六月の話 ~ヘンタイヨウとレズまりあ、狙われたソフィー~ その5
「ソフィーちゃんは人形じゃないのよ!」
花子とポン子が、声をそろえてまりあに反論しました。まりあは口をぽかんと開けて目を丸くしていましたが、やがてうふふと笑いました。
「あら、だってこんなにかわいいお顔をしてて、肌もまるで陶器のように真っ白で、おまけに目までサファイアみたいな青色をしているのよ。こんなかわいい女の子が、お人形さんじゃないだなんて、そんなはずないわ」
「違うよ、ソフィーちゃんは本当にお人形さんじゃないんだから! ね、ソフィーちゃん」
花子にいわれて、ソフィーは自信なさそうにですがうなずきました。ですが、まりあはあくまで挑戦的にソフィーを見つめます。ふふっといたずらっぽく笑って、まりあがソフィーに近づきました。
「ホントにお人形さんじゃないの? ふふ、それじゃあ試してもいいかしら」
まりあがいやらしく舌なめずりをします。それを見た愛瑠が、ハッとしてソフィーの前におどりでました。
「いただきまーす!」
「ダメッ!」
ソフィーに抱きつこうとするまりあを、愛瑠がすんでのところで取り押さえました。ですが、まりあは勢いあまって、愛瑠をむぎゅうっと抱きしめたのです。そして……。
「ひゃあっ! ちょっとまりあちゃん、なにやってるのよ!」
ポン子と花子が、急いでまりあを愛瑠から引きはがそうとします。しかしまりあはべったりくっついていて、なかなかはがすことができません。なんとか二人がかりで愛瑠からひっぺがしたときには、すでにまりあの力が発動していました。
「あれっ、愛瑠ちゃんは?」
引きはがしたはずの愛瑠のすがたが、どこにも見えません。ポン子たちだけでなく、様子をうかがっていた愛子たちも、なにが起きているのか全くわかっていないようで、教室中を見まわしています。しかし治実だけは気づいているようで、はぁっと疲れたようにため息をつきました。
「ほら、早く席について。もうそろそろ朝の会が始まるわよ……って、有栖川さん、まさか!」
世織の声に、まりあがくるりとふりかえりました。いつの間に出したのでしょうか、胸のあたりにかわいらしい人形を抱きかかえています。その人形を見てから、世織はめがねを指でかけなおし、厳しい口調でまりあを責めます。
「やっぱり、また吉見さんを人形にしちゃったんですね! あれほどクラスメイトに力を使ったらダメだっていったのに! すぐに戻しなさい!」
世織に責められても、まりあは肩をすくめるだけでした。悪びれた様子もなく、さらりと答えます。
「無理よそんなの、世織ちゃんも知ってるでしょ、わたしの力は、自分で解除できるような便利なものじゃないのよ。まぁでも、そんな長い時間人形のままってことはないと思うわ。だって今のわたしは、ソフィーちゃんにぞっこんラブなんだから」
まりあの言葉に、世織は思わずあとずさりします。そんな世織に、花子が首をかしげながらたずねました。
「世織ちゃんは愛瑠ちゃんがどこに行ったか知ってるの? あのね、まりあちゃんが愛瑠ちゃんに、その……ちゅーしてから、愛瑠ちゃんが消えちゃったの。まさかこれ、まりあちゃんの力なの? ちゅーした相手を消しちゃうとか」
「そんな物騒な力じゃないわよ。……いや、でもよく考えたら、消しちゃう以上に物騒な力かもしれないわね。いいわ。有栖川さんがソフィーさんをねらっているんなら、ソフィーさんたちには有栖川さんの力を知る権利があるだろうし、教えてあげる。いいわね、有栖川さん?」
「別にいいわよ。力を知られたところで、わたしの力を防ぐことなんてできないんだし」
まりあは自信満々にうなずきました。世織はとがめるようにまりあをにらみつけましたが、やがてソフィーに向きなおってから説明しました。
「有栖川さんは、他人を人形にしてしまう力を持っているの。キスをした相手を人形にしてしまうのよ」
「えっ、じゃあまさか、愛瑠ちゃんは、まりあちゃんが今持ってる……」
花子の言葉を聞いて、みんなの視線がまりあの持つ人形へとそそがれます。まりあはうふふっとぶりっ子のように笑って首をたてにふりました。
「そうよ、みんなが思っているとおり、この子が愛瑠ちゃんよ」
みんなの顔から血の気が引きます。固まってしまったみんなに、世織が続けて忠告しました。
「そういうわけだから、あなたたちも有栖川さんには近づかないほうがいいわ。この子、女の子なら見境なくキスしようとするから。それでキスされたが最後、あとは有栖川さんにされるがままになってしまうわ」
顔をこわばらせるみんなに、まるで見せつけるように、まりあは愛瑠の人形にほおずりしました。事情を知らない人が見れば、女の子がお気に入りの人形で遊んでいるように見えたことでしょう。しかしまりあは、クラスメイトをそのお気に入りの人形にしたてあげて遊んでいるのです。たまらずソフィーがどなりました。
「もうやめてあげてください! 人間を人形にするなんて、ひどすぎます! 愛瑠さんを元に戻してください!」
「えぇ、どうして? だってこんなにかわいいのに。愛瑠ちゃん、もともととってもかわいいから、お人形さんになっても、すっごくかわいらしいでしょ。それにお人形さんにしてしまえば、こんなことだってできるのよ、ほら」
愛瑠の人形にほおずりしていたまりあは、愛瑠をまじまじと見つめました。そして、なにを思ったのか、人形となった愛瑠のスカートを、ぺらりとめくったのです。花子がきゃあっと悲鳴をあげます。
「やめて! そんなひどいことしないで!」
ソフィーがどなり声をあげますが、まりあは全くこたえた様子もなく、上機嫌に笑います。
「どうして? それに別にひどいことじゃないでしょう? だってこんなかわいいお人形さんなんだもん。誰だって愛でたくなっちゃうじゃない」
ソフィーはもうカンカンになっていました。まりあに近づき、愛瑠の人形を取り上げようとします。あわててポン子がソフィーを止めました。
「離してください、ポン子さん! 早く愛瑠さんを助けてあげないと!」
「ダメだよ、ソフィーちゃん、今まりあちゃんに近づいたら、ソフィーちゃんまでキスされてお人形さんにされちゃうよ!」
ポン子にいわれて、まりあはムーッとくちびるをとがらせました。
「もうっ、ばらしちゃダメじゃない。せっかくソフィーちゃんをお人形さんにできるって思ったのに」
「そんなこと思ってたなんて、もう絶対許さないです! ポン子さんも離してください!」
ソフィーがじたばたしているのを、まりあがうっとりした目で見ています。と、まりあのうしろから、男の子の声が聞こえてきました。
「おっ、愛瑠を人形にしたんすね。しかもパンツチェックまでしてるなんて、うらやましいっす。おれにも愛瑠のパンツ見せてくれっすよ」




