっきのうそ泣きとは完全に違う、まさにそれはマジ泣きでした。


「うわぁぁぁっ! ひぐっ、うわっ、わあぁぁんっ!」

「ああ、ちょっと待って、落ち着いてよ。ごめんよ、悪かったからさ。リンコ先生たちもなんとかして……って、ちょっと!」


 リンコ先生はソフィーを抱えて脱衣所へと向かっていました。花子もふらふらそのあとを追います。


「ちょっと! 待ってよ、クシナちゃんなだめるの手伝ってくれてもいいじゃない!」

「ポン子ちゃん、ごめんね、ちょっとソフィーちゃんのぼせちゃって、花子ちゃんももうぐったりしてるし、わたしたち先に上がっておくね」


 そそくさと浴場から出ていくリンコ先生たちを、ポン子はぼうぜんとしたまま見送りました。


「もう……どうするのよ、この子……」




 ようやくクシナをなだめたころには、すでにポン子も半分のぼせあがっていました。もちろんクシナものぼせてへろへろになっていましたが、ポン子がなんとか支えて脱衣所へ連れていきました。ぐったり倒れこむ二人を、ソフィーと花子があわてて介抱します。


「ひどいよ、みんな……」


 うらみ節をいうポン子を、リンコ先生がアハハと笑って見おろしました。


「ごめんね、でもこっちも大変だったんだよ。ソフィーちゃんも花子ちゃんも完全にのぼせちゃってさ。でもほら、コーヒー牛乳冷えてるから、これ飲んでほてりを冷ましなさい」


 リンコ先生にコーヒー牛乳を渡されたので、ポン子はありがたそうにそれをほおに当てました。その様子を、クシナはぼーっと見ています。


「クシナちゃんも、飲んでごらん。のぼせてるからだにちょうどいいわよ」


 リンコ先生が、クシナのほっぺにコーヒー牛乳を押しつけました。クシナがヒャッと声をあげます。


「冷たいですぅ! びっくりしたぁ、でも、おいしそうなにおいですねぇ……」


 クシナはコーヒー牛乳を、穴が開くほどに見つめています。しかし、ポン子が「あぁーっ!」と、おじさんのようなうなり声を出してコーヒー牛乳を飲み干すのを見て、おそるおそる口をつけました。


「わっ、おいしいですぅ!」


 クシナもポン子をまねして、グイグイグイッと一気にコーヒー牛乳を飲み干しました。ぷはっと息をはくと、クシナはリンコ先生にぺこりとおじぎしました。


「ありがとうですぅ、こんなにおいしい飲み物、クシナ、飲んだことないですよぉ。もう一杯欲しいですぅ」


 たれ目をうるうるさせて、クシナが上目づかいにリンコ先生を見ます。リンコ先生はにやりと笑いました。


「いいけど、その前にお願いがあるのよ」

「お願い……ですかぁ?」


 クシナが小首をかしげました。リンコ先生は、目をぱちくりさせるクシナだけでなく、ポン子の顔も見たのです。


「えっ、もしかしてあたしも?」

「そうよ。ほら、さっきいいかけてたでしょ。その話をしようと思ってね。それにこれは、クシナちゃんの『調査』にも役に立つと思うわ」

「クシナにもぉ……? えっ、なんですかぁ?」


 クシナがたずねますが、リンコ先生は逆にクシナに問いかけました。


「その前に、確認なんだけど。クシナちゃんは本当に調査方法を忘れちゃったのね。ヤマタノオロチが目覚めているかどうか、それに、どこにいるかを調べるのも」

「そうですぅ。でも、悪いのはあの煙突なんですよぉ! クシナはちゃんとピタッとカレイに着地するつもりだったんですぅ。それなのに、あの煙突が邪魔をしたんですよぉ!」

「別にそれはいいわよ。わたしが確認したかったのは、クシナちゃんはどこにヤマタノオロチが眠っているのか、わかんないってとこだけよ」


 きょとんとしているクシナに、リンコ先生は続けてお願いしたのです。


「そこでなんだけどね、クシナちゃんには、この出雲町をいろいろめぐって、ヤマタノオロチによる異変が起こっていないか調べてほしいんだよ」

「ええっ、でも、この子にホント務まるの、そんなこと? それに出雲町って、結構広いけど、大丈夫?」


 これにはクシナではなくポン子が目を丸くしました。リンコ先生に立て続けに聞きますが、リンコ先生はふふっと含み笑いして続けました。


「もちろん、クシナちゃんだけじゃ大変でしょ。それに、出雲町を調べるのに、こんなつばさを持った女の子が歩き回っちゃ、完全に天女だってばれちゃうわ。そこでポン子ちゃんの出番なの」

「……まさか」


 ポン子の顔からサーッと血の気が引きました。リンコ先生はこくりとうなずいて続けました。


「そう、ポン子ちゃんのくるりん葉で、クシナちゃんを変化させてほしいのよ。でも、クシナちゃん一人が歩き回るのは心配だし、人間たちは小さい子が昼間っから歩き回るのを見ると、学校も行っていないでおかしいなって思うのよ」


 それはポン子も知っていました。だから町へ行く日は、いつも人間の世界で『日曜日』とか、『祝日』などの、お休みの日に限っていたのです。人間の町に遊びに行きはじめたとき、おまわりさんに話しかけられてすごく困った経験があったのです。


「じゃあ、くるりん葉でクシナちゃんを大人に変化させるとか? それでもいいけど、うまくいくかなぁ。クシナちゃん危なっかしいし、ぼろが出そうだけど」

「ああ、それもいいかもしれないわね」


 リンコ先生の言葉に、ポン子はぽかんとして首をかしげました。


「それも、って、リンコ先生はどうするつもりだったの?」

「簡単よ。クシナちゃんには学校に通ってもらって、帰る途中に町を調べてもらうのよ」


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