六月の話 ~ヘンタイヨウとレズまりあ、狙われたソフィー~ その14
ソフィーは覚悟を決めたように、しっかりとまりあを見すえて近づいていきました。ポン子が止めようとしますが、まりあに目でけん制されてしまい、動くことができません。まりあは笑いが止まらない様子で、にやけきった顔でソフィーを見つめています。
「……でも、約束してください」
ソフィーにいわれて、まりあはふふんと鼻で笑って聞き返しました。
「約束って、なにかしら? いっておくけど、お人形さんにしたあとは、わたしの自由にさせてもらうわよ。っていっても、ソフィーちゃんは抵抗できなくなるから、なにされてもどうしようもないでしょうけどね」
「違います、そんなことじゃないです。わたしのことはまりあさんの好きにしていいですけど、そのかわり、ポン子さんたちの秘密はばらさないでくださいね」
「えー、どうしようかしら」
にやにやするまりあでしたが、ソフィーの顔を見て、思わず真顔に戻りました。まさに目で射抜くような険しい顔に、さすがのまりあも気おされたようにあとずさりしました。
「なによ、その顔は? いいのかしら、あなたを人形にしたあとに、ポン子ちゃんたちの秘密をばらしちゃうわよ?」
「もしそんなことをしたら、わたし、一生まりあさんを許しません。人形になって、抵抗できないわたしでどれだけ遊ぼうとも、わたしはまりあさんのことを一生軽べつします。一生きらい続けますから。それでいいなら、ばらしたらどうですか?」
とても静かな語りかたでしたが、その迫力はすさまじいものがありました。まりあはもちろん、ポン子たちですら、冷や汗が流れるほどのものです。まりあはソフィーから顔をそむけましたが、やがてぽつりとつぶやきました。
「ま、まあ、約束してあげてもいいわよ。ソフィーちゃんがおとなしくキスされて、お人形さんになるんならね」
「それでいいです。約束ですからね」
ソフィーはなおもまりあに強い視線を送って、それからそっとうなずきました。目を閉じ、ゆっくりとくちびるを突き出すソフィーを、まりあは舌なめずりしながらねめつけます。
「うふ、うふふ、ああ、楽しみだわ。強がったところで、そうよね、わたしからは逃れられないのよ。でも、心配しなくていいわ。とってもあつーいキッスを楽しみましょう。そして、そのあとは……二人だけの時間が始まるのよ」
まりあががしっとソフィーの肩をつかみました。ソフィーがびくっとからだを固くして、わずかに顔をそむけました。
「あら、わたしにあれだけ約束を守るようにいったのに、まさか、約束のキスを拒否する気じゃないわよね」
「そんなこと、しません。……キスするなら、早くすればいいじゃないですか」
そむけていた顔を、ゆっくりと戻し、ソフィーはふるえながらくちびるを突き出します。まりあはにたりと笑ってから、ソフィーにささやきました。
「そんないやいやする感じじゃ、わたしは満足しないわね。そんないいかたするなら、もうキスはいいわ。そのかわりみんなの秘密を全部ばらしちゃうから」
「いやっ、ダメです!」
目を開け、ソフィーが懇願するようにまりあを見ます。まりあは意地の悪い笑みをうかべて、さらにささやきました。
「じゃあ、こういってもらおうかしら。まずはね……」
ソフィーの耳元で、まりあがなにごとか耳打ちしています。ソフィーの顔が真っ赤に染まって、再びまりあから顔をそむけました。まりあは心底楽しそうに、大げさなしぐさで顔をふります。
「ああ、そう、そうなんだ。いやなのね、わたしが考えたセリフをいうのが。あーあ、傷ついちゃったなぁ。しかたないわね、太陽、まずはポン子ちゃんの秘密からばらしちゃいなさい」
「わかったっすよ。ポン子は毎晩こっそり」
「ダメッ! いう、いいますから、お願い、みなさんの秘密はばらさないでください」
「いいますから? へぇ、そんないいかたするんだ」
もはやまりあはノリノリでした。意地悪くソフィーを追いこみ、それを楽しんでいるのです。ソフィーはくやしそうに顔をゆがめ、それでもまりあを見あげてつぶやきました。
「いわせて、ください……」
「ふふ、そうよ。やっと素直になったわね。さ、それじゃあさっきのセリフ、いってもらうわよ。あ、さっきもいったけど、ちゃんと自分のことは、『わたし』じゃなくて『ソフィー』っていいなさいよ。そのほうがお人形さんっぽくてかわいいからね」
ソフィーは耳まで真っ赤になってしまいました。盗み見るようにまわりを見ると、いつの間にかクラス中のみんなの視線が、ソフィーとまりあに集まっています。さらに顔が赤くなるソフィーでしたが、まりあがいらだたしげに口を開こうとしたので、あわててまりあの考えたセリフを口にしたのです。
「エ、エッチなお人形のソフィーは、まりあちゃんに愛でられたくって、キ……キスされたくって、夜も眠れないの。お願い、ソフィーの、その……く、くちびるを、無理やり奪って、まりあちゃんだけの……お人形にしてください……」
よほど恥ずかしかったのでしょう、ソフィーは青いひとみに涙をためながら、くやしそうにまりあの顔を見あげました。ですが、そんな表情も、まりあの意地悪な心を刺激するだけでした。まりあは鼻息荒く、よだれをたらしながら、誰がどう見ても変質者のような顔で、涙目のソフィーを見つめたのです。
「うふふふ、そうね、そんなふうにお願いされちゃったら、くちびるを奪ってお人形さんにしてあげないと、かわいそうよね。エッチなソフィーちゃんは、わたしのお人形さんになりたくってたまらなかったのよね」
「うぅ……」
ソフィーの目から、一筋の涙が流れました。それを見ていたポン子の胸が、罪悪感ではりさけんばかりに痛みます。
――どうしよう、あたしたちのせいで、このままじゃソフィーちゃんが、あんな変態のえじきになっちゃう。でも、逆らったら秘密をばらされるし、ああ、でもこのままじゃ――
ポン子の脳裏に、人形だったころのソフィーのすがたがよぎりました。人形じゃなくて、自分のことは自分で決める人間になりたいといったソフィーのすがたも、出雲の湯で番頭さん見習いとしてがんばるソフィーのすがたも、いっしょのおふとんで眠ったソフィーのすがたも、ソフィーとのたくさんの思い出が一気に頭に浮かんだのです。
――そうだわ、ソフィーちゃんは、あたしにとって大切な、とっても大切な妹のような子なのに、それなのにあたしは、くだらない秘密のために妹のくちびるをあんなド変態に奪われようとしてるんだ。あたし、なんてバカだったの――
「あぁ、もうしんぼうたまらないわ! さぁ、それじゃあ心の準備はいいかしら? いただきまーす!」
まりあがソフィーを抱き寄せ、そのくちびるに自分のくちびるを重ねようとします。しかしポン子は、すでに走りだしていました。
「ダメーッ!」




