七月の話 ~男の子? 女の子? 人魚の王子とハートの盗賊~ その6
「ほら、それじゃあ男子は前のほうに行って、黒板のほうを見て着替えるのよ。こっち見たら承知しないからね!」
教室に世織のどなり声がひびきました。次の時間は水泳です。四年生はまだ更衣室を使えないので、教室でみんな一緒に着替えないといけないのです。もちろん女子たちは、着替えをのぞかれないように万全を期しているのですが……。
「ヘンタイヨウ、あんたなに鏡なんか用意してんのよ! たたき割るわよ!」
世織にどなられて、太陽はちぇっと舌打ちしてから鏡をしまいました。世織はじろじろと、男子たちを監視するようににらみつけていきます。
「ちょっとちょっと、世織だっておれたちの着替え見てるっすよ! 女子はおれたちの着替え見れるのに、男子は見れないなんて不公平っす」
「こら、こっち見るんじゃないわよ! わたしだって好きであんたたちの着替え見てるわけじゃないわよ。こうやって監視してないと、あんたや吉見君がのぞこうとするからじゃないの」
「世織ちゃん、ぼくはのぞこうとなんてしてないよ」
吉見といわれた男の子、愛瑠の兄の吉見透が、振り向いて抗議します。そのとたん、女子たちがハチの巣をつついたように、いっせいに騒ぎ立てたのです。
「キャーッ! スケベめがねがこっち見たワ! こっち見るんじゃないヨ!」
「お兄ちゃん、あっち向いてよ! エッチ!」
チェルシーと愛瑠にどなられて、透はあわてて黒板のほうに回れ右しました。その背中に、女子たちの罵声がどんどん投げつけられます。
「まったくもう、男子ってどうしてあんなにエッチなのかしら。ソフィーちゃんも気をつけてね。わたしのかわいいソフィーちゃんに、変な虫でもついたら困るもの」
「有栖川さん、あなたは窓際に行ってこっちを見ないように着替えなさい」
世織にいわれて、まりあは口をムーッととがらせました。
「なんでよ、なんでわたしまでのけ者にされないといけないのよ! わたしは男子じゃないのよ」
「のけ者にされる理由は、自分の胸に手を当てて聞いてみなさい」
世織ににべもなくいわれて、まりあはますますふくれっつらになります。ポン子がソフィーを隠すように立ちはだかりました。
「世織ちゃんのいうとおりよ、あんたさっきまで、ソフィーちゃんの着替えをよだれたらして見てたじゃないの! どう見ても変態の顔だったわよ」
「まりあさん、そんな目でわたしのことを見てたんですか?」
ソフィーがまりあに、冷ややかな視線を送ります。まりあは首がもげそうなくらいに、ブンブンブンッと横にふりました。
「誤解よ、ソフィーちゃん。そこのバカだぬきがわたしたちの仲を裂こうとして、でたらめをいってるだけなのよ」
「だれがバカだぬきよ、あたしは化けだぬきよ! 間違えないでほしいわ」
「同じようなものじゃないの。あ、それともお菓子ドロボウの、ドロボウたぬきっていったほうがよかったかしら?」
「なんですって!」
「ちょっと二人とも、ケンカするひまがあったらさっさと着替えなさい。授業始まってしまうわよ」
世織に注意されたので、二人はふんっとそっぽを向いて、それから着替えを再開しました。
「まったくもう、早く更衣室が使えるようになってほしいわ。どうして五年生からじゃないと使えないのかしら」
文句をいう世織を花子がなだめます。
「まぁまぁ、来年からは使えるんだから、それまでの辛抱だよ。でも、更衣室が使えるようになっても、まりあちゃんをどうするかは考えないといけないわよね」
「いっそのこと男子更衣室に放り入れましょうよ」
愛瑠が鼻息荒くいいました。花子が目を丸くします。
「びっくりした、愛瑠ちゃん、なんだかいつになく過激じゃんか。」
「過激にもなるわよ。まりあちゃんからはひどいことしかされてないもん。いっしょの更衣室でなんて着替えたくないわ」
「そんなこといわないでよ、愛瑠ちゃん。もちろん一番はソフィーちゃんだけど、わたし、愛瑠ちゃんのことクラスで二番目に好きなんだから。だからいい加減機嫌直してちょうだい」
「こっち向くんじゃないわよ!」
みんなにツッコまれて、まりあはかなりご立腹です。ほっぺをフグのようにふくらませて、うらめしそうに世織を見ます。
「いいじゃないの、女の子同士なのに」
「女の子同士だったら、そんな鼻の下伸ばしたいやらしい顔にならないでしょ!」
愛子が追い打ちをかけるようにツッコみます。さすがにかわいそうに思ったのか、ソフィーがまりあに優しく声をかけます。
「みなさんのこと、エッチな目で見ないって約束してくれるなら、こっちに来てもいいですよ。みなさんもそれでいいですか?」
「まぁ、ソフィーさんがいうなら、わたしたちはいいけれど、本当に有栖川さんは約束守るかしら?」
疑わしそうな目で見る世織に、ソフィーはうなずきました。
「まりあさんはちゃんと約束守ってくれますよ。今朝ももう変なことはしないって約束してくださったし。そうですよね、まりあさん?」
にっこりするソフィーでしたが、その目は笑っていませんでした。まりあはうっと言葉につまってしまいましたが、やがてちぇーっとふくれてうなずきました。
「……なんだかソフィーちゃん、だんだんとまりあちゃんをうまく手なずけていってる気がするんだけど……」
ぼそりとつぶやくポン子に、ソフィーがほほえみをうかべたままふりかえりました。
「ポン子さん、なにかいいました?」
「いや、なにもいってないわよ、本当よ」
びくっと顔を引きつらせて、ポン子が何度もうなずきました。花子がその様子をにやにやしながら見ています。と、そばで着替えていた魅入が視界に入り、花子はあっと声をあげました。
「そうだ、ねぇ、魅入ちゃん。水泳の授業だったら、うまくハートを盗む修行ができるんじゃないかしら?」
いつもお読みくださいましてありがとうございます。
本日は夜のいつもの時間あたりに、あと1話投稿する予定です。
お楽しみいただけると幸いです。




