四月の話 ~空から降ってきた天女様~ その4
「そもそもの始まりは、この地下の妖気が減ってきたことに関係があるんですぅ」
「地下の妖気が減った?」
ぽかんとしているみんなに、クシナは得意そうにうなずきました。
「そうですぅ、地下の妖気が減ってきてるんですぅ。先月あたりに、一気に妖気が使われてしまって、それで地下に眠っていたヤマタノオロチが目覚めそうになったって、女神さまからいわれたですぅ」
「一気に妖気が使われた? それに先月って……まさか」
リンコ先生が顔をしかめました。ポン子が目をぱちぱちさせてたずねます。
「なにかわかったんですか?」
「ポン子ちゃん、先月ここで、わたしたちは呂樹と戦ったでしょ。あのとき呂樹は、結界を張るためになにを利用したか覚えてる?」
リンコ先生にいわれて、ポン子は目を閉じうなりました。
「うーん、確か銭湯のお湯を使ったのよね。それで、湯気に術をかけてから、出雲町を結界で包んだんだよね」
「そうさ。そしてそのお湯が妖気を持っている理由、それこそが出雲のお山の地下にある、マグマだまりに関係しているのよ。マグマだまり自体がとんでもなく強い妖気を帯びていたから、それによって温められたお湯も、自然と妖気を帯びるようになった。ひいてはこの出雲町、そして出雲のお山自体が強い妖気につつまれた土地になったってわけよ」
リンコ先生の説明に、ポン子はまだ混乱しているようですが、なんとなくわかったようなふりをしました。リンコ先生はじとっとポン子を見つめました。
「ポン子ちゃん、ホントにわかってるの? 全く、今の説明くらい簡単にわかってもらえないと、ポン子ちゃんも学校でついていけなくなるわよ」
「えっ、学校?」
ぽかんとしているポン子に、リンコ先生は「あ、そうだった」とつぶやきました。
「そういえばさっき、話の途中だったんだわね。まあいいわ、その話は、とりあえずクシナちゃんの話が終わってからしましょう。で、どこまで話したんだっけ?」
リンコ先生に聞かれて、クシナはにぱっと笑って答えました。
「地下のヤマタノオロチが目覚めそうってところまでですぅ。ヤマタノオロチは、とんでもなく恐ろしい怪物なんですよぉ。マグマの中に住んでいて、百年に一度すがたを現すんですぅ。前にすがたを現しそうになったのは、三十年前ですよぉ」
どや顔でいうクシナに、リンコ先生は目を細めて質問しました。
「三十年前だって? それならわたしも出雲のお山に住んでいたけど、そんな怪物の話なんて聞いたことないけど。それに、あんたの話だと百年に一度すがたを現すんだろう? 三十年前に現しているのに、おかしくないかい?」
リンコ先生に問いつめられて、クシナの顔が一気にくもりました。泣きそうになるクシナを、花子とソフィーがあわあわしながら見ていますが、ポン子は冷ややかな声でいいました。
「どうせまたうそ泣きでしょ。ほら、さっさと話を進めなさいよ」
「ヒック、ほ、本当ですよぉ、だってこのおばさん、怖いんだもん……」
お風呂に入っているのに、サーッと背筋が寒くなります。ポン子は気がつかれないようにゆっくりと、リンコ先生から距離を置きました。花子とソフィーの手も引いて、うまく二人を誘導します。
「だ・れ・が! 誰がおばさんだって? わたしのことじゃないでしょうね!」
リンコ先生が爆発しました。クシナのほっぺをがっしりつかんで、むにゅんっと引っぱります。たれ目からぽろぽろ涙をこぼしながら、クシナは悲鳴をあげました。
「ちょっと、助けてくださいぃー! 早くこのおばさんなんとかしてよぉ」
「あんた、またわたしのことおばさんって! もう許さないわよ!」
バシャバシャ水しぶきをあげながら暴れる二人に、花子が怖い声でどなりました。
「もうっ、お風呂場で暴れないでっていったの、リンコ先生でしょ!クシナちゃんもわざとか知らないけど、ひどいこといわないの!」
リンコ先生はピタッと動きを止めました。花子はぺろっと舌を出して、えへへと笑いました。
「なーんちゃって、へへ。番頭さんっぽいことしてみたの、どうだった?」
ポン子は目をまん丸にしていましたが、すぐにパチパチッとはくしゅしました。
「すごいわ、ちゃんと番頭さんって感じしてたよ。ほら、二人ともおとなしくしなさいよ」
にやにやするポン子を、リンコ先生はじろっとにらみつけましたが、やがてふうっとため息をつきました。
「そうね、わたしとしたことが、大人げなかったわ。ごめんなさい、とりあえず話を続けましょう。というかわたしが質問してたんだったわ」
リンコ先生はクシナに顔を向けました。さっきより表情がやわらかくなっていたので、クシナはほっとしたのか、リンコ先生に首をこっくりしました。
「わかったですぅ、まずは三十年前のことから説明するですぅ。三十年前は、というよりもヤマタノオロチが現れてから百年ごとに、女神さまが選んだ天女が封印をしてきたんですよぉ。だから三十年前も、ヤマタノオロチは暴れないですんだんですぅ。クシナの先輩の天女ががんばったんですぅ」
まるで自分のことのように、クシナはいばって話しました。ポン子とリンコ先生のまゆがぴくりと動きましたが、二人ともなにもいいませんでした。
「で、そのままヤマタノオロチは百年間おねんねするはずだったんですけどぉ……。マグマだまりの妖気が弱くなってしまったせいで、半分目覚めているような状態らしいですぅ。だからわたしが、女神さまに選ばれて調査に来たんですぅ」
「選ばれたって、あんたが? ほんとに?」
こらえきれずに、ポン子はつい問いただしてしまいました。そのとたん、クシナの顔がくしゃくしゃっとゆがみます。
「うう……。クシナは、クシナは女神さまが選んでくれた、天女のデリートなんですよぉ! それなのに、それなのにぃ!」
「……一応ツッコんでおくけど、デリートだと消されちゃうわよ。それをいうならエリートでしょ」
リンコ先生が頭を抱えて訂正しました。クシナの顔がますますくしゃくしゃになっていきます。
「で、でも、女神さまに選ばれるなんてすごいですね。わたしなんか、なんにもできないけど、クシナさんはそうやってヤマタノオロチを調査したり、すごいじゃないですか」
ソフィーが自信なさそうな声ではげましました。とたんにクシナの顔がぱぁっと明るくなります。
「あんたってホント、ゲンキンな性格ね」
ぼそりとポン子がつぶやきましたが、どうやらクシナには聞こえていないようです。ぺったんこの胸をどんっとたたいて、クシナは元気よくいいました。
「もちろんですぅ、クシナはすごいんですよぉ。ヤマタノオロチだってすぐに調査して、クシナが封印しちゃうんですぅ」
調子のいいクシナを見ながら、リンコ先生ははぁっとため息をつきました。ポン子も肩をすくめます。
「よくわかんないけど、そのヤマタノオロチとかいう怪物が目覚めそうだから、クシナちゃんが女神さまに遣わされてやってきたと。そういうことでいいのよね?」
ポン子に聞かれて、クシナは何度もうなずきました。
「そうなんですぅ、わかってくれてうれしいですよぉ」
「……で、クシナちゃんはどうやって、そのヤマタノオロチを調査するつもりなの?」
リンコ先生の問いかけに、クシナは首をかしげました。
「……さぁ?」




