六月の話 ~ヘンタイヨウとレズまりあ、狙われたソフィー~ その15
ポン子はソフィーとまりあに突撃し、くるんっと宙返りしたのです。そのとたん、ポン子のからだは平らなガラスの板に変化しました。ガラス板はくるくるっとソフィーとまりあの間に飛んでいきます。そんなことには全く気づかず、まりあは恍惚の表情をうかべていました。
「ああ、ソフィーちゃんのくちびるって、すごい冷たいのね。わたしがいっぱい温めてあげるわ。それに硬いわねぇ。緊張しちゃってるのかしら。でも、大丈夫よ、すぐにわたしが緊張をほぐして、身も心もわたしだけのソフィーちゃんにしてあげるから……って、なによこれ!」
気づけばまりあは、ソフィーではなく、ガラス板に変化したポン子に思いっきりキスしていたのです。ソフィーのくちびるはガラスを通して見えているのに、そのぬくもりにもやわらかさにも触れることができないのです。まりあの怒りが爆発しました。
「なんてことしてくれてんのよ! わたしとソフィーちゃんの初キッスを、なに邪魔してくれてんのよ! もう怒ったわ、ぶちぎれたわ! そこまでして秘密をみんなにばらされたいなら、お望みどおりにしてやるわよ! ヘンタイヨウ、ポン子ちゃんの、ううん、こうなったらみんなの秘密を全部ばらしちゃいなさい!」
まりあが声をはりあげて、太陽をふりかえります。しかし、なぜか太陽は、床にぐったりと倒れこんでいたのです。まりあの目が見開かれました。
「えっ、なに、どうしたのよ?」
全く状況が飲みこめずに、まりあはソフィーの肩を離して、太陽に近づこうとしました。しかし、太陽のすぐとなりに黒い服を着た男の子が立っているのに気がつき、ハッと息を飲んだのです。
「まさか、神無月、あんたがやったの?」
太陽のとなりに立っていた男の子、神無月密は、無言でまりあにうなずきます。そしてうしろにいた世織をふりかえり、密は抑揚のない声でいいました。
「依頼は完了した。ちゃんと報酬は払ってもらうからな」
「もちろんよ。それは心配しないで。ありがとう」
「おれは自分の仕事をこなしただけだ」
それだけいうと、密はその場からすたすたと去っていき、自分の席へと戻ってしまいました。ポンっと音がして、元のすがたに戻ったポン子が、世織にたずねました。
「いったいどういうことなの? あの子、密君はなにをしたの?」
「ごめんなさい、前にいったけど、神無月君のことについてはなにも話せないのよ。それに、話したとしてもどうにもならないから」
世織がすまなそうに答えました。ポン子はこわごわ太陽をのぞき見て、それからさらに聞きました。
「まさかとは思うけど、死んでるんじゃないよね」
「そんなわけないじゃない。死人が出るような力は使っていないわよ。大丈夫、ただ気絶してるだけだから」
世織の言葉に、ポン子だけでなく他のみんなもほっとしたように息をはきました。まりあがハッとして、ソフィーのほうにふりむきましたが、すでにソフィーの前には治実とチェルシーが立ちふさがっていました。
「まりあ、もうあきらめろ! ソフィーを人形になんてあたしたちがさせないぜ」
「年貢の納めどきネ、覚悟するヨ!」
二人にすごまれて、まりあはクッとあとずさりします。いつの間にかまりあのまわりを、クラスメイトの女の子たちがとりかこんでいました。ポン子が目をらんらんに輝かせて、みんなを代表してまりあにどなりつけました。
「さぁ、ソフィーちゃんにひどいことしようとした罰を受けてもらうわよ!」
「ふんっ、ずいぶんと強気じゃないの。でもわたしの力をあまりなめないでもらいたいわ。こうなったら片っ端から女の子たちをお人形さんにしてから、絶対わたしに逆らえないようにしてあげるんだから! 覚悟しなさいよ!」
怒り狂うまりあを見て、みんなの顔が引きつりました。しかし、ポン子は負けじと、気合を入れるようなとどろく声を出しました。
「みんな口を押さえて! キスさえされなければ、まりあちゃんは人形にもできないんだから、口を守ればいいのよ!」
みんなが口をふさぐのを見て、まりあは目をつりあげました。うらめしげにポン子をにらみつけます。
「キーッ、わたしの弱点を突いてくるなんて、なんて生意気なの! こうなったら無理やり手をどけて、くちびるを奪ってやるんだから!」
完全に頭に血がのぼっているのでしょう、鬼のような形相のまま、まりあがポン子に飛びかかりました。右手で口を押さえ、左手でまりあを突き放そうとします。しかし、両手が自由のまりあは、すばやくポン子の左手をつかみました。
「わたしとソフィーちゃんのラブラブタイムを邪魔するなんて、責任を取ってもらうからね!」
まりあはポン子の左手をつかんだまま、右手にも手を伸ばしました。口をふさいでいる右手をグググッとどけようとして、ポン子ともみあいになります。
「ほら、あと少しよ、手で防げなかったら、わたしの勝ちなんだから! 人形にして、めちゃくちゃにしてやるんだからね!」
「離しなさいよ、この変態! だれがあんたなんかとキスなんてするもんですか! やだ、顔近づけないでよ!」
グーッとポン子に顔を近づけるまりあでしたが、ポン子は必死で顔をそむけて、なんとかキスされないようにふんばります。ですが、まりあも怒りですごい力を発揮しているようで、ポン子はだんだん押され気味になっていきました。
「ほら、もうすぐよ、もうすぐあんたのくちびるが、わたしのものになるのよ! そうなったら、くちびるだけじゃなくて、全部わたしのものになるんだからね! さぁ、覚悟はいいわね」
ぐいぐいポン子に接近するまりあに、ポン子は小さくひぃっと悲鳴をあげました。ポン子とまりあのくちびるが、あと少しで重なり合う――というところで、まりあのからだにソフィーが思いっきり体当たりしたのです。
「ポン子さんにひどいことしないで!」
体当たりされたまりあは、よろめき倒れそうになりました。ソフィーも勢い余って倒れこみます。まりあが床に頭をぶつけそうになるのを、ソフィーがとっさにかばって、そして二人のくちびるが重なり合ってしまったのです。
いつもお読みくださいましてありがとうございます。
明日は2話投稿予定です。お昼ごろと19時台に投稿を予定しております。
明日からしばらく19時台に投稿する予定ですので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。




