七月の話 ~男の子? 女の子? 人魚の王子とハートの盗賊~ その2
「なんだなんだ、朝っぱらからずいぶんと仲がいいんだな、お前たちは」
声をかけてきたのは、すらっとした体型に、ちょっぴりきつい目をした男の子……ではなく、女の子の石川魅入でした。短くカットされたさらさらの髪に、さわやかな笑顔は、男の子以上にイケメンに見えます。思わずポン子と花子が、うっとりとため息をもらしました。
「なによポン子ちゃんも花子ちゃんも、わたしのことさんざんレズだとか変態だとかバカにしておいて、魅入にはデレデレしちゃってるじゃないの。いっとくけど、魅入は女の子だからね、だまされちゃダメよ」
まりあがムーッと口をとがらせます。ポン子が言い訳がましく首をふりました。
「だって、しかたないじゃんか。まりあちゃんはかわいい女の子が好きなんでしょ? 魅入君……じゃなかった、魅入ちゃんは、あれだけかっこいいんだから、女の子でも気になるのは当たり前じゃん」
「そうだよそうだよ、イケメン無罪って言葉もあるくらいだし、しかたないわよ」
「花子ちゃん、それはちょっと違うでしょ。っていうより、どこでそんな言葉覚えたのよ」
愛子の冷静なツッコみに、花子がへへっと笑いました。
「でもでも、確かにミールはかっこいいですねぇ。クシナともお友達になってほしいですよぉ」
「ちょっとあんた、なにぬけがけしようとしてんのよ! 魅入ちゃんはあたしとお友達になるんだから!」
「お菓子ドロボウは引っこんでてよ! だいたいポン子ちゃん、こないだわたしにイケメンに弱いとかなんとかいってたけど、自分だってそうじゃんか」
「ちょっとちょっと、三人とも落ち着いてよ。だめでしょ、こんなとこでケンカしたら」
愛子になだめられる三人でしたが、みんなウーッといがみあうようににらみあっています。魅入はそんな三人を見ながら面白そうに笑っていましたが、ふと真顔になって、それからなにを思ったのか、三人に向かってパチッとウインクしたのです。
「わっ、なに、今の?」
愛子が驚いたようにクシナを、そして魅入を見ました。クシナのくしが、一瞬目がくらむほどの光を放ったのです。どうやら自分では気づいていない様子で、クシナは目をぱちぱちさせています。花子もぽかんとしていましたが、ポン子だけは違いました。
「……ミー様……」
目がとろんっとなって、口もだらしなく開いています。えへへと変な笑い声をあげて、ポン子はふらふらと魅入のほうへ近づいていきます。
「ポン子ちゃん、どうしたの?」
花子が不審そうにたずねましたが、ポン子は全く気がついていません。
「ちょっとちょっと、どうしたのよ、って、ポン子ちゃん、目が!」
花子の声に、愛子たちもかけよってきます。ポン子の目を見て、あっと声をあげました。
「なにこれ、ハート形になってる!」
ポン子の目は、まさにマンガのように、ハートの形に変わっていたのです。愛瑠とまりあが、気の毒そうな目をポン子に向けています。
「まさかこれって、魅入ちゃんの力なんじゃ」
花子に聞かれて、魅入はすまなそうにうなずきました。
「そうさ、あたしの力だよ。大丈夫、すぐに元に戻すから」
もう一度魅入がウインクすると、ポン子のハートの目が、元のまん丸い目に戻りました。
「あれ、あたし、いったいなにしてたのかしら?」
「ポン子ちゃん大丈夫?」
花子がポン子の目の前で、ひょいひょいと手をふりました。
「なにすんのよ、あんた、あたしをバカにしてない?」
「そんなこと思ってないよ、ちゃんと心配してるじゃんか」
心外そうにいう花子を、ポン子はじろりと見つめました。そんなポン子たちは無視して、まりあが魅入に口をとがらせて抗議します。
「ちょっと魅入、あんたなに考えてるのよ、クラスメイトに力を使うなんて! ポン子ちゃんたちは別にいいけど、わたしのかわいいソフィーちゃんまで魅了されたら、たまったもんじゃないわよ」
「いや、魅入ちゃんもきっと、まりあちゃんにだけはいわれたくないと思うけど」
花子がジト目でまりあを見ます。しかしまりあはどこ吹く風です。
「わたしの力は心までは支配できないから、別にいいのよ。でも魅入の力は別だわ。魅入はハートの盗賊だから、心を盗んじゃうんだもん。そんな力は絶対許しちゃいけないわよ」
「まりあちゃんこそ絶対許されない力じゃないの。しかも悪用してたし。わたしまだスカートめくられたの許してないんだからね!」
愛瑠がカンカンになってまりあに文句をいいました。まりあはうっと言葉につまりました。
「それは……そうだけど、でも、魅入だっていきなり力を使ってきたじゃない! とにかくソフィーちゃんは、魅入に心を許しちゃダメよ」
「いやいや、いっとくけどあたしたち、あんたにも心は許してないからね。いつの間にかあたしたちの仲間になったみたいな顔してるけど、あんたがソフィーちゃんにしたこと、みんな許してないんだからね!」
ポン子もカンカンです。手をふりあげてまりあを責めます。しかしまりあも負けていません。
「別にわたし、ポン子ちゃんにはいってないわよ。わたしのかわいいソフィーちゃんにいったんだもん。だいたいポン子ちゃんだって、お菓子ドロボウしてたなんてくだらない秘密を守ろうとして、ソフィーちゃんをわたしにささげたんでしょ。わたしのこといえないと思うけど」
「ささげようなんてしてなかったじゃんか!」
「あら、同じことじゃない。だって『秘密なんてどうでもいいからソフィーちゃんにキスしないで』とか、そんなかっこいいセリフ一ついえずに、ぶるぶるふるえてたじゃないの。それなのにソフィーちゃんのお姉さんみたいな顔しちゃって」
「あんたみたいな変態にいわれたくないわよ!」
「なによ、お菓子ドロボウのくせに!」
「ちょっとちょっと、だからケンカしちゃダメでしょ!」
またもや愛子が二人をなだめます。二人はふんっとそっぽを向きました。
「なんかどっちもどっちって感じね。ソフィーちゃんも大変だわ」
苦笑しながら肩をすくめる花子でしたが、ふと、魅入が不思議そうに首をかしげているのに目が行きました。
「魅入ちゃん、どうしたの?」




