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六月の話 ~ヘンタイヨウとレズまりあ、狙われたソフィー~ その4

 ポン子たちの必死のさけびもむなしく、まりあはその女の子に抱きつき……はせず、視線を向けることさえしませんでした。ぽかんとしているポン子たちに、まりあは不思議そうに声をかけました。


「どうしたの、そんなハトが豆鉄砲食らったような顔しちゃって。なにかあったの?」

「えっ、だって、まりあちゃん、かわいい女の子が好きっていってたじゃない」

「ええ、そうだけど、それがどうかしたの?」


 小首をかしげるまりあに、ポン子はさっきの女の子を指さしてからたずねました。


「じゃあ今、凪沙(なぎさ)ちゃんが通ったのに、どうしてなにもしなかったの? 凪沙ちゃん、あんなにかわいいのに。抱きついたりしないの?」


 ポン子のとなりの席にすわっている、八百(やお)凪沙に目をやってから、ポン子はけげんそうにまりあを見ました。まりあはもちろん、愛瑠(あいる)治実(なおみ)も目をぱちくりさせていましたが、やがて「そっか」と、納得がいったようにうなずきました。


「ああ、なるほど。あなたたち知らなかったのね。でも、もうこのクラスになって二か月くらい経ってるのに、ずっと気づかなかったの?」


 まりあにいわれて、愛子が不思議そうに聞き返しました。


「気づかなかったって、いったいなんのこと?」

「凪沙のことよ。あなたたち、あの子が女の子だって思ってるんでしょ。あいつは男よ。だからわたし、なにもしなかったのよ。男なんかに抱きつくなんて、考えただけでもおぞましくって気持ち悪いわ」


 みぶるいするまりあに、愛子が目を見開いてさらにたずねます。


「うそでしょ、だってあんなにかわいいのに! うちのクラスだったら、それこそソフィーちゃんレベルにかわいいでしょ。それなのに男の子だなんて、そんなの絶対うそでしょ」

「まさか、本当よ。凪沙は男よ。まぁでも、だまされるのも無理ないわね。わたしも初めて凪沙と会ったときは、思わず抱きしめたくらいだもん」

「やっぱり抱きしめてたんじゃない……」


 ジト目でポン子に見られて、まりあは口をとがらせました。


「そりゃ、最初はだまされるわよ。あーあ、ホントに凪沙が女の子だったらなぁ。そしたら最高なのに」


 まりあは一人で身をくねらせます。みんなまりあのほうにはなるべく視線を向けないようにしていましたが、ふと花子が首をかしげました。


「ねぇ、でもそしたらおかしくない?」

「えっ、なにが?」


 ポン子に聞かれて、花子は一人で指を折りながら数を数えていきます。


「うーん、やっぱりおかしいわよ」

「だからなにがおかしいのよ?」

「だってさ、凪沙ちゃんが男の子だったわけじゃない。でもわたしたち、ずっとクラスの女子は十四人だって思ってたでしょ」

「だって、最初に日美子(ひみこ)先生がそういってたじゃん。女子は十四人、男子は十人って」

「けどさ、凪沙ちゃんが男の子なら、計算が狂うんじゃないの? そしたら女子は十三人、男子は十一人になるはずじゃんか」


 ポン子はあっと声をあげました。すばやくクラス中を見わたします。


「まさかそれじゃあ、男子のうち誰かが、実は女子ってことなの? まさかヘンタイヨウが」

「いや、それはないわよ」


 あきれ顔でまりあが否定しました。ポン子もえへへと笑います。


「そうよね、ヘンタイヨウが女の子のはずないもんね。でも、それじゃあ誰が女の子なの?」

「誰がって、それはもちろんミー様よ」


 愛瑠がとろんとした目でいいました。花子が目を白黒させます。


「ミー様? ミー様って誰よ?」

「ほら、魅入(みいる)ちゃんよ。石川魅入。ミー様って呼ばれてるわ」


 愛瑠が指さした先には、すらっとした体型に少しきつい目をしたイケメンが、単行本を読んでいました。他のクラスメイトよりも頭一つ高く、中学生といわれても不思議には思わないでしょう。さらさらの髪は短くカットされていて、なんともさわやかに見えます。ポン子がうわずった声で愛瑠にたずねます。


「あの人が? うそでしょ、あんなかっこいいのに、女の子だなんて信じられないよ!」

「ホントにそうよね、ミー様、背も高くてジャニーズみたいな顔立ちだから、ランドセルせおってないと、いつも女の子に声かけられるらしいのよ。こないだなんて、女子高生からLINE交換してっていわれたらしいし。ミー様が女の子で小学生って聞いて、すごくびっくりされたっていってたわ」


 愛瑠の言葉に、ポン子も納得したようにうなずきました。


「そりゃそうだよ、あんなにかっこよかったら、誰だって声かけたくなるわ。でも、LINEってなに?」


 ポン子の疑問は無視して、まりあがふうっとため息をつきました。


「でも、魅入は女の子だけどどう見ても男っぽいから、わたしはちょっと苦手なのよね。まぁ、クールビューティーって言葉もあるし、ありかなしかでいうなら全然ありなんだけどさ」

「まりあちゃん、本当はかわいい女の子じゃなくて、女の子だったら誰でもいいんじゃ……」


 あきれ顔で花子がつぶやきました。まりあがじろりと花子をにらみます。そんなまりあに、愛瑠がくすくす笑っていいました。


「でもまりあちゃんだって、ミー様のチャームにやられたらメロメロになっちゃうでしょ」

「いや、そりゃあ魅入の力を使われたら、女の子だったら誰でも魅了されちゃうわよ。だいたいハートの盗賊がハートを盗めなかったら、ただの落ちこぼれじゃないの」

「えっ、魅入ちゃんって、盗賊なの?」


 愛子が驚きの声をあげました。みんなも口をぽかんと開けて、まりあを見ます。注目されたのがうれしかったのか、まりあは得意そうにうなずきました。


「そうよ、石川一族は代々盗賊をなりわいとしているのよ。っていっても、お金とかを盗むんじゃなくて、心、つまりハートを盗むのが専門の盗賊なんだけどね」

「あ、それでチャームっていったのね。魅了の術を使えるんだ」

「へぇ、愛子ちゃんくわしいのね。でもそうなのよ。魅入は結局力を使ってるんだから、そりゃわたしもメロメロになってもおかしくないわよ。でもわたしの本当の好みは、魅入みたいな男っぽい女の子じゃなくて、愛瑠ちゃんやソフィーちゃんみたいに、お人形さんみたいなかわいい女の子なのよ」


 お人形さんという言葉に、ソフィーの顔がくもりました。


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