五月の話 ~あなたは犬派? それとも猫派?~ その11
桃太郎はすぅーっと大きく息を吸いこみ、耳をつんざくような、とんでもなくバカでかい声を上げたのです。
「ケーンッ!」
カウンターを狙っていた治実も、さすがにこれは耳をふさぐしかありませんでした。離れたところにいたポン子たちも、涙目で耳をふさぎます。ガードがなくなった治実のボディを、桃太郎はけもののうでで思い切り殴りつけました。
「うぐふっ!」
超回復能力を持つ治実も、さすがにこれはこたえたのでしょう。おなかを押さえてその場にうずくまります。
「傷がすぐ治ろうと、痛いもんは痛いよな。さぁ、どれだけたえられるか、猫の根性見せてみろよ!」
桃太郎がほえるように笑い、こぶしの雨を降らせました。治実はよけることもできずに、うでで頭をガードするのでせいいっぱいです。
「ちょっと、もうやめなさいよ! 女の子にそんなひどいことするなんて!」
花子の非難に、桃太郎はどなりかえしました。
「うるせぇ、これは戦争なんだ、犬が勝つか猫が勝つかの戦いなんだ! 犬派でも猫派でもないやつはすっこんでろ!」
「でも、それ以上やったらいくら治実ちゃんだって、死んじゃうよ!」
かけよろうとする花子を、ポン子があわててつかみました。
「離して、ポン子ちゃん! こんな戦争止めなくっちゃ!」
「待って、花子ちゃんじゃもうどうにも止められないよ! こうなりゃあたしとクシナちゃんで、なんとかするから、ほら行くよ!」
ポン子はクシナの手をつかみ、強引に引っぱりました。クシナはひぃっと悲鳴をあげますが、構わずポン子は戦場へ連れていきます。
「全く、いったいなにをやっているの、こんな公園のど真ん中で。力を持っていることが知られてもいいのかしら?」
知らない女の人の声が聞こえてきました。ハッとポン子が公園の入口へ目をやると、そこには青い髪をした、アニメ顔の女の子(?)が立っていたのです。
「えっ、誰? ていうか、え、お面?」
アニメ顔だったのは、それが顔ではなくてお面だからでした。アニメのキャラクターでしょうか。女の子のお面をかぶった子が、ふぅっとため息をついたのです。
――待って、あのお面、ていうかお面かぶってる子、確かあたしの前の席の男の子、えーっと、真白君じゃ――
よく見ると真白は、腰のあたりにいくつかお面をぶら下げています。そのうちの一枚に手をやり、真白は一瞬でお面を交換しました。クシナが治実たちを光の泡に閉じこめた日に見た、目も鼻も口もない、あの真っ白なお面です。のっぺらぼうになった真白は、パチンっと指をたたきました。すると――
「さぁ、戦争を続け……なんだ、からだが、動かねぇ!」
こぶしをさらにふりおろそうとしていた桃太郎が、ぴたりと止まってしまいました。桃太郎だけでなく、ガードの姿勢からカウンターを狙っていた治実も、まったく動けないようです。離れたところでかみつきあっていたミイコとウルフィーも、まるで時間が止まったかのように硬直しています。
「くそっ、これは、あのお面野郎のしわざだな!」
桃太郎の言葉に、治実もチッと舌打ちしてからどなりました。
「おい、お面野郎! さっさと動けるようにしろ! あたしたちの戦いはまだ始まったばかりなんだよ」
ぎゃーぎゃーわめく二人を、のっぺらぼうになった真白は静かに見おろしていましたが、やがてお面を別のお面へとつけかえました。真っ白なひげをたくわえた、おじいさんのお面でした。
「ふぉふぉふぉ、こんな誰が見ているかわからん場所で、こうも暴れまわっていては、力を持たぬ人間たちにばれるじゃろうて。わしがおらんければ、それこそ騒ぎになっておったぞ」
おじいさんのお面に変わったからでしょうか、治実も桃太郎も、金縛りから解放されました。二人は顔を見合わせ、そしてものすごいスピードで真白に飛びかかったのです。
「これ、待つのじゃ、わしは――」
「うるせぇ、おいらたちの真剣勝負を邪魔しやがって、そのお面はいで、お前の顔をみんなにさらしてやるぜ!」
「桃太郎、あたしが腕を押さえておくから、あんたはお面を取っちまいな!」
さっきまで戦争をくり広げていた二人とは思えないような、息ぴったりの連係プレイです。真白はあっという間に押さえつけられ、おじいさんのお面をはぎ取られてしまったのです。
「うわぁん、やめてよぉ、お願いだからぼくのお面、返してよぉ!」
とたんに真白は、さっきまでのおじいさんのようなしゃべりかたではなく、いたって普通のしゃべりかたになってしまいました。声もしわがれた感じから、まだ声変わりしていない少年の声へと変わっています。
「うるさいぞ、泣き虫のくせにお面なんかかぶっていきがりやがって! ほら、お前の顔みんなにも見てもらうんだよ!」
両手でぐいっと頭をつかんで、桃太郎は真白の顔をポン子たちに向けました。お面を外したその素顔は、まったく特徴のない、いたって普通の男の子の顔だったのです。お面をつけているくらいだから、どんな顔だろうと内心ドキドキしていたポン子たちは、拍子抜けしたようにぽかんとしています。
「やめてよぉ、見ないでよぉ! ぼくのお面、返してぇ!」
「なんだ、全然普通の顔ですねぇ。クシナはてっきり、とっても怖い顔だと思ってたですぅ」
「あたしは逆に、お面を取ったらすごい美少年とか思ったけど、別に普通だったわね。ていうか普通過ぎて逆に覚えづらい顔ね」
ポン子の言葉がよほどこたえたのでしょうか、真白はがっくりと肩を落として、うつむいてしまいました。さすがにかわいそうに思ったのでしょうか、愛子が治実たちに声をかけます。
「ねぇ、もう離してあげましょ。真白君、泣きそうになってるでしょ」
「でもこいつが……」
治実と桃太郎は顔を見合わせ、それからふんっと鼻を鳴らしました。
「まぁいいわ。とりあえず今日のところは許してやるけど、次に邪魔したら、あんたのお面全部びりびりに破ってやるからね!」
「ひぃっ!」
ふるえあがる真白を、治実が解放しました。真白はすごい勢いでアニメ顔の女の子のお面をかぶり、それからステテテッと女の子のような走りかたで逃げていきました。チッと治実が舌打ちします。
「あいつ、お面かぶると人格も性別も変わるのよね。ホント不気味なやつ」
「おい、それよりどうするよ? 続きするのか?」
桃太郎に聞かれて、治実ははぁっとため息をつきました。
「あいつのせいでしらけちゃったわ。あたしはパス」
「ふん、本当に猫みたいなやつだな。気まぐれというかなんというか。ま、おいらも今日はいいかな。決着はまた今度にしようぜ」
「治実たちはもうやめるにゃか。じゃあにゃあたちもお開きとしますにゃか」
「ふん、ホントは決着つけたいけど、桃太郎がいうならまたのお楽しみとしておくよ」
めいめい健闘をたたえるかのように、握手しだす四人を、ポン子たちは目をぱちくりさせながらながめているのでした。
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