六月の話 ~ヘンタイヨウとレズまりあ、狙われたソフィー~ その18
「ううーん……。ふわぁ、よく寝たっすね。もう朝っすか。とりあえず、カーテン開けなきゃいけないっすね」
まりあのことを心配するソフィーの足元で、太陽がうめきながら起きあがりました。
「さぁ、カーテンをめくって、きれいな朝日を拝むっす。あぁ、真っ白できれいな朝日っすねぇ」
「……え? きゃあぁぁっ!」
ソフィーが絹を裂くような悲鳴をあげました。太陽が寝ぼけてめくったのは、ソフィーのスカートだったのです。なので、真っ白な朝日と呼んだものの正体も……。
「このヘンタイヨウ! なにやってんのよ、ソフィーちゃんのスカートを! よくも、よくも、よくもよくも!」
寝そべっている太陽を、ポン子がげしげし踏みつけまくりました。さすがの太陽もひぃひぃ悲鳴をあげまくります。
「うぎゃ、うげっ、や、やめるっす! 暴力反対っすよ!」
踏まれながらも、太陽の目はポン子の太ももにくぎづけです。それに気づいたポン子は、あわててスカートを押さえつけました。
「このっ、ヘンタイヨウ、あんたあたしのパンツまで! なにしてくれてんのよ! もう許さないわ、ここで息の根を止めてやるんだから!」
「ちょっと、綿貫さん、さすがに教室で死人を出しちゃダメよ! 気持ちはわかるけど、落ち着いて!」
世織にはがいじめにされて、ポン子が太陽から引きはがされます。
「世織ちゃん、離して! あの変態、絶対許さないんだから!」
ポン子は足をじたばたさせて、なんとか太陽を蹴っ飛ばそうとがんばります。ですが世織だけでなく、愛子と花子も加勢したので、もはやどうにもなりませんでした。
「もうっ、どうして邪魔するのよ! それに愛子ちゃん、忘れたかもしれないけど、あいつあたしたちの秘密をにぎってるのよ。生かしちゃおけないわ!」
「全く、どこの悪代官よ……。大丈夫よ、江口君はあなたたちの秘密を忘れているわ」
世織の言葉に、ポン子たちは目を丸くしました。
「えっ、でも、あたしたちの秘密を……」
みんなの視線が、一気に太陽にそそがれます。それを知ってか知らずか、太陽はうめきながら起きあがり、からだをほぐすように伸びをしました。
「うぅ、まったくめちゃくちゃっすねぇ。ポン子のやつ、あんなげしげし踏まなくってもいいじゃないっすか。もちろん踏まれるのは好きっすけど、さすがに限度ってものがあるっすよ」
「ひぃぃ、やっぱりあいつ、変態だよ!」
花子が愛子にしがみつきます。みんなも恐怖と軽べつの入りまじった視線で太陽を見つめます。
「しかし、なんだか頭がボーッとするっすねぇ。なんかいろいろ秘密をにぎった気がするんすけど、どうしてか思い出せないんすよね。ま、いいっすよ。忘れちまったんなら、また秘密を読み取ればいいんすから」
にたぁっと笑い顔になって、太陽がポン子の机に向かおうとします。その前にポン子が立ちふさがりました。
「あんた、どこに行く気よ? それに、なにをしようってんのよ!」
「別になにも企んでないっすよ。ただ、ちょっとポン子の持ち物にさわらせてもらおうと思ってるだけっすよ」
「それ、どう考えても力を使おうって思ってんじゃないの!」
教室中の女子たちからツッコみを受け、太陽はへらへら笑ってうなずきました。
「なんだ、ばれてるんならしかたないっすね。まぁ、ばれてたってどうってことないっすけど。おれの力はものにふれればすぐに発動するっすから、防ぎようがないっすよ」
「……へぇ、そうですか……」
教室の空気が、一気に冷えこみ、まるで雪山に迷いこんだような感覚におそわれました。みんながいっせいにふりむくと、そこにはソフィーが、いつものお人形さんのようなかわいらしい顔ではなく、完全に表情を失った、氷の女王のような顔で太陽を見おろしていたのです。さすがの太陽からも、へらへら笑いがはぎとられ、顔が引きつります。
「また力を使って、ポン子さんたちの秘密を握るつもりですか……?」
「そ、そりゃあそうっす。おれは変態っすからね、かわいい女の子の秘密が目の前にあるってのに、それをにぎらないはずないっすよ」
「そうですか……」
ソフィーがゆらりとからだをゆらして、じりじりと太陽に近づいてきます。思わずあとずさりする太陽に、ソフィーは静かにお願いしました。
「ポン子さんたちの秘密を、にぎらないって、約束してもらえます? 誰にも話しちゃダメだし、持ち物にも極力さわらない。それを約束してもらえますか?」
太陽は目をぱちくりさせてから、すぐにどなり声をあげました。
「なにいってんすか! おれがそんな約束をするはずが」
「してくれますよね?」
ソフィーがずいっと太陽の前に立ちはだかりました。
「な、なんっすか? お前なんて、なんの力もないのに、おれが怖いなんて思うはずが」
「約束……してくれますよね?」
かすかにほほえみをうかべて、ソフィーが顔を近づけてきます。かわいらしい女の子が自分に近づいてきているというのに、変態の太陽はなにもできずに固まっています。口をあんぐり開けて、ただただソフィーを見あげるだけです。
「約束して……くれないんですか?」
「ひ……ひぃっ! わ、わかったっす、約束するっす、約束するっすから!」
すさまじいほどの無言の圧力に、ついに太陽は屈しました。ぶんぶんっと首をたてにふって、ソフィーに許しをこいます。
「よかったです。太陽君、ありがとうございます。ポン子さんたちも安心してください。もう記憶を読み取らないって約束してくださいましたから」
いつものやわらかくてかわいらしい笑顔を浮かべて、ソフィーがいいました。ですが、みんな先ほどのソフィーを見ているので、太陽と同じように、引きつった顔をしています。
「……ソフィーちゃんだけは、怒らせたらいけないわね」
ぼそりとつぶやくポン子に、花子がとびっきりの笑顔でせまってきました。
「ポン子ちゃん、なんかこれで終わりみたいな感じになってるけど、まだ謎が一つ残ってるわよ。最近、夜に、いったいなにをしているのかな?」
「……へっ?」
あぶら汗をだらだら流しながら、ポン子が花子をふりかえりました。花子がうふふふと笑いながら近づいてきます。ポン子の悲鳴が、教室中にひびきわたりました。
教室を飛び出したまりあは、ぼーっとしながらろうかをとぼとぼと歩いていました。涙をぽろぽろ流す、ソフィーの青い目が、脳裏に焼きついて離れませんでした。
――あんなにわたしのこと心配してくれて、それに、わかってくれた人、初めてだわ。みんなわたしのこと、変な子だって、おかしな子だって、それしかいわなかった。パパもママも……。でも、ソフィーちゃんはわたしのこと、真正面から抱きしめてくれた。わかろうとしてくれた。あんなことされちゃうと――
「ソフィーちゃんのバカ。本気で好きになっちゃうじゃないの」
いつもお読みくださいましてありがとうございます。
このあとおまけの話も投稿しますので、よろしければそちらもどうぞ♪




