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七月の話 ~男の子? 女の子? 人魚の王子とハートの盗賊~ その1

 ようやく梅雨が明け、夏らしいさわやかな天候が続くようになりました。まぶしい日差しに、セミたちのうるさいほどの鳴き声、それにもくもくとした入道雲……。去年までは出雲のお山の巣穴で、ぐったりしていたポン子ですが、今年は違います。夏の学校には、最高の楽しみが待っているのです。それは――


「あー、暑いよぉ、こう暑いのに、宿題はいっこうに減らないし、いっそのこと授業は水泳だけにしてほしいわ」


 手をうちわのようにぱたぱたしながら、ポン子がぐったりした様子でいいました。


「ホントホント、こう暑いと宿題も全然はかどらないよね。なんだかだんだん量が多くなってる気がするし。それに学校まで遠いから、もうすでに汗だくだよ」


 学校までけっこうな距離を歩くので、教室についたころには、ポン子たちはみんな汗だくになってしまうのです。ですが、ソフィーだけはすずしげでした。


「ほら、文句いわずにがんばりましょう。宿題だって、最近みなさんちゃんとやるようになってきたじゃないですか」

「そりゃあね、ソフィーちゃんがとなりでずーっと監視してるんだもん。サボれないじゃんか」


 ポン子がうらめしげにいいます。花子が面白そうに笑いました。


「だってポン子ちゃんが一番サボってるんだもん。ソフィーちゃんにマークされるのもしかたないよ」

「あんたそんなこといって、この間もまた愛子ちゃんの宿題写してたじゃない! 愛子ちゃんが気づかないのをいいことに計算ドリルを抜き取って、全部丸写ししてたでしょう。宿題ドロボウじゃないの」

「お菓子ドロボウのポン子ちゃんにはいわれたくないわ! わたしがお小遣いで買ってきたお菓子、夜中にこっそり食べてたくせに。しかもこの間は、新商品の『とろけるキャラメル・至高のプリン味』まで食べてたじゃんか。あれ高かったんだよ、楽しみにしてたのに!」


 ポン子がうぐっと口をつぐみます。先月太陽が読み取った、ポン子の秘密というのがこれだったのです。花子が買ってきていたお菓子を、こっそりつまみ食いしていたのでした。もちろんそれがばれたポン子は、花子にこちょこちょ一時間コースという地獄を味わわされていたのですが……。


「あれはもう謝ったじゃんか。それに罰も受けたでしょ。いいかげん許してよ」

「いやよ、食べ物のうらみは恐ろしいんだからね! ……もう、怒ったらよけい暑くなっちゃったじゃないの。早くプールですかっとしたいわ。……あれ、クシナちゃんどうしたの、そんな青ざめて」


 いつもは暑い暑いと文句たらたらなクシナが、今日はずいぶんとおとなしいのです。花子だけでなく、ポン子とソフィーも心配そうにクシナの背中をさすりました。


「大丈夫? もしかして気分悪いの?」

「今日は暑いですし、熱中症になってたりしませんか?」


 二人に聞かれて、クシナはおびえたように顔をあげました。たれ目にいっぱい涙をためて、二人を上目づかいに見ています。


「まあでも、これだけ暑いとからだもきつくなるよ。早くプールに入って」

「プールの話はやめてほしいですぅ!」


 花子の言葉をさえぎるように、クシナがどなりました。


「ええ? なんでよ、暑いからプール入りたいのは当然じゃないの」


 ポン子と花子が、不思議そうにクシナを見ます。クシナは涙目のまま、ふるふると首をふりました。


「クシナはぁ、クシナはぁ、泳げないんですよぉ! 水の中なんて大っきらいですぅ。出雲の湯で十分じゃないですかぁ」

「出雲の湯はお湯で、プールは水だから全然違うよ。それに泳げないならなおさら練習しなくちゃいけないじゃんか」


 あきれたようにポン子がいいました。クシナはムーッとほおをふくらませて、ポン子をにらみつけます。


「ひどいですぅ、ひとごとみたいにいって、全然クシナのこと心配してくれないんですからぁ。プールなんて水が全部抜けちゃえばいいんですよぉ」

「ちょっと、なんてこというのよ! この暑いのにプールが中止になったりしたら、あたしたちいったいなにを楽しみに学校に行けばいいのよ! 残るのは大量の宿題だけじゃない!」


 ワーワーともみあいになる二人を、ソフィーがほほえましく見ています。すると、そんなソフィーをうしろから誰かがぎゅうっと抱きしめてきました。


「ソフィーちゃん、おーはよ!」

「ひゃあっ、まりあさん!」


 驚くソフィーの声を聞いて、ポン子たちが臨戦態勢に入ります。


「あんた、しょうこりもなくソフィーちゃんのことをねらってるのね! さっさと離れなさいよ!」


 まりあをがしっとつかんで、みんなでソフィーから引きはがそうとします。まりあはソフィーにしがみついたまま、あわてて首をふりました。


「違うわよ、別にわたしはソフィーちゃんをお人形さんにしようって思ってるわけじゃないわよ」

「うそつきなさいよ! 先月はあれだけソフィーちゃんのことをねらってたくせに、今さら改心しましたなんてうそに、あたしたちがだまされるはずないでしょ!」

「本当よ、信じてちょうだい! わたしはただ、ソフィーちゃんとお友達になりたいって思ってるだけなのよ」

「絶対怪しいわよ、そんなこといって油断させて、ソフィーちゃんに変なことしようって思ってるだけでしょ!」


 ポン子がフーッと鼻息荒くいかくします。


「あ、ポン子ちゃん、みんな、おはよう! どうしたの、って、まりあちゃん!」


 愛子と愛瑠(あいる)が、すぐにソフィーの前にたちはだかりました。みんなしてまりあを警戒するようににらみつけます。


「この変態、またソフィーちゃんに手を出そうとしてたんでしょ! そうはさせないわよ」

「ソフィーちゃん、油断したらダメよ、まりあちゃんって、狙った女の子は絶対逃がさない変態だから」

「待ってください、みなさん、守ってくださるのはすごいうれしいですけど、まりあさんの言葉も信じてあげましょうよ。まりあさんは、本当にわたしとお友達になりたいって思ってるんですか?」


 愛子たちはぽかんとした顔で、ソフィーをふりかえりました。まりあはぶんぶんっと、すごい勢いで首をたてにふりました。


「本当よ、誓って本当よ! ソフィーちゃんみたいなおにんぎょ……かわいい女の子と、ぜひ友達になりたいのよ、本当よ」

「すっごく怪しいんだけど……」


 ジト目で見るポン子たちは無視して、まりあはソフィーにせまりました。


「なんなら約束してもいいわ。もう絶対に変なことはしないって。だから、お願い……」


 まさにぶりっ子のように、うるうるした藍色の目で、まりあはソフィーを上目づかいに見つめました。ソフィーはにこりと笑ってうなずきました。


「それならいいですよ。わたしのほうこそお友達になってくださって、うれしいです。まりあさん、よろしくお願いしますね」


 お日様のような笑顔に、まりあは感極まったのか、ポン子たちの制止を振り切りソフィーにまたもや抱きついたのです。さすがにキスまではしませんでしたが、まるで恋人のようなハグに、ポン子たちは困り顔で顔を見合わせました。と、そこにすらっと背の高い男の子が、「よぉ」と声をかけてきたのです。


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