表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/485

六月の話 ~ヘンタイヨウとレズまりあ、狙われたソフィー~ その12

 突然教室中に、まりあの悲鳴がひびきわたりました。みんななにごとかとまりあのほうを振り向きます。まりあは肩をいからせて、鬼のような形相でソフィーに近づいてきました。ソフィーはもちろん、みんなもあわててまりあから距離を取ります。


「絶対ダメよ、ズボンなんてはいちゃ! 女の子のお人形さんは、ズボンなんてはいてないでしょ。だいたいズボンなんて服は、この世から消えてなくなればいいのよ! みんなスカートをはくようになれば、どれだけ世界が平和になることか」

「そしたらおれたちもスカートになっちゃうっすけど、いいんすか?」


 ひょろりと太陽がまりあのとなりへやってきました。今度はまりあが太陽から距離を取り、それからふんっと鼻を鳴らしました。


「前言撤回ね。ズボンをはいていいのは男子だけっていう法律を作りましょう。もし女の子がズボンをはいたら、その場で脱がしちゃう刑に処するわ」


 愛瑠(あいる)がひぃっと悲鳴をあげます。ソフィーたちもドン引きです。まりあは舌なめずりをしてから、ソフィーに向きなおりました。


「うふふ、とにかくズボンなんてはいたらダメよ。ソフィーちゃんはわたしのかわいいお人形さんになるんだから、ズボンなんてはいたら、絶対許さないからね」

「ちょっとあんた、何度いったらわかるのよ! ソフィーちゃんは人形なんかじゃないって何度もいってるじゃない! それなのにソフィーちゃんをつけねらって、この変態!」


 ポン子のどなり声を、まりあは余裕の笑みで受け流します。にたりとしてから、ソフィーになめるような視線を送ります。ソフィーはぶるるっとみぶるいしました。


「へぇ、ポン子ちゃん、ソフィーちゃんはお人形さんじゃないなんていうんだ。そんなうそついちゃっていいのかしら?」

「うそ? うそじゃないわよ、どう見たって、ソフィーちゃんは人間じゃないの! なにバカなこといってんのよ」

「そうかしら? だってわたし知ってるのよ、ソフィーちゃんはもともとお人形さんだったってこと。とってもかわいらしいお人形さんだったのよね、紫色の毛糸でできたかわいらしい髪に、青いビーズの目が、とってもチャーミングだったそうね」

「どうしてそれを?」


 ソフィーが目を見開いてたずねました。まりあは満足げにふふっと笑って続けました。


「そんなことはどうだっていいじゃない。ねぇ、それより、頭につけてるかわいい紫のリボン、それってお人形さんだったときのなごりなんでしょ? とってもキュートよ。でも、髪をおろしたソフィーちゃんも見てみたいわね。それに、お人形さん時代みたいに、紫色の髪のソフィーちゃんも見てみたいわ」


 ソフィーががくがくとふるえはじめました。自分を守るように、両手で胸をぎゅっとだきしめます。そんなソフィーを、まりあはうっとりとした顔で見つめました。


「うふふ、楽しみだわ。そうだ、絵の具で髪の毛を染めてみましょうか。紫色の髪、ソフィーちゃんもなつかしいでしょ。髪をおろして、紫色にして、目はもともと青い色だからいいけど、お人形さんになったらやっぱりビーズに戻るのかしら。どうなるか楽しみだわ」

「あんた、いい加減にしなさいよ! ソフィーちゃんを人形になんか、絶対させないんだから! それどころか、あんたには指一本ふれさせないわ!」


 ポン子がとどろくような声で、まりあをいかくします。まりあは芝居かかった口調で悲鳴をあげました。


「いやーん、ポン子ちゃんにどなられちゃったわぁ。でも、いいわね、女の子同士の友情って。わたしも混ぜてもらいたいけど、それ以上にめちゃくちゃにしたい気分だわ」


 再びいやらしく舌なめずりすると、まりあは太陽に声をかけました。


「さあ、あんたの出番よ、ヘンタイヨウ! ポン子ちゃんにお仕置きしてあげなさい」

「なによ、あんたがやる気? いいわ、かかってきなさいよ! ソフィーちゃんには絶対手出しさせないんだから!」


 勇ましくほえるポン子でしたが、太陽は少しもひるまず、へらへら顔でいいました。


「いやいや、おれのポリシーはラブ&ラブ&ラブ&ピースっすから、争いごとなんて起こそうとは思ってないっすよ。ただ、さっきのソフィーの疑問に答えてあげようかなって思っただけっす」

「ソフィーちゃんの、疑問? なによそれ、いったいなんのこと?」


 けげんそうに聞き返すポン子に、太陽はにひひと笑って答えました。


「どうしてまりあが、ソフィーが人形だったときのことを知っているかって疑問っすよ。どうやら世織(せおり)たちには、自分たちのことを話したみたいっすけど、ソフィーが人形だったときのかっこうは話してなかったんすよね」


 確かに太陽のいうとおり、人形だったころのソフィーのすがたを知っているのは、出雲のお山の妖怪たちくらいでした。ポン子は目をぱちくりさせて、やがてまん丸の目をさらに丸く、大きく見開きました。


「まさかあんた、ソフィーちゃんの記憶を!」

「ビンゴっすよ。いやいやどうして、なかなかかわいいお人形だったっすねぇ。あれならおれも、お人形遊びしたくなるっすよ。もちろん主にスカートで遊ぶっすけどね」

「いやっ、変態!」


 花子が大声でさけびました。ポン子も怒りでわなわなとこぶしをふるわせています。


「サイテーだわ! 女の子の、ソフィーちゃんの記憶を読み取るなんて! このヘンタイヨウ!」

「いいっすねぇ、気の強いポン子にののしられると、ちょっとぞくぞくするっす」

「ちょっとこいつ、本物の変態だわ! わたし怖いわ」


 花子が顔を引きつらせて愛子にしがみつきます。愛子も毛虫でも見るかのような目で、太陽をにらみつけています。


「まぁ、ラブコメはこの辺にしておいて、そろそろおれもお前らをいじらせてもらうっすよ」

「なにがラブコメよ! ラブもないし、コメもないわ! さっさと教室から、むしろ出雲町から出ていきなさいよ!」


 ポン子のどなり声を、不敵な笑いとともに受け流すと、太陽は言葉を続けました。


「そんなこといっていいんすかねぇ? おれはなにも、ソフィーの記憶だけを読み取ったわけじゃないっすよ。おれが読み取ったのは、お前たち全員の記憶っすよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ