六月の話 ~ヘンタイヨウとレズまりあ、狙われたソフィー~ その1
「あーあ、雨は降ってないけど、どうして梅雨ってこうじめじめしてるのかしら」
ポン子はうらめしそうに空をにらみつけました。今にも降り出しそうですが、まだ天気は崩れていません。ですが、なんともゆううつな朝でした。ポン子ははぁっとため息をつきます。
「雨降ってこないですよねぇ。ポン子ちゃん、雨降ってきたら、クシナもかさに入れてくださいよぉ」
クシナはおびえたように空を見あげます。そのまますりついてきたので、ポン子はうっとうしそうにクシナを押しのけました。
「もう、ただでさえじめじめしてるのに、くっつかないでよ。ほら、離れなさい」
「だってぇ、雨が降ってきたら、クシナの変化とけちゃうですよぉ。クシナが天女だってばれちゃったら、人間たちにつかまっちゃうですぅ。ただでさえこんなかわいいクシナなのに、天女だって知られたら、すぐにさらわれちゃうですよぉ」
「だれもあんたのことなんてさらわないわよ。しかもなに自分でかわいいなんていってんのよ」
ポン子にほっぺたをつねられて、クシナは涙目になります。
「いたたたぁ、やめるですぅ、やっかみはみっともないですよぉ」
「だれもやっかんでないわよ! ホントに朝から生意気なやつね!」
ぎゃーぎゃー騒ぐ二人を、ソフィーと花子がほほえましそうに見ています。花子はキュロットスカートに、すずしげなシャツを着ていましたが、ソフィーはいつものフリルのついた青いドレスすがたです。花子にまじまじと見られて、ソフィーは首をかしげました。
「花子さん、どうしました? もしかしてわたしの顔に、なにかついてます?」
「いや、そうじゃないんだけど、ソフィーちゃんのかっこう、蒸し暑くないのかなって思って」
花子にいわれて、ソフィーは自分の青いドレスを見まわしました。フリルをふわふわさせながら、軽く小首をかしげます。
「そうですね、あんまり気にならないですよ。わたしってどちらかというと、寒がりですから。むしろ花子さんは寒くないんですか?」
「寒い? まさか、今日なんてじめじめしてて蒸し暑い感じがするよ。わたしはどっちかっていうと暑がりだもん」
手をうちわのようにして、ぱたぱたあおぐ花子を、ソフィーは不思議そうにながめていました。
「おはよう、ソフィーちゃん、花子ちゃん」
うしろから声をかけられて、ソフィーと花子は振り向きました。愛子と治実が手をふっています。クシナがうっと顔をしかめました。
「ネコミですぅ、助けてくださいぃ」
クシナはポン子のうしろに急いでかくれました。ポン子はうっとうしそうにクシナをからだから離します。
「だからくっつかないでってば」
「だって怖いんですぅ、ネコミは苦手なんですよぉ」
しがみついてくるクシナを、ポン子はぐいぐい押し返します。その様子を治実があきれたように見ています。
「別にあたしはなんもしないよ。こんなじめじめしてるのに、あんたなんかに構ってられないわ」
「うそですよぉ、絶対そうやってクシナを油断させて、それでたたこうとか思ってるんですぅ」
もはや否定するのも面倒になったのか、治実はなにもいわずに先に行きます。ポン子たちもそのあとを追います。すると――
「ソフィーちゃん、それに花子ちゃんもおはよっ」
聞いたことのある女の子の声がして、花子がふりむきました。ソフィーもふりむこうとして、「わぎゅっ」とかわいらしい悲鳴をあげます。
「おはよう、ソフィーちゃん。今日もとってもかわいらしいわね。梅雨空にも、青いドレスがとってもお似合いよ」
いきなり女の子に抱きつかれて、ソフィーはきょとんとしています。花子はびっくりしたのか、その場に固まってしまいました。
ソフィーももともと人形なだけあって、非常にかわいらしい顔立ちをしていました。しかし、抱きついてきた女の子も、ソフィーに負けず劣らずかわいらしく、まさにお人形のような女の子でした。長い髪はきらきらのプラチナブロンドで、目はソフィーよりも深い藍色をしていました。溶けてしまいそうなほどに白い肌に、ソフィーと同じようなエプロンドレスを着ています。
「おい、まりあ、あんまりソフィーにべたべたするなよ。ただでさえ暑苦しいのに、よけい暑苦しくなるじゃないか」
治実に注意されて、まりあと呼ばれた女の子は、ムーッと口をとがらせました。
「なによ、ネコちゃん、いいじゃないの。ソフィーちゃんたちとはあんまりおしゃべりできてなかったんだし、仲良くするのは大事なのよ。ねぇ、ソフィーちゃん」
なれなれしい口調でしたが、ソフィーは気にならないのか、ぱぁっと笑顔になってうなずきました。
「そうですね、クラスメイト同士仲良くするのは大事ですよね。有栖川さんとは席も離れてて、あんまり話せてなかったから、声をかけてくれてうれしいです」
「まりあでいいわよ。苗字だとかたっくるしい感じがするから。でもわたしもうれしいわ、そういってもらえて。ソフィーちゃんのこと、実はずっと気になってたの。とーってもかわいい女の子だなあって。これからも仲良くしてね」
ふふっと笑うまりあを、治実は苦々しげに見ていました。まりあのそばに近づくと、警戒するようににらみつけます。
「どうしたの、ネコちゃん。そんな怖い顔して」
「なにをたくらんでんだよ、まりあ。お前まさか、ソフィーのことも自分のコレクションにしようとか、そんなこと思ってないよな?」
まりあが舌なめずりするのをみて、治実はドン引きしたようにうしろへ下がります。花子も少し距離を置いてから、ひそひそ声で治実に問いかけました。
「ねぇ、あの子はいったいどんな力を持ってるの? なんか、その……変な感じの子に見えるんだけど」
治実はちらりとまりあに視線を移しました。挑戦的に笑いかえすまりあをみて、治実は男の子のように頭をガシガシかきました。
「悪いけど、あたしは他人の力はばらさないっていうポリシーを持ってるんでね。ただ、これだけはいっておくよ。まりあには近づいたり、仲良くしないほうがいい。……あの子はレズなんだから」
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