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七月の話 ~男の子? 女の子? 人魚の王子とハートの盗賊~ その5

「まぁ、普通はそう考えるよな。ハートを盗む、つまりはチャームをかけるのは、そりゃあ異性のほうがかかりやすいだろう。っていうか、本来は異性に対してやるもんだからな」


 肩をあげる魅入(みいる)に、愛子はさらに問いかけます。


「それなのにどうして魅入ちゃんは、同性に、女の子にチャームをかけることができるの? それってなんだか不思議だわ」

「それはあたしたち一族のしきたりに関係しているんだよ。石川一族も、もともと異性に対してだけハートを盗む一族だった。だが、それじゃバランスが悪かったんだ。あたしたちは盗賊の一族だったから、昔は敵の城とかに侵入して、情報とかを盗む、スパイのようなこともしていたんだ」

「あ、そうか。スパイとして侵入しても、異性にしかチャームが効かないんだったら」


 愛子の言葉に、魅入は静かにうなずきました。


「そうだ。極論城の中の半分の人間にしか、チャームが通用しないってことになってしまう。だからあたしの祖先たちは考えた。異性のハートを盗むのは石川一族の力を引き継いでいれば誰でもできる。なら同性のハートも盗めるように、本来の性別とは反対の性別として育てればいいんじゃないかってね」

「じゃあ、もしかして魅入ちゃんは」

「そうさ、あたしは男として育てられたんだ。かっこうも男の子が着るような服ばかり着せられたし、しゃべりかたも男言葉を使うように教えられた。学校の中だと『あたし』っていってるけど、家じゃ『おれ』っていわなきゃどやされるからな。とにかくそうやってあたしは男として育てられたんだ」

「なるほど、だから男の子にチャームをかけるのに抵抗を感じるんでしょ?」

「まあね。愛子のいう通り、あたしはずっと男として育てられたから、女の子のハートを盗むのは簡単だけど、男のハートを盗もうとするのにどうしても抵抗を感じてしまうようになってしまったのさ。今まではうまくごまかしてたんだけどね」


 最後は自分自身を笑うような、さびしい口調でした。真夏のカラッとした天気のはずなのに、なんだか空気が重苦しく感じます。そんな空気を変えようとしたのか、それともただ単に空気が読めなかったのか、まりあが茶化すように笑いました。


「なんだ、いろいろいってたけど、要するにあんたもレズってことじゃないの。さんざんわたしをバカにしてたくせに。でもいいわ。同じレズ仲間ができたんだし。でも、ソフィーちゃんはゆずらないわよ」

「ゆずるもなにも、ソフィーちゃんはあんたのものじゃないからね。あんたことあるごとにソフィーちゃんを自分のもののようにいってるけど、そんなのあたしが許さないわよ」


 ポン子にツッコまれて、まりあはキーッと反論しました。


「なによあんた、まるでソフィーちゃんの保護者みたいな口のききかたして。お菓子ドロボウの秘密とソフィーちゃんを天秤にかけた人に、そんなこという資格ないわ」

「変態にはいわれたくないわよ!」


 いがみ合う二人を無視して、花子がちょっぴりうれしそうな顔で魅入にたずねました。


「でも、まりあちゃんがいったとおり、魅入ちゃんは女の子が好きなんでしょ?」

「いや、それも違うよ。あたしは女の子のハートを盗むことはできるけど、別に女の子が好きってわけじゃない。っていうか、好きとかそういうのが、よくわかんないんだよ。……ま、そういうわけだから、本当はまりあが少しだけうらやましいんだよな」

「うらやましい? あんな変態が?」


 驚く花子を、まりあがじろりとにらみつけました。まりあの視線にはかまわずに、花子がさらにたずねます。


「いったいどこがうらやましいの?」

「まりあは誰だって好きになれるだろ。まぁ、節操がないっていえばそれまでだけど、あたしにとってはうらやましいのさ。ハートを盗むことはできても、別に相手が好きとかそういうわけじゃないんだから。そういう意味ではまりあがいったようにあたしは、他人の心をもてあそんでいるだけなのかもしれないね」

「そんなことないと思うわ。少なくとももてあそんだ上でいたずらしようとする、まりあちゃんとは全然違うよ」

「なんですって!」


 花子にまりあが文句をいいます。ムーッとふくれっつらになる二人を見て、愛子があわてて口をはさみました。


「ともかく魅入ちゃんは、好きって感覚がわかんないってことでしょ。でもそれって、男の子に抵抗があるからでしょ。なら、まずは男の子に慣れるのが一番大事だと思うわ。ハートを盗む修行としては、それが一番堅実でしょ」

「男子に慣れるって、いったいどうやって? まさか、男子とデートしろとかいうんじゃないよな?」


 みがまえる魅入に、愛子は首をふりました。


「いきなりそんなことしたら、逆効果でしょ。こういうのは少しずつ慣れていかないと」

「じゃあどうすればいいんだ?」

「うーん、まだどうすればいいか、考えついてないけど、とにかく慣れるように修行しましょ」


 愛子にうながされますが、魅入はなんだか乗り気ではないようです。腕を組んで考えこんでいます。


「でも、やっぱり男子のハートを盗むのは抵抗があるな」

「そりゃあ、最初はそうでしょ。でも、がんばらないと夏休みが修行でつぶされちゃうでしょ。せっかく夏休みなのに、そんなのかわいそうだもん」

「そうだよ。わたしたちもなにか修行のアイディア考えるからさ、魅入ちゃんもがんばってみよう」


 花子もはげますように魅入にいいました。気づけば他のみんなも、魅入を心配そうに見つめていました。魅入はまだちょっぴりいやそうでしたが、しぶしぶうなずきました。


「わかったよ。せっかくみんなが考えてくれるんなら、あたしも努力する。でも、いきなりハードなのはやめてくれよ。太陽とデートしろとかいわれたら、あたし不登校になるからな」


 魅入の言葉に、みんな自分と太陽がデートするところを想像したのでしょう。あちこちでおえーっとうめくような声が上がるのでした。


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

明日は2話投稿する予定です。

お昼ごろに1話、だいたいいつもの時間あたりに1話投稿する予定です。

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